「終の住処は?」シニアの住み替え4つのケース
60代から先の人生を考え、自宅をどうするか、考えてみませんか(画像:mayucolor / PIXTA)
仕事や子育てに一区切りがつく60代は、その後の「第2の人生」について考える時期。特に寿命が延び、長い老後を過ごす現代社会においては「お金と住まいの問題」がその人の幸福度を大きく左右します。
そこで住宅ジャーナリストで、マンショントレンド評論家・日下部理絵さんの著書『60代から終の住処を考えるための住まいのエンディングノート』から一部を抜粋し、自身が幸せな老後を送るため、また家族にも迷惑をかけないための「住まい計画」について考えます。
住まいの再検討のタイミングは60歳前後
人生100年時代と言われるようになった昨今、60代は気力・体力ともにまだまだ充実している人が多い印象です。
趣味や再就職など社会的活動をする一方で、老後はどこに住むのが望ましいのか、所有している自宅はどうしたらいいのか、いろいろ模索し始めるタイミングでもあります。
新築・中古を問わず、初めて家を購入することを一次取得というのに対して、現在すでに家を所有していて、新たに買い替えることを二次取得といいます。
国土交通省が公表する「住宅市場動向調査(令和4年度)」で住宅取得時の年齢を見ると、一次取得者はすべての住宅について30代が最も多いという結果が出ています。
興味深いのが、二次取得者は、注文住宅、分譲集合住宅(マンション)、中古戸建住宅、中古集合住宅において、60歳以上がいちばん多いという事実。
そのなかでも、建て替えを除く注文住宅は55.9%で最多、次に分譲マンションが52.6%と続きます。二次取得者の平均年齢は、注文住宅で59.9歳、分譲マンションで58.1歳とまさに60歳前後で買い替えをしている人が多いのです。
60歳といえば、定年退職して退職金が入ったり、子どもが独立して使わない部屋がでてきたり、住宅ローンが完済もしくは完済間近だったりと、さまざまなタイミングが重なる時期です。
住宅の買い替えを検討するのが60歳前後というのは、「長寿国日本」の新常識なのです。60歳前後の住み替えには、一戸建てや分譲マンションへの買い替え以外にも、UR賃貸住宅や、老人ホームなどへの入居の選択肢もあります。
今の家に一生住み続けるか、住み替えるか。今の家に住み続けるなら、大がかりな設備交換やリフォーム、もしくは建て替えなどの検討が必要でしょう。
住み替えるなら、持ち家か賃貸住宅か、戸建てかマンションか、わが家は売却するのか、貸すのか、資金はどうするかなど慎重に検討する必要があります。
住み替えで失敗すると、老後生活にも影響しかねません。それどころか子ども世代の生活にも影響を及ぼす可能性があります。
60代のうちに、充実したシニアライフを実現できる「終の住処」について考えておきましょう。
シニアの住み替えで想定される4つのケース
シニア世代が「住み替え」を選択する主な理由は、住まいのサイズの最適化や暮らしの利便性の追求です。一方、経済的な理由から「住居費」の見直しを目的とする人も。
ここでは、それぞれのケースの特徴と注意点を解説します。
【Case 1】今の家を売却して新築または中古住宅に買い替える
(画像:『60代から終の住処を考えるための住まいのエンディングノート』)
健康で資金に余裕のある方が選ぶのが、この買い替えのケース。
なかでも多いのが、戸建てからマンションへ買い替えるパターンです。
基本的にマンションはワンフロアの間取りなのでシニアが暮らしやすく、ダウンサイジングしやすいのが理由の1つ。
また、エレベーターがあり、セキュリティが充実しているのも魅力です。
ただし、築40年を超えるような築古のマンションの場合、フルリノベーションで見た目は綺麗になっていても、旧耐震基準だったり、管理状況がよくなかったりする物件もあり、後悔したという話も。この点もよく見極めて購入すべきです。
【Case 2】今の家を売却または賃貸に出して高齢者向け住宅に入居する
(画像:『60代から終の住処を考えるための住まいのエンディングノート』)
高齢者向け住宅とは、老人ホームのような介護施設やシニア向けの賃貸住宅、分譲マンションなど、高齢者を対象とした住まいの総称です。
介護施設は種類にもよりますが、介護や生活支援を受けて暮らせる高齢者施設を指します。
高齢者向け住宅には多くの種類があり、大きく「民間施設」と「公的施設」に分けられます。
サービスや介護体制は、それぞれの施設で特徴があり、介護度や認知症などの身体状態が、入居受け入れの基準になります。
入居費用もその施設によってさまざま。高齢者向け住宅は種類が多く、選び方がわからない……と不安を感じている方が多いのが現状です。
サービス内容や費用をよく把握し、住まなくなったわが家を売却や賃貸に出し費用を捻出できるかシミュレーションしてから住み替えしましょう。
賃貸なら「UR賃貸住宅」が人気
【Case 3】今の家を売却して賃貸住宅を借りる
(画像:『60代から終の住処を考えるための住まいのエンディングノート』)
不動産を所有すると、固定資産税などの維持費や修繕費がかかります。
これらの費用が老後資金を圧迫し、住み替えを考える人も。
賃貸なら家賃と管理費等の支払いだけで、修繕費は一般的に大家(オーナー)が負担するため、借主の負担が明確です。
ただし今の日本は60歳以上になると、賃貸住宅を借りにくいといわれています。
大家が60歳以上というだけで敬遠する傾向があるのと、保証会社の審査が60歳以上に対してシビアなのがその原因です。
国土交通省「家賃債務保証の現状」の調査結果において、保証会社の審査の通過率を比べると、40代は73.6%なのに対して、60代は49.1%という結果が…。
そこで人気なのが「UR賃貸住宅」です。
本人確認ができれば、年齢を理由に断られることはありません。保証人や保証料も不要。必要なのは敷金2カ月分だけで、礼金、仲介手数料、更新料もなし。費用面での負担が少ないのも魅力です。
ただし、築40年を超える築古物件も多く、リノベーション済みやタワーマンションなど人気の物件では競争率が高くなります。
愛着あるわが家に働いてもらう選択も
【Case 4】今の家を賃貸に出して別の賃貸住宅を借りる
(画像:『60代から終の住処を考えるための住まいのエンディングノート』)
今の家を賃貸に出して、得られた家賃収入の範囲におさまる家賃で、別の賃貸住宅を借りるケース。
すでに住宅ローンの返済が終わっており、人気の高いエリアに家をもつ人におすすめです。
また、自宅を売りに出したけれどなかなか売れない場合も、この方法に切り替えるのは一つの手。
空き家(空室)としては売れない家も、賃借人がいる投資物件(利回り物件)としてなら売れる可能性があります。
なお、エリアにもよりますが一戸建ての賃貸住宅は数が少なく、需要が高いことはあまり知られていません。あなたの愛着あるわが家に働いてもらい、老後資金のやりくりをするのも賢い選択です。
(日下部 理絵 : 住宅ジャーナリスト、マンショントレンド評論家)