事故に即応「突発的臨時列車」はなぜ運転できたか
「国鉄色」のE653系電車。2024年1月23日の東北新幹線停電時に東京―仙台間で運転された臨時快速列車に使われた(写真:Nozomi/PIXTA)
2024年の年明けは、元日に能登半島地震、そして2日に羽田空港での航空機衝突事故と、衝撃的な出来事が2日続きで発生した。
地震の影響で北陸新幹線や上越新幹線は大半の区間で一時運休となり、翌日には少しずつ運転を再開したものの、帰省のUターンラッシュのタイミングと重なり、予約していた列車に乗れない人が数多く出るという事態も起きた。
羽田空港でのJAL機と海上保安庁機の衝突事故は、その状況に輪をかけた。羽田空港は全滑走路が閉鎖。当日中に事故があったC滑走路以外は使用できるようになったものの、欠航する便は続出した。C滑走路が1月8日0時に運用を再開するまで、羽田空港は4本ある滑走路のうち3本で運用せざるをえなくなり、航空便の欠航が相次いだ。
羽田事故や新幹線停電で「突発的臨時列車」
さらに1月23日には、東北新幹線の上野―大宮間で架線の張力を調整するための機器が破損して架線が垂れ下がったところに列車が接触し停電が発生。東北新幹線は東京―仙台間、上越・北陸新幹線は東京―高崎間で終日不通となった。
これらのトラブルの際に注目されたのが、素早く設定された臨時列車の運転である。鉄道のダイヤは長期間かけて策定され、車両だけでなく乗務員のやりくりなども考慮した複雑なものだ。そこに日ごろは走っていない列車を短い時間で準備し、走らせることができたのはなぜか。
まずは1月23日の例から見てみよう。架線の破損はこの日の10時ごろに発生し、東京―高崎間と東京―仙台間は終日不通となった。新幹線が不通になると、問題となるのは代替ルートだ。東京―高崎間なら、時間はかかるが高崎線が利用できる。北陸方面なら、目的地によるが東海道新幹線で米原まで行き、在来線に乗り換えるという方法もある。
だが東北方面はそうはいかない。東北本線には現在、在来線特急は走っていない。常磐線も品川・東京・上野―仙台間を走る特急は3往復しかない。
そこで、移動手段を確保するために、在来線に臨時列車が運行された。
東京―仙台間に在来線の臨時快速
東北本線では、臨時の快速列車が東京―仙台間で運行された。種別は快速ではあるものの、停車駅は新幹線の停まる駅のみとされた。同線は電化方式が上野(東京)―黒磯間は直流、その先は交流に分かれている。日常的には東京―仙台間直通はもとより、黒磯駅をまたいで走る旅客列車は現在設定されていない。そこに、どうやって急きょ臨時列車を走らせることができたのか。
JR東日本に聞くと、この臨時列車は東京―黒磯間を管理する東京総合指令室と、黒磯―仙台間を管理する仙台総合指令室の両者で車両や乗務員、列車時刻を調整した上で設定したとのことだ。車両は特急型のE653系電車を使用した。直流電化区間と交流電化区間の両方を走行できる交直流電車なので直通運転が可能だ。
2022年の福島県沖地震で東北新幹線が不通になった際、東北本線で運転された臨時快速。東北新幹線停電時の臨時列車と同じ国鉄色のE653系も使われた(写真:Jun Kaida/PIXTA)
車両はつねにスタンバイしているわけではなく、使用できる車両を確認し手配したという。今回の場合は、交直流電車という汎用性の高い車両が空いていたから設定できたといえる。控えの乗務員もつねにいるわけではない。乗務員も、誰もがどの路線でも運転できるわけではない。臨時列車の運転を検討する線区に対して、その区間に乗務できる社員を手配しているとのことだ。
この臨時列車は東京駅15時33分発だった。JR東日本の発表によると、新幹線の架線破損が起きたのは9時58分。約5時間で、通常は直通が走らない区間の列車を準備したことになる。
また、新幹線の停電が起きた1月23日と翌24日は、常磐線の特急「ひたち」の一部列車も、臨時にいわき―仙台間を快速として延長運転した。
通常のダイヤでは、東京方面と仙台を結ぶ「ひたち」は1日3往復だ。臨時快速は、単に運転区間を延ばしただけではなく、複雑なやりくりで車両を確保した。
特急「ひたち」に使われるE657系電車(写真:railway memory/PIXTA)
「ひたち」臨時快速はどう運転したか
まず臨時でいわき―仙台間を運転することになったのは、下りの9号(品川10時45分発)だった。この列車は13時15分にいわき着、そこから仙台まで快速として運転した。
一方、上り仙台発の最初の臨時列車となったのは、通常はいわき始発(16時18分発)の22号で、仙台を13時25分発となった。9号の仙台着より早いため、この列車には9号の車両は使えない。ではどうしたのかというと、この列車には通常ダイヤで品川―仙台間を走る下りの3号(仙台12時29分着)の車両が充てられた。3号の車両は、本来は上り26号(仙台16時06分発)として品川に折り返すため、そのままでは26号に使う車両がなくなってしまうが、ここに臨時快速として仙台に到着した9号の車両を充当した。
さらに、臨時で仙台まで延長した下り25号(品川18時45分発)の車両を、翌日の上り8号(仙台6時46分発、通常はいわき始発9時20分)に使用した。
この快速列車のダイヤは、あらかじめ決まっておらず、新幹線の長時間の運転見合わせを受けて対応した。だが、臨時運転の前例はあった。2021年2月、2022年3月に発生した福島県沖地震の際にも同様の対応を行っていた。その経験を活かし、「迅速に対応できたと考えております」とJR東日本は説明する。
一方、1月2日の羽田空港事故への対応では、JR各社が普通車全席自由席(グリーン車などは車内で購入)の臨時列車を出した。JR東日本・北海道は、新函館北斗―東京間で臨時「はやて」を運行し、JR北海道はその「はやて」に接続する特急を走らせた。またJR東日本・西日本は、北陸新幹線で臨時「はくたか」を金沢―東京間で運行した。
また、東海道新幹線では臨時「のぞみ」を東京―新大阪間で、また山陽新幹線では臨時「ひかり」を博多―新大阪間で運行した。とくに目立ったのは東海道新幹線である。1月2日から5日までは普通車全席自由席の「のぞみ」を運行し、6日と7日の「のぞみ」には指定席も設定された。
羽田事故当日、終電後の臨時「のぞみ」
列車のダイヤ、車両の運用、乗務員の手配などは事前に決まっており、そう簡単に臨時列車は出せないが、東海道新幹線は1時間当たり最大12本の「のぞみ」を運行できるようになっており、このパターンの中で臨時列車を走らせることはできる。だが、羽田空港の事故発生当日は、通常の終電後に臨時列車を走らせた。これはあらかじめ設定されていたであろう「のぞみ12本ダイヤ」のパターンに入っていない。
羽田空港事故の際、東海道新幹線は通常の終電後に臨時の「のぞみ」を運行した(撮影:尾形文繁)
JR東海によると、この終電後の臨時ダイヤは意識してつくられたものだという。「航空機による旅程を変更されたお客様の受け皿となれるように、羽田空港や伊丹空港からの移動時間も勘案した上で運転時刻を設定した」ということだ。車両や人員の手配については、「ケースバイケースであり手配が難しい場合もあります」というものの、担当する乗務員、使用可能な車両、車両整備に必要な体制の確保を各関係箇所と調整して対応しているという。つまり、突発的な事態でもやりくりできる体制をつくっているといえる。
新幹線にせよ在来線にせよ、各社はできる範囲でそのつど、前例も意識しつつ早急な対応をしてきた。そのような積み重ねが、臨機応変に臨時列車を運転できる体制につながっているのだ。
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(小林 拓矢 : フリーライター)