私は「5年間30万円の記載ミス」で都知事を辞任した…裏金問題での「国会議員の開き直り」に抱く強烈な違和感
■政府の要職から安倍派幹部の名前が消えた
昨年末以来、自民党派閥のパーティー券問題で国政が揺れている。安倍派の5人衆と言われる松野博一官房長官、西村康稔経産相、萩生田光一政調会長、高木毅国対委員長、世耕弘成参院幹事長が役職を辞任するなど、政府の要職から安倍派の名前が消えた。
検察は、捜査の結果、派閥の会計責任者を起訴したが、安倍派幹部の国会議員については不問に付した。
岸田首相は、1月23日に岸田派の解散を断行し、安倍派、二階派、森山派も同様に解散した。1月25日には、岸田総裁が本部長を務める自民党政治刷新本部が「中間とりまとめ」を公表。派閥については解消して「政策集団」にすること、政治資金については政策集団の収支報告書に外部監査を導入することなどが、その内容である。
■政治家も責任を取って辞任すべき
1月26日に通常国会が召集され、パーティー券収入の還流・不記載問題について、野党から自民党への厳しい追及が続いた。しかし、全容を解明せよという国民の声が強まり、2月29日、3月1日に衆議院政治倫理審査会(政倫審)が公開で開催された。
岸田首相が自ら政倫審に出席するという決断を下したことによって、公開での開会が決まったのである。予算案の期日内成立を確実なものにするため、岸田首相が動いたと言えよう。
しかし、出席した岸田首相、二階派の武田元総務大臣、西村、松野、塩谷、高木各氏の発言は、従来の説明の繰り返しであり、新たな事実は明らかにならなかった。
1000万円を超えるようなキックバックの不記載で、会計責任者のみの処分で済むというのは、私には納得がいかない。
私は、国会議員時代の政治資金「収入」については全て正しく記載したが、「支出」について5年間で30万円の記載ミスがあった。そのことの責任を問われて、都知事を辞任することになった。会計責任者のミスとはいえ、私自身が責任をとったのである。
■「ある意味、正直に書きすぎた」
小泉純一郎首相の秘書だった飯島勲と元検事の宗像紀夫が以下のような対談をしている。
【飯島】これまでの政治資金の問題といえば「入り」の問題を指摘されることが多かったのに対し、舛添さんの件はその部分に問題がない。珍しいケースです。また、購入した書籍の一覧や会食の調査結果を見ると、舛添さんはむしろ細かく書きすぎているほど。
【宗像】記載と裏付けの領収書をつきあわせれば詳細な内容が判明したものと思われ、虚偽記載などとは違って嘘はなく、むしろきちっとやっていたという印象ですね。
【飯島】政治資金規正法に引っかからないようにある種の“テクニック”でうまくやる人たちが多いなかで、ある意味、正直に書きすぎたのが舛添さんのケース。いわば「透明性100%」ですよ(笑)。
こんなに細かく書けば、当然、逐一指摘される。舛添さんの政治資金報告書をスタッフとしてチェックする立場だったら、「バカ正直に書きやがって」と書き直させたかもしれない。(『Hanada』2016年8月号)
■「5年間で30万円」でも辞任したが…
1円の単位まで、全ての支出を記載すれば、会計責任者が1000件のうち1〜2件をミスする可能性はある。その金額が5年間で30万円のケースと、1千万円を超える金額の支出明細を全く記載しないのと、どちらのほうが、罪が重いのか。前者のケースでは政治家が職を辞し、後者(今回)では政治家は責任をとらない。自民党は処分もしない。
政倫審での審議と平行して、与党は職権で予算委員会での採決を決め、3月2日に衆議院で予算案を通過させた。これで、参議院の対応がどうであれ、予算案の年度内成立が決まった。
派閥解散、政倫審出席決定は岸田の独断専行であり、そのリーダーシップを評価する声もあるが、首相のこの行動に対する自民党内の反発も強まっている。
■内閣支持率は過去最低の22.9%
岸田内閣の支持率は低迷を続けている。3月2、3日に行われたJNNの世論調査では、内閣支持率は22.9(−0.8)%で過去最低を更新した。不支持率は74.4(+0.2)%である。今後の政権運営は容易ではなかろう。
2月4日に行われた前橋市長選挙では、立憲民主党など野党が支援した小川晶候補が、自公が推薦した現職の山本龍市長に勝った。6万486票vs4万6387票という大差の勝利である。保守王国群馬県で、この結果だ。
また、同じ日に行われた京都市長選では、自民党、立憲民主党、公明党、国民民主党が推薦した元官房副長官の松井孝治候補が当選したが、共産党が支援した2位の福山和人候補との差は僅差であった。17万7454票vs16万1203票である。
4月28日には、衆議院の長崎3区、東京15区、島根1区で補選が行われる。自民党は、長崎3区は不戦敗を決め、島根1区は自民党が勝利する見通しを立て、東京15区は候補者を公募する予定である。この3補選の結果によっては、岸田降ろしの風が吹くであろう。
■「大臣在任中にパーティーをしない」かつては守られていた
2001年1月6日に閣議決定された「国務大臣、副大臣及び大臣政務官規範」には、「(5)パーティーの開催自粛」という項目があり、「政治資金の調達を目的とするパーティーで、国民の疑惑を招きかねないような大規模なものの開催は自粛する」と記されている。
私は、自民党政権の2007年〜2009年、安倍内閣、福田内閣、麻生内閣と3首相の下で閣僚を務めたが、「閣僚は政治資金パーティーを開かない」というルールを厳守した。
安倍、福田内閣では、岸田氏は内閣特命大臣で沖縄・北方対策、科学技術などを担当していた。私は厚生労働大臣であった。
当時、私はパーティーを開催したことはないし、岸田も含め、開いた大臣はいなかったと記憶する。
■岸田首相が率先して破っている
ところが、今は閣僚のみならず、首相までもが、在任中に何度もパーティーを開催している。
2022年には、収入1000万円以上の政治資金パーティーが合計28回も開かれていた。
内訳は、岸田首相が7回で収入が1億4871万円、林外相が6回で8150万円、加藤厚労相が2回で5884万円、高市経済安全保障相が1回で3987万円、河野デジタル相が1回で3829万円、斉藤法相が2482万円、鈴木財務相が1回で2113万円である。
なんと岸田首相が最多回数なのである。
私は、この点について唖然としている。いつから自民党は大臣規範を守らなくなったのであろうか。
■安倍長期政権の負の遺産なのか
12月26日の衆議院予算委員会で、立憲民主党の野田元首相はこの点を追求したが、岸田首相は「勉強会だ。国民の疑惑を招きかねないということには当たらない」と述べた。
また、「大臣規範は、国民の疑惑を招きかねないという点について国務大臣が判断をする、こうしたものであるというのが政府の従来の見解であったと認識している」と答えた。
2月29日の政倫審でも、野田は同じ問題を提起し、岸田は遂に「在任中は政治資金パーティーを開かない」と答弁したのである。
大臣規範の形骸化もまた、安倍長期政権の負の遺産なのであろうか。
自民党派閥のパーティー券の還流問題ほど注目されたり議論されたりしないが、今後の検討課題として「政策活動費」の問題がある。
政策活動費とは、政党や政党支部から党幹部個人宛に支給されるカネである。支払う方の政党の政治資金収支報告書には、支給された政治家の名前と金額が記載される。だが、受け取った政治家個人には使途を公開する義務はない。
■野党も政策活動費を受け取っている
私も、参議院自民党政策審議会長として党の役員であった時期がある。だが、その時でも政策活動費は受け取っていない。やはり幹事長などが党勢拡大のために使う資金であろう。
ちなみに幹部が政策活動費を受け取っているのは野党も同じで、それだけに国会でも野党が与党を攻撃する材料にはなっていない。
2020年に政策活動費を受け取った主な国会議員と金額は、以下の通りである。
自民党は、茂木俊充幹事長が9億7150万円、渡辺博道経理局長が1億3250万円、遠藤利明総務会長が7100万円、麻生太郎副総裁が6000万円、関口昌一参議院議員会長が5350万円、高木毅国対委員長が3470万円、世耕弘成参議院幹事長が2000万円である。
立憲民主党は、泉健太代表が5000万円、西村智奈美下案次長が5000万円、日本維新の会は、藤田文武幹事長が5057万円、国民民主党は、榛葉賀津也幹事長が6600万円である。
■「極秘裏に野党幹部をもてなす」ために使われている
政策活動費は、党勢拡大、政策立案などに使われており、公表することによって政治活動が萎縮することが危惧されている。例えば、国会対策のために、自民党が極秘裏に野党幹部をもてなすようなケースでは、相手にも迷惑がかかるので公表しないのが当然だろう。
選挙の時には、幹事長が候補者に陣中見舞いを持参することになっており、それは、候補者の状況に応じて金額を変えるので、やはり公表しないほうがよいということになる。
要するに、政治には「秘密のカネ」が必要である。「野党の買収」などがその典型で、こういうカネは表には出せない。CIAなどの諜報機関が秘密工作の内容を明らかにしないのと同じである。
私が国会対策として野党と会食したときには、私には政策活動費を支給されていなかったので、党の国会対策費から資金を捻出してもらったと記憶する。
幹部以外の議員は、毎月100万円の文書通信交通費が国から支給される。自民党の場合、半分くらいは党が取り上げ、残りが議員に渡される。これが、主として領収書をもらえない政治工作に使われる。工作資金で私腹を肥やす議員はほとんどいないと思う。
政治には領収書のとれないカネが必要であるが、それをどう準備するのか。内閣官房機密費がその典型であるが、公開性と機密性のバランスをどうとるか、そしてそれを認めるかは国民の政治的成熟さにもよる。すべて公開ということになれば、金持ちしか政治家になれないことになる。
----------
舛添 要一(ますぞえ・よういち)
国際政治学者、前東京都知事
1948年、福岡県生まれ。71年、東京大学法学部政治学科卒業。パリ、ジュネーブ、ミュンヘンでヨーロッパ外交史を研究。東京大学教養学部政治学助教授を経て政界へ。2001年参議院議員(自民党)に初当選後、厚生労働大臣(安倍内閣、福田内閣、麻生内閣)、都知事を歴任。『ヒトラーの正体』『ムッソリーニの正体』『スターリンの正体』(すべて小学館新書)、『都知事失格』(小学館)など著書多数。
----------
(国際政治学者、前東京都知事 舛添 要一)