脳の判断にバイアスがかかってしまう「認知バイアス」。上手に活用するスキルをご紹介します(写真:Graphs/PIXTA)

「認知バイアス」という言葉をご存じでしょうか?

ある特定の状況下で起こる認知の「偏り」や「歪み」によって、脳の判断にバイアスがかかってしまうことをいいます。それにより、判断を誤って失敗することも……。

そんな「認知バイアス」の罠にはまることなく、上手に活用するスキルをご紹介したのが神岡真司著『脳のクセを徹底活用!「認知バイアス」最強心理スキル45』。本書より、ビジネスや日常で使える「認知バイアス」の活用法を、3回に分けてご紹介します。

自分にだけいつも親切にしてもらう

■ラベリング効果、一貫性の原理

人は誰でも、自尊心を持っています。いつも否定的に扱われていると、「どうせバカだよ」「俺はできそこないさ」などと、ヤサぐれていきます。だんだんミスを気にしなくなり、愚かな行動を取っても平気になっていきます。

心理学ではこれを「ゴーレム効果」と呼んでいます。人を誹謗するのはよくないのです。モラハラは人の心にダメージを与えます。

では、いつもほめている、たたえている場合はどうでしょうか。

人はほめすぎると増長し、評価者を小バカにするようになることもあり、適度なレッテル貼りでほめていると、よい意味でこちらの期待に沿うようになります。

部下からの仕事が早く上がってきた時には、「仕事が速いね」とタイミングよくほめてあげます。すると、部下の仕事の効率がどんどん上がっていきます。

同僚にパソコン操作を教えてもらう際には、「パソコンの達人だものね」などとひと言添えておくと、パソコン操作で困った時、いつでも頼みやすくなっていきます。

新婚当初は、奥さんの手料理がイマイチかもしれませんが、何か一品でも「これはうまいね」などとほめ続けていると、奥さんの料理の腕が上がっていきます。

なぜよい結果につながるのか

このように、同じレッテルを貼り続けてほめる「ラベリング効果」はよく知られていますが、なぜ、よい結果へとつながるのでしょうか。

自尊心がくすぐられて快感――ということもありますが、「よい人物像」のレッテルを貼られると、その人物像を継続して演じたいという「一貫性の原理」がはたらくからです。つまり、誰かによいイメージのレッテルを貼られると、つねにそういうよいイメージの人物像を演じて、レッテル通りに対応したくなるのが人間なのです。

「いつもご親切にありがとうございます」などと感謝を伝えていると、相手は自分に、つねに親切に対応してくれるようにもなるのです。

では、こうした人たちへ、こちらの要求水準をもう一段アップさせたい時には、どうすればよいのでしょうか。

相手のよいレッテルを明示してから、「だけど、〇〇の場合は、さすがのきみでも無理だよね?」などと、ほんの少し見くびるような質問を付け加えるのです。

「きみは仕事が速いけど、さすがに〇〇の案件だと、時間がかかるよな?」
「きみはパソコン操作の達人だけど、こういったケースの操作は難しいよね?」
「きみは料理が上手だけど、あと一品、中華風総菜を増やすのは無理かな?」
「いつものご親切には大感謝ですが、さすがにこういうのは無理でしょうか?」

こんな言い方をされると、ちょっぴり反発心が湧くでしょう。すると、「いやいや、そんなの大丈夫」とばかりに請け合ってくれるはずです。

一貫性の原理」に背中を押されるからです。よいレッテルを貼られているので、OKしないと沽券に関わるわけです。


(イラスト図版:山崎平太/ヘイタデザイン)

希望通りワンランクアップの要求が満たされたなら、大いに感激し、激賞してあげることを忘れないようにしましょう。

まとめ 「よい人物像」のレッテルを人は維持したくなる。

刺激を与えて認知を揺るがす

■ゼイガルニク効果、カラーバス効果、カクテルパーティー効果、カリギュラ効果

人の認知は、ちょっとした刺激でさまざまなバイアスが生じます。

テレビドラマを夢中で鑑賞中、誰かに中断されると物語のその後が大いに気になります。ドラマの佳境で「次回に続く」となると、次回も見逃せなくなります。

問題を解いている最中に制限時間がくると、後あとまで、その問題が気になります。どうすれば正解にたどり着けるのか、あれこれ考えてしまうのです。

突然恋人から別れを告げられると、その恋人を忘れられずに、ストーカーになるケースもあります。交際の突然の中断でプライドを傷つけられたからです。

人は達成できた事柄よりも、達成できなかった事柄の記憶が執拗に残ります。途中で挫折したり、中断させられた場合も同じです。これが「ゼイガルニク効果」です。達成できなかった事柄への執着を招きます。意向が制限されて「心理的リアクタンス(抵抗・反発)」を起こしたのです。

この「ゼイガルニク効果」は人の気をそそるのに適しています。

マーケティングでは、電子書籍を途中まで試し読みさせて、続きは有料登録しないと読ませないようにしたり、短いテレビCMで面白い動画を見せておき「続きはWebで」などと、告知して終わるテクニックでも使われています。

デートの別れ際に「大事なことを伝えたいけど、それは今度会った時にね」などと告げられると、早く聞きたくて次回のデートが待ち遠しくなります。ちょっとした「中断の設定」で、相手の気を引く効果は強化されるのです。

また、自分に気にかかることがあると、関連する事柄がよく目に留まります。次に買いたいと思うクルマがあると、街中で、そのクルマばかりがやたらと目につきます。

あるいは、太ったことを気にする人は、「脂肪」「痩身」「糖類ゼロ」「〇△ダイエット」などの言葉が飛び込んできやすいでしょう。ゆえに、広告には商品名より、そんなキーワードばかりを使いがちなのです。


(イラスト図版:山崎平太/ヘイタデザイン)

特定の色が目につく現象に由来

このように無意識に「選択的知覚」がはたらくケースを「カラーバス効果」と呼びます。「色を浴びる」という意味で、特定の色が目につく現象が由来なのです。

なお、「選択的知覚」のうちでは、喧噪のなかでも、自分の興味のある事柄や自分に関連する言葉が聞き取れてしまう「カクテルパーティー効果」という現象もよく知られます。「○○ さんはケチだよな」などと小声で陰口をたたいたつもりが、意外にも本人の耳に届いていたりするケースもあるので、気をつけないといけません。


何かを禁止する――というのも心理的リアクタンスが生じるため、認知にストレスがかかります。ゆえに禁止されたことをかえってやりたくなります。

「〇〇さんは遊び人だから、誘われてもデートしちゃ駄目よ」などと吹き込まれると、かえって興味津々になって、誘いに乗ってみたくなるでしょう。

このように、何かを禁止するのが「カリギュラ効果」です。

かつてローマの暴君を描いた映画「カリギュラ」が、その内容が残酷すぎるとしてアメリカボストン市などで上映禁止となり、多数の市民が、隣の市まで観に行ったことに由来する認知バイアスなのです。

まとめ 中断、禁止は興味をそそる。

(神岡 真司 : ビジネス心理研究家 日本心理パワー研究所主宰)