会社を辞めずに、会社にバレずに起業や副業をする際のコツをご紹介します(写真:jessie/PIXTA)

会社員が起業活動や副業を始めようと思うとなかなかハードルが高いもの。実際、いまだに99%の会社は副業禁止だそうです。起業の学校を運営し、約4000名の事業立ち上げのサポートをしてきた黒石健太郎さんの著書、『成功確率が格段に上がる起業の準備』より一部抜粋・再構成のうえ、勤務しながら起業するベストな方法についてお伝えします。

会社を辞めず、働き続けながらはじめる

例えば、大手学習塾で塾講師をしてきた人が、子育て世代が多く住む住宅地の駅前で学習塾を立ち上げるとします。この方がいきなり退職し、退職金を物件の頭金や内装費用に使ってしまったらどうなるでしょう? 最初の1年間、まったくお客さまがつかず、赤字の中で試行錯誤を繰り返す日々は、大変なストレスになりそうだと感じませんか?

特に、生徒からの評判が売上を大きく左右する学習塾という事業の場合、合格実績を基に口コミが広がり、売上がしっかりつくようになるまで、2、3年かかることさえあります。

その間、ストレスや焦りによる過労から、精神的にも肉体的にも身体を壊してしまう可能性すらあります。はたまた、起業を途中で諦めてしまう可能性もあるでしょう。

ただ、会社の休日を利用して自宅で塾を立ち上げるのなら、その塾が失敗したとしても、会社員としての給与があるため、生活が脅かされることはありません。物件を借りる際の頭金や内装費用もかからないため、収益化ができる前の段階で大きくお金を失うこともないでしょう。

大事な準備の1点目は、「会社を辞めない」ことです。

今、無職の方は、アルバイトでもいいので最低限の収入を確保する体制を作っておきましょう。そうすることで、手許資金が減り続ける不安感を持たずに進めることができます。

ここで大事なのは、「最低限の生活が脅かされないこと」です。

主婦・主夫などの方であれば、あえて再就職などはせず、今の環境をフル活用して起業準備活動を進めていくと、お金と時間の両方を確保できていいのです。

勤務先には副業・起業の許諾を取る?

「会社を辞めずに起業しよう」と言いましたが、あなたは今の仕事環境で、それをはじめていくことはできそうでしょうか? おそらく、難しいと感じているのではないかと思います。

難しいと感じる理由の1つに、許諾の問題があります。

これだけ国が旗を振って、「副業を促進しよう」と言っても、転職サイト「リクナビNEXT」を見てみると、「副業OK」にチェックが付いている会社は、全掲載企業の中で1%以下(2023年5月時点)。99%の会社は副業禁止となっています。

当然、副業OKの会社に勤務されている方は、特段問題ないかと思います。ただ、99%が禁止ということなので、おそらくあなたの勤務先も「副業NG」であり、その中でどのように起業活動を進めようか悩んでいるのではないでしょうか?

対応策として考えられる選択肢は、転職するか、許諾を取るか、無視するか、ですよね。であれば、まずは「副業OK」な会社に転職するという選択肢があるかと思います。

ただ、「副業OK」と明確に宣言している会社は、一部の人気大手企業か急成長ベンチャー企業がほとんど。人気企業のため応募の倍率も高く、多くの方にとっては選択肢に入らないのではないでしょうか?

現実的な選択肢としてありうるのは、知人・友人に経営者がいれば、独立できるまでの期間、雇ってもらえないか依頼すること。ただ、そのような知人・友人がいる方は、少ないかもしれません。

次に、正社員転職を諦めて、アルバイトに切り替えるという選択肢もあります。

ただ、雇用形態が変わると、収入・待遇が大きく変わる可能性もあります。すでに、何があっても確実に起業・独立すると決めている方にとってはいい選択肢となりますが、「成功したら、起業・独立したい」と思っている状態の方にとっては、なかなか踏み切れない選択肢かもしれません。

会社側にもメリットがあると思わせるストーリー

では、今働いている会社で、許諾を取るにはどうすればいいのでしょうか? 会社が副業を禁止している趣旨・目的を踏まえた上で、会社にできるだけ価値がある、許諾ストーリーを作ることが大事となります。

会社が副業を禁止する趣旨・目的とは、副業を通じて秘密裏に会社の資源を流出されたくない、競合されたくない、もしくは副業の延長線で離職されたくないことにあります。ですから、会社の資源を使わず、競合せずに、目の前の仕事を真面目にやり続ける前提であれば、会社側が副業を「否定」する理由はなくなります。

では、会社があなたにわざわざ副業を「許諾」する価値を見出すには、どのようなストーリーが考えられるでしょうか?

会社にとっての価値は、コストが下がるか、売上が上がるか、この2つになります。

例えば、皆さんが「1カ月後に退職する」といきなり会社へ伝えた場合、会社にはどのようなことが生じそうでしょうか?

退職金を支払い、さらには次の人を広告やエージェントを使って採用し、その人が機能するようになるまで育成工数をかけていく必要が生じます。つまり、会社からするとコストが一気に増えてしまうわけです。

その前提に立つと、例えば「子どもが塾に行く必要が出てきて、今の給与では成り立たなくなりました。本当は今の会社も仕事も好きなので辞めたくないのですが、今のままでは給与がいいところに転職せざるを得ません。昇給を要望するのも申し訳ないので、副業の許諾だけ頂けないでしょうか」というストーリーなどが考えられます。

これは、離職によって会社に生じるコストを下げるためのストーリーとなっています。理由を、「親の介護」や「結婚資金」などに入れ替えると、いろんな方に使えるのではないでしょうか。

また、例えばあなたが社内で新規事業を立ち上げ、既存事業の売上・利益を超える事業成長を作り出した場合、経営者はとびきり嬉しいのではないでしょうか。

ただ、現実には、そんな簡単に成功する新規事業など生まれませんし、新規事業の提案自体、なかなか会社の承認レベルに到達しません。しかし、だからこそ、「本来、会社でやりたい新規事業なのですが、実績データがないと社内起案も通らないため、まずは副業という位置付けで個人のお金で仮説検証をさせて頂きたい。だから副業承認を頂けないでしょうか」というストーリーを立てます。

これは、会社が将来の新規事業開発を通じた売上拡大につながる可能性を感じながらも、自社のコスト持ち出しゼロで仮説検証できるというストーリーになっています。

では、どんなストーリーを作っても、「うちの会社では許諾がおりない」という方はどうすればいいのでしょう? 

その場合は、諦めるか無視するかしかありません。

「会社の規則を無視しましょう」と私が提案することはありませんが、やむを得ずそのような選択肢を選ぶ方も現実には多数います。

しかし、会社の規則を無視した場合、最悪、解雇になるかもしれません。起業・独立を考えている方にとっては、「元々辞めようと思っていたから問題ない」という方も多いようですが、解雇されることを不安に思う方もいるでしょう。

では、どうすれば、バレずに働きながら起業できるのでしょうか?

どうしても許諾を得られない場合は

ここで1つ考えて欲しいことがあります。

最近、あなたが新しく使いはじめたサービス、最近購入した商品は、何でしょうか? また、使っていなくても、「知った」商品・サービスは何でしょうか? 思いつくものをすべてあげてみてください。

その中に、どこの誰かわからない個人が、会社で働きながらの起業活動で提供している商品・サービスは含まれているでしょうか?

さらには、その個人の方が、立ち上げて1カ月以内の商品・サービスはあったでしょうか? おそらく、まったく含まれていないのではないかと思います。

基本的に、世の中のほとんどのサービスは、誰にも知られていません。どの会社も、全力で知ってもらおうと努力しているにもかかわらず、誰にも知られていないのです。


私も、会社に勤務していた時代に、働きながら立ち上げていた教育サービスで、世田谷区に新聞折込チラシを4万枚、2回配布したことがありました。しかし、知人・友人で「チラシ見たよ」と言ってくれた人は皆無でした。

つまり、働きながら起業したところで、個人ができるレベルで大々的にプロモーションしても、よっぽど大成功しない限り、そもそもバレようがないという現実があります。

ただ、世の中には、「バレるリスクすら、絶対におかしたくない」という方がいらっしゃるようです。そういった方は、どういう方法で、働きながら起業をしているのでしょうか?

王道パターンは、最初から法人を立ち上げてしまい、個人名ではなく、自身が立ち上げた会社の名前で起業活動をするという方法です。その会社から、自身への役員報酬を0円に設定してさえいれば、個人所得は1円も変わりませんので、税金の支払いのタイミングなどで会社にバレることはありません。

どうしても不安に感じる場合は、税理士に確認してみましょう。

(黒石 健太郎 : ウィルフ代表取締役社長、ハワーズ代表取締役社長 )