「なぜか相手に話が伝わらない人」の悪いクセ
懸命に話しているのに、情報が間違って伝わってしまいがちな人には、話し方に「相手を混乱させる悪いクセ」がついているかもしれません(写真:jessie/PIXTA)
あなたの周りに、わかりにくい説明をする人はいませんか? 懸命に話しているのに、いまいち伝わらなかったり、情報が間違って伝わってしまいがちな人には、話し方に「相手を混乱させる悪いクセ」がついていることがあります。本稿では、『賢い人のとにかく伝わる説明100式』より、一部抜粋・再構成のうえ、どうすれば「伝わる説明」になるのか、ポイントをご紹介します。
語順であいまいさを排除する
いきなりですが、
「眼鏡をかけた子どもを連れている女性」
と聞いて、あなたはどちらの光景を思い浮かべますか?
『賢い人のとにかく伝わる説明100式』P.3より
眼鏡をかけているのは子どもなのか、それとも女性なのか、どちらの意味にも受け取ることができます。でも、おそらく多くの人は眼鏡をかけているのは子どもだと受け取るでしょう。
私たちは多くの場合、修飾語はすぐ後ろの言葉にかかると解釈しています。
ですから、「眼鏡をかけた」という修飾語が、直後にある「子ども」にかかっていると解釈してしまうのです。
もし眼鏡をかけているのが女性だとしたら、「修飾語は直後にある言葉にかかる」という点を意識して、次のように語順を変えるときちんと伝わります。
「子どもを連れている眼鏡をかけた女性」
このように、語順を変えるだけで正しく意味が伝わる説明になるのです。
こんなこともありました。ある日、夕方のニュースを見ていたときのことです。
「およそ20キロのフグ15匹を桶に入れて、神宮に奉納した」と聞いて、私は一瞬「巨大なフグ」を想像してしまいました。
20キロもするようなフグなんて、この世の中にはいないので、「15匹分で20キロなのだな」とすぐにわかりましたが、なんとも心を惑わされるニュースでした。
「およそ20キロのフグ15匹」は「およそ20キロのフグ」+「15匹」とも読み取れるし、「およそ20キロの」+「フグ15匹」とも読み取れます。つまり、複数の意味に解釈することができる「あいまいさ」があるのです。
この場合も、誤解なく伝えるには、語順をこのように変えればいいのです。
「フグ15匹およそ20キロを桶に入れて、神宮に奉納した」
これならスッキリと意味が伝わります。
サイズ感は皆がよく知っているもので伝える
ビジネスでは、説明をするとき、「数字を使え」と言われませんか。「人が大勢集まりました」というよりも、「人が1000名集まりました」というほうが、わかりやすいですし、具体的です。
では、こんな場合はどうでしょうか。
「煙突の高さは22メートルです」
どれほどの高さなのか、イメージできましたか。おそらく、「22メートルと言われても、高いのか、そうでもないのか、よくわからない」と感じたのではないでしょうか。比較対象となるものがないので、数字だけ伝えられてもイメージしづらいのです。
そういうときには、次のように 「誰でもイメージしやすいもの」を使ってサイズ感を伝えると、わかりやすくなります。
「煙突の高さは22メートル、7階建てのビルと同じ位の高さです」
「7階建てのビル」なら、誰でもおよその高さをイメージできるのではないでしょうか。このように、イメージしづらい数字は、皆がよく知っているものに置き換えて補足すると、伝わる説明になります。
その他にも「厚さ0.1ミリメートル」は「コピー用紙と同じ位の厚さ」、「直径0.8マイクロメートル」は「髪の太さの100分の1」などのように、身近で実物を確認できるものを使ってサイズ感を示すと、伝わりやすくなります。そのためには、ビル1階分の高さ、コピー用紙の厚さ、髪の太さなどの基本的な数字を調べる必要があります。
インターネットで検索すると、さまざまな情報が出てきます。公共の機関や企業が出している情報を利用するのがおすすめです。
なお、数字と出典をまとめたリストを作っておくと便利です。
数字はイメージできるものに置き換える
「厚み」「高さ」「広さ」など、「実物」で確認できるものを使ってサイズ感を示すことができるものがある一方、「実物」がない場合はどうすればいいでしょうか。
例えば、台風の風速を例にしてみましょう。
「平均風速25メートル/秒の非常に強い風」と聞いて、どれくらいの強さかイメージできますか。「平均風速15メートル/秒の風」と比べて、どれくらい違うのかと言われても、なかなか答えづらいですよね。もしかしたら、これまでの経験やニュースを見て、「風速25メートル/秒ってこういう感じなんだ」程度にわかる人はいるかもしれません。
でも、次のように目安があるとイメージしやすいですよね。
「風速15メートル/秒だと、人は風に向かって歩けない。一部の人は転倒する」
「風速25メートル/秒だと、人は何かにつかまらないと立てない」
雨量でも、「何ミリの雨が降る」と数字だけを伝えられるより、「1日で1カ月分の雨が降るのと同じ」と伝えられたほうが、ピンときませんか。
私の住んでいる三重県には大規模な風力発電所があります。この発電所の出力を伝えるときに「9万5千キロワットです」と数字で示されても、比較対象となる目安がないと、どれほどの規模なのかイメージしにくいですよね。そこで、発電所のパンフレットには「一般家庭約5万5千世帯の電力をまかなえる」と記載されています。「一般家庭」を目安にすることで、規模の大きさが伝わりやすくなっています。
この「目安」となる数字についても、先ほど述べた通り、インターネットなどを使って、公共の機関や企業が出している情報をまとめておくと便利です。算出根拠もあわせて示しておきましょう。
以下に「数字のたとえに使える主な事例」を載せました。参考にしてください。
『賢い人のとにかく伝わる説明100式』P.82より
複雑なことは分解してから、似たようなものに置き換える
難しい専門用語を、ズバリとひと言でわかりやすい言葉にたとえることができないときもあります。そんなときには、専門用語の示す内容を分解して、それぞれを似たようなものに置き換えると、わかりやすくなります。
例えば、ソフトコンタクトレンズを例にして考えてみましょう。
ソフトコンタクトレンズを選ぶときの指標の1つに、「酸素透過率」があります。一般的に、「酸素透過率」の高いものを選ぶのがいいと言われています。でも、初めてコンタクトレンズを購入する人にとって、「酸素透過率」は耳慣れない言葉です。なぜ「酸素透過率」が高いほうがいいのか、その理由も想像できないでしょう。
そんなときに、「こちらのコンタクトレンズは酸素透過率が○○で……」などと説明しても、スペックのアピールになるだけで、お客様には理解できません。そこで、コンタクトレンズの販売に携わっていた私の知人は、こんな風に伝え方を工夫していたそうです。
「瞳も呼吸をしています。コンタクトレンズをつけることは、その呼吸している瞳にマスクをするような感じです。それって、息苦しいですよね。でも、酸素をたくさん通すことのできるコンタクトレンズなら、呼吸しやすくなります」
マスクをしたら多少なりとも息苦しさを感じることは、ほとんどの人が知っています。だから、こんな風に説明してもらえたら、イメージしやすいのではないでしょうか。
「酸素透過率」という言葉の背景には、「角膜(黒目の部分を覆っている膜)は酸素を使って新陳代謝をしている」という要素と、「ソフトコンタクトレンズは角膜を覆う」という要素があります。「角膜は酸素を使って新陳代謝をしている」を「呼吸」に置き換え、「ソフトコンタクトレンズは角膜を覆う」を「マスクをする」に置き換えたことで、「酸素透過率」という専門用語がわかりやすい表現になったのです。
このように、専門的な内容を、構成する「要素」に分解してから、それぞれの要素を身近なものにたとえると、専門用語を知らない人にも伝わる説明になります。
「正しさ」よりも「わかりやすさ」にこだわる
専門用語を噛み砕いて説明しようとして陥るのが、「説明しすぎの罠」 です。わかりやすく説明しようとして、あれもこれもと説明しすぎてしまい、かえってわかりづらくなることがあります。
なぜ説明しすぎてしまうのでしょうか。
それは、「正しさ」にこだわっているからです。何かにたとえようとしても、「厳密に言うと、正確に表現しているとは言えない」と思ってしまい、どんどん補足説明をしたくなるのです。専門家であればあるほど、「正しさ」にこだわってしまいがちです。
先ほど例に挙げた「ソフトコンタクトレンズの酸素透過率」のたとえも、厳密に言うと正確ではない点があります。でも、話を聞かされている側は、専門家ではありません。詳しい説明を求めてもいないでしょう。
相手にとって大事なのは、「正しさ」よりも「わかりやすさ」です。
そして、説明する側にとって大事なのは、「何が伝わればいいのか」というゴールの設定です。
説明上手な人たちを見ていると、「何が伝わればいいのか」を徹底的に追求し、それ以外の情報は思い切りよく排除しています。専門的な角度から見たら、「少し違うな」と思うことがあっても、相手にとって不要な情報ならば、バッサリと捨てて、伝わってほしいことを目立たせています。まるで「デフォルメの似顔絵」のようです。
「デフォルメの似顔絵」は、その人の顔の特徴を大きく強調していますよね。決して、その人の顔を正確に描いたものではありません。でも、似顔絵を見た人にはちゃんと、「その人だ」と伝わりますよね。
たとえも同じです。「伝えようとしていることの特徴は何か」をよく観察しましょう。そして、それ以外の細かなことは思い切って捨てることで、伝わる説明になるのです。
(深谷 百合子 : 合同会社グーウェン代表)