メルマガをただ送り続けている企業の落とし穴
メルマガは送るだけでは効果が半減してしまいます。読んでもらえるメルマガにあるポイントとは何なのでしょうか?(写真:polkadot/PIXTA)
もう何年もメルマガを送り続けていても、読んでもらっている実感がないと感じていませんか? 約950社の中小企業をコンサルティングしてきた谷田部敦氏は、「メルマガは、やり方次第で信頼度を高め、売り上げアップにつなげることもできます」と言います。本稿では、同氏の近著『小さな会社の勝算 90日で売れる仕組みになるデジタルマーケティング』より一部抜粋・再構成のうえ、メルマガの効果をアップする秘訣をご紹介します。
いかに「本物感」を伝えるかが集客のポイント
人間関係は、1回、2回より3回、4回と、会えば会うほど親近感を覚えます。それと同じで、商品やサービスも接触頻度が多いほうが〔信頼〕されやすくなります。
必要なときに真っ先に思い出してもらって、数多い選択肢の中で優先順位を上げてもらうための取り組みが見込み客に〔信頼〕してもらえるためのステップなのです。
本稿では、接触頻度を上げるための施策としてよく使われる「メルマガ」について考えてみましょう。
その商品が本当に優れている「本物感!」、そのサービスが本当に「信頼できる!」と気になれば、今はネットのクチコミですぐに調べられる時代です。
ということは、専門知識や専門技術を活かして他と差別化できる要素がある中小企業は、いかに「本物感」を伝えるかが集客のポイントになると言えます。
本物感が伝わる事例を紹介します。美味しい食べ物をお取り寄せする需要が高まっている中、食べ物でも「安くて美味しい本物」の人気が高まっています。
私たちの会社でマーケティングの支援を行った弁慶丸の河西信明さんは、日本海が仕事場の筋金入りの漁師。鳥取県の港で獲れたて天然魚を箱詰めの直送便で全国に通販しています。通常漁師は漁業協同組合をメインとして販売を行いますが、本物志向の魚好きのファンには直接新鮮な魚が届くと支持されています。
多くのファンがついた理由のひとつは、漁師生活のリアルな日常やその日の水揚げ状況、魚の美味しい食べ方など情報満載のメルマガ「脱サラ船酔い漁師からの手紙」の配信。このタイトルだけでもおもしろいと思いませんか? 「いよいよ松葉ガニ解禁です!」とメール配信すると、売り切れる前に美味しい松葉ガニを食べたいと急いで注文する読者が多いようです(そのためよく売り切れています)。
河西さんが顧客から絶大な〔信頼〕を得ているのは、熱のこもったメルマガから漁師としてのプロ意識と専門知識、魚への愛、仕事愛など「本物感」が伝わってくるからでしょう。どんな人が獲ったどんな魚で、どんな風に食べれば美味しいのか、1から100まですべてわかる本気度MAXのメルマガです。
プロの「本気」は本物志向のユーザーから支持される
同じように「本物」のスイーツを自分でつくって楽しめる「はかりのいらないお菓子教室」も、メルマガ配信で売り上げが伸びました。代表は辻口博啓シェフのもとで修行し、腕を磨いたパティシエールの有希乃さん。確かな腕とともに、とても人気のお菓子教室を開かれていました。
未経験者でもホテルのスイーツを家庭でつくれる無料メールレッスンを配信していた有希乃さんは、コロナ禍でお菓子教室を開けなくなったときに、新しい試みであるお菓子づくりを動画だけで学べるコースを発売しました。お菓子づくりの材料とラッピング用品がセットで送られる動画コースがおよそ300人の方に購入され、販売開始後間もなく売り切れになりました。クリスマスやバレンタインなど季節に合わせたスイーツも好評で、中高年の男性受講者もケーキづくりに挑戦して家族に喜ばれたそうです。
誰でもプロっぽく仕上がるところがこのお菓子教室の強み。リアルレッスンも含めると、日本全国、ほか海外からも延べ5000人がレッスンに参加しています。
その道のプロが「本気」でメルマガを配信すると本物志向のユーザーから支持されます。実際、そういうメルマガは読者のコメント欄にも共感や感動の声が多いのです。
さらに、メルマガを書くためには、その商品やサービスの何がすごいのか、どこが他と違うのか言語化しなければいけないので、自分の仕事を客観視できます。言語化すればするほど自分の仕事の解像度も上がり、さらにやるべきことが見えてくるのです。それでも「文章を書くのは苦手」「自分の仕事を言語化するって難しそう」という方は、InstagramやYouTubeでもいいですから、自分に合う方法でコツコツ発信を続けたほうがいいでしょう。
「嫌われる発信」と「好かれる発信」の決定的な違い
どんなにがんばって発信を続けても、ブロックやフォロー解除されたらがっかりしますよね。まるで好きな人にフラレたような気分……。そう思う人もいるかもしれません。では、自分がお客様側だったらどうでしょうか?
日々流れてくる情報が多過ぎて、パッと見て役に立たなそう、フォローする価値がない、うるさいと思ったアカウントからはさっさと離れたいですよね。あなた自身が今まで、ブロック、解除してきたメルマガやLINEを思い出してみてください。
売り込みだらけのプロモーション専用SNSやLINE公式アカウントは「釣り」狙いです。エサをばらまくように配信して数%でも引っかかる人がいればOK。他の9割近くには嫌われてもいい、というムダだらけの世界です。
メールは無視できるので、読まなくてもそのままにしている人が多いです。私にもよく「メルマガを送っているんですけど効果がありません」と相談があります。この場合は大抵、「こんな新商品が出ました」「これはオススメです」といったよく見る売り込みメールしかしていません。送るほうは何が問題なのか気づきにくいんですね。
LINE公式アカウントは即効性があるので、毎日のように売り込まれたら即ブロックされてしまいます。割引セールやクーポン情報なら、ユーザーにとってもメリットがあるので喜ばれますが、それでも配信は週1〜2回が限度でしょう。
逆に配信が少な過ぎるのも問題です。年1回ぐらいの少な過ぎる配信だと悪目立ちして、「あれ? こんなアカウント友だち登録したっけ?」とブロックされやすくなります。ブロックされるのが怖くて配信回数が少な過ぎるのも逆効果です。
では、ブロックされない好かれる配信の共通点はなんでしょう?
もうおわかりですよね? ユーザーにとって有益で、また見たい、また読んでみたいと思われる配信です。つまり、「課題解決になる」「何かの役に立つ」「知っているとお得」「トレンドのニュース」「本当にお得な限定キャンペーン情報」「とにかくおもしろい」といった情報です。
YouTube、TikTokでバズっている投稿や、届くとつい読んでしまうメルマガ、ブロックしないLINE公式アカウントを見れば、これらのうちどれかに必ず当てはまるはずです。参考にしてみてください。
せっかく〔認知〕〔獲得〕してきたのに、〔信頼〕でブロックされると残念ですよね。ここでも手を抜かず、好かれる発信をがんばりましょう。
フォロワーは多いけど、「まったく売れない発信」
登録者やフォロワーは多くても、自社の売り上げにまったく結びつかなければ、労多くして功少なし。たとえば、「読者からの感想はきますがまったく売れません」という相談。発信の内容は有益なのに、まったく売り込みをしていなくて売れていないケースがあるのです。
「売り込みをすると嫌がられそう」と思う謙虚な人にありがちなのですが、売りたい商品があっても購入先のリンクは最後に小さく載せているだけだと目立ちません。
メルマガを登録したり、SNSでフォローしたりする人は関心ある情報を知りたいだけでなく、必要があれば欲しいと思っている「見込み客」です。せっかく嫌われない配信をしているのであれば、堂々と自社の商品やサービスを売り込みましょう。
私がコンサルティングを行った一般社団法人 日本栄養バランスダイエット協会も、メルマガを上手に活用して、きちんと食べて健康に痩せることができる「ダイエット講座」の申し込みを増やしていきました。代表理事で管理栄養士の三田智子さんが配信しているダイエットのメルマガはとてもためになり、役立つ内容でファンも多かったです。
一方で、ご本人の優しい性格もあり、売り込みをほとんどしない内容だったので、当初の講座の申し込み数は限定的でした。「読者も喜ぶ講座の内容ですし、しっかりと目立つようにご案内も入れてください」とお願いし、配信していただいたところ、想定していたよりもはるかに多くの申し込みが入りました。 その後もメルマガを毎日発行し続け、インストラクターの育成や書籍の出版、Instagramの活用などを行いながら、協会は急成長していきました。
読者は興味のない内容で売り込まれることは嫌がりますが、自分が興味あるご案内は喜んで読んでくれます。ですので、ターゲットの興味にあった適切なご案内をしっかり目立つように行うことも重要なことです。
ある化粧品販売会社は、会員向けに発行している冊子でのご案内を中心に行っていましたが、年々効果が薄れているというご相談をいただき、メルマガの発行をおすすめしました。
その会社ではメルマガの発信を行ったことがあまりなく、メルマガはあまり効果がないと思っていました。そこで、美習慣に関するお役立ち情報のメルマガを開始し、会社にとっての 〔メイン商品〕である美容クリームが即日完売。 メルマガでこんなに反響があるとは思っていなかったと喜んでいただけました。
「売れている感」を伝えることも大切
弁慶丸の河西さんも、メルマガではほとんど売り込んでいませんでした。漁師の近況や水揚げ状況、美味しいカニの見分け方をアドバイスしたあと「もし良かったら購入してくださいね」という程度だったのです。それでもファンの読者は多く、販売も順調でした。
さらに販売数を伸ばすために、メールのはじめに「松葉ガニの先行予約始めます!」「○月から魚の水揚げが増えてきます」「累計販売セット数が、77777セットを突破いたしました!!」といった内容のメールを配信していただき、今の季節にしか手に入らないお魚の情報をお送りすることで、販売数をさらに伸ばすことができました。
このように「売れている感」を伝えることも大切です。
映画の告知もそうで、「○月○日公開決定!!」「公開1週間で観客動員数100万人突破!」とドーンとPRしている作品は気になります。
マーケティングも同じで、「売れている感」 を伝えることも大事。そのうえで、予告、告知、フォローアップをきっちりしたほうが〔信頼〕を与えます。
ただし、画像やリンクが多いメールはプロモーションと判断されて迷惑メールに入ることもあるので要注意。画像は1通3画像まで、リンクも3〜4つまでとするのが妥当です。
本物の商品を提供したい人ほど謙虚で素晴らしい人です。配信も謙虚になりがちですが、ここは割り切って売り込みも大事だと再認識してください。
(谷田部 敦 : FunTre社長、マーケティングカレッジ会長)