写真はイメージ(写真:kotoru / PIXTA)

史上最大の赤字を機に聖域なき改革を徹底。グローバル、デジタル、ガバナンスの面で、もはや“伝統的日本企業”とは呼べないほどの変貌を遂げた日立製作所。

日本企業は日立から何を学ぶべきか。『週刊東洋経済』3月9日号の第1特集は「シン・日立に学べ」。

伝統的な日本企業からの大変貌を遂げつつある日立グループ。その職場のリアルとは。現役社員4名に本音を聞いた(取材を基に座談会形式で構成)。

[参加者PROFILE]
Aさん(30代前半・女性)日立製作所社員、システム系
Bさん(30代後半・男性)日立製作所社員、バックオフィス系
Cさん(20代・男性)グループ会社社員
Dさん(50代・男性)日立製作所出身で今はグループ会社社員、管理職

──日々の仕事で、日立のグローバル化を感じますか。


Dさん 私のチームには今、米国人と中国人の管理職がいる。だから会議は日本語と英語の2カ国語対応。どうやってやるかというと、資料や口頭での説明で、同じことを2回、日本語・英語で繰り返す。

「なんて面倒な」と最初は愕然としたけれど、今は自然にできるようになった。

日本語で質問したら英語で返ってくる、なんてザラだから「英語は苦手で」とは言っていられない。私も入社してしばらくは趣味の海外旅行で英語を話すくらいだったが、日々実践で鍛えられているので、英会話教室に行くよりずっと学習効果は高い。

前の部署の同僚は、全員がTOEICの点数で900点以上だった。

会議が深夜1時から始まることも

Bさん 私も、外国人の上司とやり取りする日々を送っている。

語学は磨けば何とかなっても、困るのが時差。こっちが深夜や早朝でも、相手の拠点が業務時間内だったらチャットがバンバン飛んできて、対応せざるをえないこともある。会議が日本時間の深夜1時から始まることもある。

Aさん 海外とのやり取りを抜きにしても、労働時間は長い。私の部署では、繁忙期なら9時から23時ごろまで働く。ただ、働き方改革の影響で、平常時なら18〜19時で上がれる日もあるし、休日出勤をしたら代休を取ろうという風潮も出てきた。

気に入っているのは、若い年次から裁量労働が適用されること。成果物を出せば、日中仕事を抜けることもできる。コロナ禍以後、在宅勤務も定着した。

Cさん コロナ禍に日立グループ企業に転職してきてから、ずっと在宅勤務。1週間に1回出社するかしないかで働きやすい。秋葉原や横浜など、首都圏にサテライトオフィスが複数あって、グループ社員でも使えるのが便利だ。

労働時間は長いが、前職の銀行よりはずっと居心地がいい。

上司が部下に気を使ってくれるから。この前も、上司から仕事を頼まれたときに「お忙しくないですか? 忙しければ、代わりに私がやりましょうか?」と恐縮するくらいの低姿勢だった。前職なら「おまえ、やっとけ」で終わり。

Aさん 確かに、私が入社した頃にはいた「危ない上司」の話を、最近は聞かなくなった。部下のエンゲージメント(働きがい)が上司の評価に影響するから、パワハラ上司は構造的に絶滅せざるをえない。自分で手を挙げて部署異動ができる社内公募制も活用されているので、危ない上司からは部下が逃げていってしまうのかも。


とにかくまじめ、言い換えれば頭が固い

──日立社員の特徴は?

Cさん とにかくまじめ。日立製作所の下請け案件を担当しているが、彼らはよく言えばまじめで、言い換えれば頭が固い。

Bさん 会社は日々「社会課題の解決」を唱えているけど、それを文字どおり受け取って、持てる力の100%以上を出して成果を出そうとする人が多い。「ああ、この人働いてんなあ……」と。

Aさん 「皆で一緒にやりましょう」という協調性重視のタイプが多い。顧客からは「日立は打ち合わせのたびにゾロゾロ人が出てくるなあ」と思われているでしょう。

合理的な人が多くて、有名なのは役員になるとメールの宛名などで使う略称を与えられること。例えば小島啓二社長なら「〈コジ〉」。正式名称を記す時間を節約するためだ。数年前に「内向きだから使用をやめましょう」という通達が来て、今は廃れつつある。

Dさん 人事制度上は、個人で実績を上げるタイプの人も評価される枠組みになっている。だけど確かに「自分だけ成果を出せばいい」というスタンドプレー型の人がうまくやるのは難しいかな。

──ルマーダ案件をどんどんやろう、という雰囲気はありますか。

Bさん ルマーダは、研修動画で学んだ。社内でもルマーダ案件をやっている人はいるが、私も含めて、関わらない社員もまだ多い。

Aさん 自分の担当する案件がルマーダかどうかは、システム上で自らチェックをつける運用になっている。ただ、「ルマーダ案件化」すると管理が大変になってしまうので、私はこれまでチェックをつけたことがない。

──仕事に人を割り当てるジョブ型人事・雇用は現場になじんでいるのでしょうか。

Aさん まだ過渡期だ。課長以上はジョブと処遇が結び付いているはずだが、非管理職は職種や階層ごとに求められる仕事内容などを定義した職務記述書が作られたくらい。ジョブ別にやるべきことが明確になるので、例えばある課長が別部署に異動しても、すぐにバリバリ活躍できる環境になったとは感じる。

Dさん 私が1990年代前半に日立に入社したときは就職というより就社。日本企業に典型的な年功序列制で「揺りかごから墓場まで日立」という雰囲気だった。だから今の環境変化には驚く。中途採用も大量に行っている。

管理職目線では、ジョブが明確になったことでチームづくりや人材育成がやりやすくなった。これまでは自分の感覚や経験頼みだったが、「このジョブの社員なら、この程度のスキルがあるはずだ」という裏付けができた。ジョブと実際の能力とにギャップがあれば牽制できるし。

課長は異次元の仕事量

──Dさん以外は非管理職ですが、出世したいですか。

Aさん 私はノー。今は主任なので次は課長となるが、管理職の中でも課長級がとくに大変で、部署では何人も連続で辞めていった。

プロジェクト管理や予算管理をしながら部下の管理もするから、とにかく忙しい。今は若手の流動性が高いから、若手が1人抜けたらその分の仕事も、まずは課長が補う。同じ激務ならば、もっと年収が高いところのほうがいい、と外資系や大手のITコンサル会社に転職していく人が多い。

今の部に所属してからこれまで30〜40人の課長がいたが、女性は2人だけだった。しかも既婚女性はいても、子どもを持つ人はいない。差別ではなく、激務だから。育児と仕事を両立させる制度は非常に充実しているので、子持ちでも働きやすい部署に異動し、仕事を続ける道はあるはず。

Cさん 課長がいちばん忙しそうなのはグループ会社でも一緒。昇進について現実的に考えたことはまだないが、ソリューションの提案ができて、コミュ力の高い人が出世していく。

(構成:印南志帆)


(印南 志帆 : 東洋経済 記者)