血糖値が高い人も低い人も軽視してはいけない訳
数百万もの人が「血糖コントロール不良」という状態に陥っているという(写真:freeangle/PIXTA)
健康診断で血糖値が正常の範囲から外れている、あるいは外れかかっているという指摘を受けて心配になっている中高年以上の人は少なくないでしょう。高血糖はもちろん低血糖も体に良くありません。『回復人 体中の細胞が疲れにつよくなる』より一部抜粋、再構成してお届けします。
問題の発生源は「不安定な血糖値」
「なんでこんなことに……しかも、どうしていまなんでしょう?」
ビルは、どうしていいかわからない、という感じだった。
最初のセッションで聞いた話では、彼は最近、医師から前糖尿病段階だと診断され、処方薬を飲んで血糖値をコントロールしたほうがいいと言われたという。でないと、2型糖尿病への道をまっしぐらだというのだ。
60代半ばのビルは、初孫ができたばかりだ。「この先、孫娘と楽しいことをいっぱいしたいんです。でもこのままだと、私の人生は衰えていく一方かと不安で……」
これに加えて、ビルにはさらに不安材料があった。父親も人生の晩年になってから2型糖尿病になり、心臓病で亡くなったのだ(2型糖尿病になると、心疾患を発症するリスクが非常に高くなる)。
ビルはもちろん父親のようにはなりたくなかったが、医師に処方された薬を飲むべきかどうかについても確信がもてなかった。
また、前糖尿病段階という診断がビルにとって最大の問題なのは確かだったが、ほかにも心配な症状がいくつもあった。それで彼は私のもとを訪ねてきたのだ。
「食事のあと、とても疲れて……横にならずにはいられないんです。1日中、エネルギッシュな状態と、眠くてしかたない状態を行ったり来たりしている感じです」
私にはビルの気持ちがよくわかった。何かの病気だと診断されたり、なんの病気なのかわからないとさじを投げられたりしたら、誰だって怖くなる。それに、疲労などの症状がなぜ起きているのか、その理由がわからないときも不安になる。
だがビルの場合、問題の発生源は明らかだった。「不安定な血糖値」だ。
人間が体を維持していくには、血糖、とくにグルコース(ブドウ糖)が必要だ。
ミトコンドリアは細胞に供給するATP(細胞エネルギー)をつくるために、グルコース(および脂肪と、タンパク質から得たアミノ酸)を使う。だが、ほかに脳のような器官もグルコースを主要な燃料源として使うため、そうした器官がきちんと機能するためにもグルコースの安定した供給が必要になる。
グルコースを供給するのは、炭水化物だ。炭水化物は消化されるとグルコースに分解され、腸障壁を通り抜けて血流に吸収される。それが体中の細胞に送り届けられて、エネルギーをつくり出すもととなったり、後日の使用に備えてたくわえられたりする。
高血糖は「死亡率」を70%上げる
食事をすると、当然血糖値は上がる。それから徐々に下がり、次の食事を摂る前くらいに最低値になる。
このように血糖値が上下するのは普通だが、正常な範囲には厳密な規定値がある。グルコース値が低すぎると、昏睡状態に陥って死んでしまうかもしれない。逆に長期間にわたって高いままだと、血管や神経、臓器に損傷をもたらす恐れがある。
私たちにはグルコースが必要だが、多すぎても少なすぎてもいけないのだ。
だが、数百万もの人が「血糖コントロール不良」という状態に陥っている。これは体が血糖値を安定させる能力を失い、心身の健康とエネルギーレベルに深刻な悪影響を与える状態をいう。
アメリカでは、成人の約42%が前糖尿病段階あるいは糖尿病と診断されている。前糖尿病段階と言われる人はおよそ30%、残り12%が完全な糖尿病患者で、その大部分が2型糖尿病と言われている。
2型糖尿病は、体内の血糖値が慢性的に高く、健康値まで下がらないと起こる病気だ。この病気を引き起こす状態を「高血糖状態」と呼ぶ。
前糖尿病段階や糖尿病は、単なる疲労に比べてはるかに深刻だ。82万人以上を対象に行われた97件の研究をメタ分析した結果、糖尿病になると、血中脂質や炎症、年齢、BMIといったリスク因子を調整しても、死亡する確率(理由はなんでもいい)が70%増加し、ほかの病気による死亡率も3倍以上になるとわかった。
また、糖尿病は非常にお金のかかる病気で、アメリカ政府は毎年約3270億ドル(約45兆1260億円)を糖尿病関連の医療費として支出し、医療費として支払われる7ドル(約970円)ごとに1ドル(約138円)が糖尿病のために使われている。
個人の負担額でいうと、もしあなたが糖尿病患者なら、糖尿病でない人に比べて、年間の医療費を2倍以上払うことになると思えばいい。糖尿病でない人の医療費が7151ドル(約99万円)なのに対し、糖尿病患者の払う医療費は1万6752ドル(約231万円)にものぼる。
さらに、規定の診断基準にもとづいて糖尿病ではないとされた場合でも、食後にグルコース値が上がりすぎる人は、かなりの健康リスクを背負うことになる。たとえ医療基準では正常の範囲内でも、血糖コントロールが悪化するにつれて、心血管疾患になったりそれで死んだりするリスクは確実に上がる。
そして血糖コントロールにかかわる最も危険度が高い問題は、「血糖値変動」と呼ばれる状態だ。これは1日のうちに血糖値が激しく変動する状態をいう。
研究によると、糖尿病があってもなくても、日常的な血糖の平均値を決める最も大きな因子はこの血糖値変動であり、昔から言われるリスク因子とは関係なく、糖尿病の合併症を引き起こす最大のリスク因子になっているという。
血糖値の変動が「ミトコンドリア」に影響する
細胞はグルコースを燃料とするため、血糖値が激しく変動したり、ずっと低いままだったり、ずっと高いままだったりすると、疲労を感じる。
また血糖値が安定しないと、ミトコンドリアに悪影響が及ぶせいで、激しい疲れを覚える場合もある。
血糖値が下がりすぎた状態は「低血糖」と呼ばれる。この症状はかなり急性のもので、ひきつけや呼吸停止、心臓発作など突然死を招くこともある。
人間という種が生き残るために、人類は進化の段階で、低血糖を起こさないための強力な予防策をいくつか準備してきた。たとえば、肝臓はつねにグルコースを血中に送り出し、1日を通して血糖値を一定に保とうとするし、血糖値が下がりすぎると副腎が大急ぎでアドレナリンを放出する。
治療が必要なほどの低血糖症はそれほど数が多くないとはいえ、低血糖を軽視するのはやめたほうがいい。成人の3人に1人は食後に低血糖の症状を経験するうえ、これが糖尿病患者の成人になると4人のうち3人にまではねあがる。これはたいてい糖尿病の治療薬のせいだ。
この症状は「反応性低血糖」と呼ばれ、食後2〜5時間ほど血糖値が下がりすぎる状態を指す。きっかけはさまざまで、胃が急激に空になったときや、腸ホルモンが過剰に分泌されたとき、過剰なインスリン反応が遅れて起きたとき、インスリン抵抗性が代償性高インスリン血症【訳注/インスリンの効きが悪いために膵臓がインスリンを分泌しつづける状態になること】を引き起こしたとき、または甲状腺機能低下症があるときなどに起きる。
食事のあと血糖値が低いままだと、筋肉や組織、さらに脳のような器官が使えるエネルギーの量も少ないままになる。
食後血糖値が低すぎるとどうなる?
人間の脳にあるニューロンが最も多くのエネルギーを必要とするため、血中からつねにグルコースの供給を受けなければならない。脳の重さは体重のわずか2%だが、グルコースの消費量は体内で最も多い。なんと、グルコースが生み出すエネルギーの20%だ。
とくに、食後に血糖値が低くなりすぎると次のような症状が表れる。
・疲労
・震え
・めまい
・混乱
・不機嫌
・不安
なかには、実際には低血糖になっていないのに、反応性低血糖を経験する人もいる。これは「突発性食後症候群」と呼ばれるが、なぜこのような症状が起きるかはまだわかっていない(「突発性」とは「原因不明」という意味なのだ)。
血糖の制御にかかわるすべてのホルモンが、正常な血糖値を維持するために多大な労力を消費しているためにこうした症状が表れる、というのがいちばん妥当な説明だろう。
たとえば、インスリン反応が遅れると普通は低血糖になるが、そこにアドレナリンが大量に放出されると低血糖が回避される。しかし、汗や震えといった症状だけは残ってしまう。
こうした場合、細胞は本当に必要とする燃料を十分に得ていないので、疲れを感じるだけでなく、ミトコンドリアも打撃を受ける。高血糖の発作や低血糖の症状が出ると、ミトコンドリアにも機能不全が起きてしまうのだ。
また、血糖値が低くなりすぎると、酸化ストレスが増えて、ミトコンドリアは細胞防御モードに入るため、さらにエネルギー産生量が低下することになる。
(アリ・ウィッテン : エナジー・ブループリント創始者)
(アレックス・リーフ : 理学修士)