賞金額は1年で3億「双子の女子プロ」が人気の理由
昨年は2人で5勝、3億円近く稼いだ岩井姉妹(向かって左が明愛、右が千怜)。2024年の活躍を期待したい(写真:HONDA提供)
今年も2月29日のダイキンオーキッドレディスゴルフトーナメントを皮切りに、女子ゴルフの熱い闘いが始まった。そして昨年に続き、今年も注目されるのが、双子のプロゴルファー、岩井明愛(あきえ)、岩井千怜(ちさと)だろう。
活躍する双子の女子プロゴルファー
姉妹は2002年7月5日生まれ。昨年の活躍は目覚ましく、姉の明愛はKTT杯バンテリンレディス、住友生命Vitalityレディス東海クラシック、ミヤギテレビ杯ダンロップ女子オープンで勝利、妹の千怜はRKB×三井松島レディス、サントリーレディスで勝っている。
昨年の女子ツアー(JLPGA=日本女子プロゴルフ協会=ツアー)における年間獲得賞金は、明愛が1億6944万9079円で2位、千怜が1億1971万3289で5位。プロ入り3年目でこの成績は抜群で、姉妹揃ってベスト10に入っているのは奇跡的である。
プロゴルファーは狭き門だ。女子プロになるためには、JLPGAのプロテストに合格しなければならない。毎年500〜600人が受験するが、合格するのは20人である。
岩井姉妹は2021年に受験している。プロテストは1次予選、2次予選、最終プロテストにわかれるが、妹の千怜は1次予選から、姉の明愛は、2020年の日本女子オープンのローアマ(アマチュアのなかで最上位)の資格で、最終プロテストから参加した。最終的に明愛は3位、千怜は9位タイ。2人とも一発でプロテストに合格した。
アマチュア時代に華々しい成績を上げていても、プロテストに受からなければプロとしてツアーに出られない。何回も受験に失敗し、プロをあきらめる人も多く、プロになったとしても、1勝もできずにプロ生活を終える人も多くいる、そんななかで、岩井姉妹は特筆すべき存在である。
双子姉妹をサポートする企業の面々
実際、そんな姉妹の活躍に注目し、サポートする企業が相次ぐ。
2024年2月現在、姉妹の所属は本田技研工業。ゴルフ用品はヨネックス、ボールは住友ゴム工業、ウェアはTSI、サングラスは山本光学、シューズは明愛はナイキジャパン、千怜はニューバランスジャパン。
スポンサーは小泉、ドール、ベルシステム24ホールディングスなど。1月には全日本空輸(ANA)がスポンサー契約締結した。
スポンサー契約金額に関しては守秘義務があり、一切公開されていないので、あくまでも筆者の推定になってしまうが、1社1000万〜5000万円ぐらいだと思われる。
姉妹の場合、ほとんどのスポンサーがプロ入り前、あるいはツアー優勝前だった。今後新たなスポンサー企業や契約更新の時は、契約条件が上がることが予想される。
姉妹を支援する、いくつかのスポンサー企業に話を聞いてみた。
ヨネックスは、姉妹がゴルフを本格的に始めたときから、ゴルフクラブなどの用品をサポート。プロ入りした2021年からは用品用具契約をし、クラブ、キャップ、キャディーバッグ、傘を現在使用している。
担当者によると、姉妹は小学校2年生のとき、父親の雄士氏に連れられて埼玉県入間市にあるゴルフ練習場に行ったのが、ゴルフに触れた始まりとのことである。
練習場で、今も姉妹のコーチをしている永井哲二インストラクターと出会い、小学校6年生のときからヨネックスのジュニアモニターとしてゴルフ用品の提供を受けていた。両親と姉妹、そして永井氏とヨネックスで面談をした際、両親や姉妹の前向きな姿勢に、採用を決めたという。
「子どものころから姉妹を見ており、陰で努力をしているのを知っている。強くなると思っていたし、2人とも強いのでインパクトがある。2人のゴルフに対する姿勢は素晴らしく、弊社製品に全幅の信頼を置いて試合に挑んでいる。さらにファンを、特にジュニアの子どもたちを大切にしている」(ヨネックス担当者)
プロゴルファーとの契約は宮里藍以来
姉妹のプロ入りからスポンサーとなっている小泉は、丸山茂樹ジュニアファンデーションに協賛している。同社グループの大澤誠氏によると、その大会で姉妹を紹介され、プロテスト前にスポンサーとなる意思を伝えたという。
「岩井姉妹の身体能力の高さや、純粋にゴルフを愛し、前向きに取り組み、厳しいトレーニングにも耐えている姿を知り、サポートをしている」と大澤氏は話す。
千怜が優勝した2018年丸山茂樹ジュニアファンデーション(写真:丸山茂樹ジュニアファンデーション提供)
所属契約を結んでいる本田技研工業のスポーツプロモーション部部長・松浦康子氏は、「HONDAは夢とかチャレンジを大事にしてきた会社で、岩井姉妹は企業姿勢に合致する。2人は非常に高い夢を持ち、真っ直ぐにチャレンジしている。その姿に共感し応援を決めました」と話す。
HONDAがプロゴルファーと契約したのは、2007年の宮里藍以来だ。「彼女たちの夢がどんな形で実現していくのか。世界にも羽ばたいてほしいですし、しっかり見届けていきたい」と松浦氏は言う。
岩井姉妹と所属契約する効果については、「社内向けではHONDAの企業姿勢、グローバルブランドスローガンの"The Power of Dreams"を体現している2人なので、従業員の意識変革向上の一助となっている。社外向けでは、ゴルフトーナメントは北海道から沖縄まで開催されるので、それぞれの地域のお客様、販売会社、スタッフほか、新しいファン作りに貢献してくれている」
契約では国内外でHONDAの車を提供される。各地を転戦するプロゴルファーとしては有難いことである。
岩井千怜インスタグラムより
なぜ今、岩井姉妹なのか?
1月にスポンサー締結したANAの広報部に、プロゴルファーが多いなかで、なぜ岩井姉妹なのか聞いた。
「ANAグループの経営ビジョンは『ワクワクで満たされる世界を』。お客様や社会に寄り添い、日本を元気にしたいという想いで、スポーツやアスリート、諸団体、文化人をスポンサーとして応援している。岩井姉妹は多くのファンや幅広い世代を、攻めのプレースタイルで魅了し、これから世界にさらに羽ばたかれる存在。岩井姉妹の努力と挑戦は、これからもワクワクを届け続けていただけると確信している」
岩井姉妹がゴルフというスポーツを通じて世界で羽ばたいていく、その挑戦を応援できることに、非常に「ワクワク」しているそうだ。
「2人の持ち前の粘り強さと明るさは、コロナが明けてこれから世界にさらに羽ばたいていくANAグループの元気の源になります。このような点を踏まえて、今回の契約締結に至りました」(広報部)
海外志向もある岩井姉妹にとって、飛行機のサポートは心強い。
ANAとスポンサー契約した岩井姉妹(写真:筆者撮影)
各スポンサーが岩井姉妹を応援する理由は、姉妹の明るく前向きにチャレンジする姿勢や、姉妹がそろって同じ夢に向かって進んでいくといったところだろう。
岩井姉妹が支持される理由
JLPGAの小林浩美会長に岩井姉妹の人気の理由を聞くと、「優勝がかかる場面でも直ドラ(フェアウェーにあるボールをドライバーで打つこと。距離は稼げるが、難しくミスも出やすいため普通はやらない)する思い切りのよさと、明るさが支持されているのではないか。2人とも技術がしっかりしているので、ますます期待できる」と述べる。
2024年のJLPGAツアーは37試合、賞金総額44億円で争われる。2023年は2人で5勝、獲得賞金合計は2億8916万円で、今年はそれ以上の成績が期待される。さらに、2人をサポートする企業は10社以上あり、合わせれば賞金と同額程度のスポンサー料が入っているとみられる。
姉妹は2024年の試合で獲得したバーディー数、イーグルス数に応じた金額を、能登半島地震で被災された方への義援金として寄付することを発表している。
姉妹は幼い頃から「困っている人」「独りぼっちの人」「何か嫌な思いをしている人」に何かできることがないかと考えていて、今回の義援金についても2人で考えたとのことである。
自分たちの夢を追うだけでなく、社会貢献を考えるアスリートとしての役割を自覚している2人を応援するスポンサーが多くいることは、当然であろう。自分たちのため、周りの人たちの笑顔のためにも、一層の活躍を期待したい。
(嶋崎 平人 : ゴルフライター)