「物流2024年問題」の本質とは何か(写真:まちゃー/PIXTA)

トラックドライバーの労働時間に上限規制が2024年4月から導入されると、人手不足によってモノが運べなくなるーー。「物流2024年問題」は、たんなるトラックドライバーの残業問題と捉えられることが多いが、そこだけに焦点を当てると本質をつかむことはできない。

政府が物流問題を「たきつける」ワケ

そもそも、2024年問題は、トラックドライバーの人手不足問題とは毛色が異なる。トラックドライバーは、「労働時間が2割長いのに、収入は2割低い」と言われ、労働条件の課題が指摘されてきた。

そうした運送業界が抱えてきた構造的な課題に、少子高齢化による就労可能人口の減少という構造的課題が加わって発生したのが、トラックドライバー不足である。

一方、2024年問題は、厚生労働省が主管となる「働き方改革関連法」という政策が引き起こした問題だ。これに、経済産業省や、国土交通省、農林水産省が荷主事業者や物流事業者が早急に取り組むべきことについてまとめガイドラインを出すなどしている。これによって政府は何をなし得ようとしているのか。

結論から言えば、2024年問題の本質的な定義は、「少子高齢化の進行によって、就労可能人口が減少する将来の日本社会においても、『産業の血液』と呼ばれ、私たちの生活に欠くことができないインフラである物流を維持継続するための荒療治」である。

運送業界の歪みは、1990年に実施された規制緩和によって、1996年には4.9万社弱だった運送会社が、わずか4年で6万社強まで増えてしまったことから始まった。

運ぶべき荷物が増えたわけではない。にもかかわらず、短期間で運送会社が約1.5倍に増えた結果、運送業界には過当競争が発生し、運送会社と荷主のパワーバランスが大きく崩れてしまった。運送会社は仕事欲しさに、荷主の過剰要求をのまざるを得ない状況へと陥ったのだ。

荷主は、この「荷主優位」の状況を利用し、主に2つの怠慢を行った。

• 運送プロセスのムリやムダを見直すような本質的な改善を行わず、運賃の買い叩きを行うことで、運送コスト削減を行った。

• 荷物を受け取る側の着荷主のワガママ(時間指定や自主荷役など)をそのまま運送会社(=トラックドライバー)に押し付けることで、顧客満足度の向上を図った。

その結果、トラックドライバーの労働時間は長時間化し、逆に運送ビジネスの利益率は悪化した。当然、トラックドライバーの収入も減り、「労働時間が2割長いのに、収入は2割低い」状態に陥ったのだ。これではトラックドライバーの成り手が減るのも仕方ない。

それでなくとも、日本は少子高齢化の進行に伴う労働力人口の減少という構造的な社会課題を抱えている。

2020年の就労可能人口(15〜64歳人口)は7509万人だったが、2032年には7000万人、2043年には6000万人、2062年には5000万人を割り、2070年には4535万人まで減少すると予測されている。

このままの状態を放置すれば、トラックドライバーのなり手が減っていくのは火を見るよりも明らかである。

では、トラックドライバー不足を放置するとどうなるのか。

例えば、スーパーマーケットにいつも食品が並んでいるのは、物流があるからだし、鉄道が安定して運行できるのは、補修部品などを定期的に補充する物流があるからだ。

当たり前過ぎて、忘れられがちなのだが、私たちは、物流があるから、健全で安全な日々を過ごすことができる。そして、国内を流通する荷物の9割は、トラックが運んでいる。

「何もしなければ」輸送能力は3割低下

しかし、そのトラック輸送の担い手であるトラックドライバーが人手不足の危機にある。リクルートワークス研究所による試算では、このままトラックドライバー不足に手を打たないまま放置すると、「2040年には、『荷物が届かない』ことによって日本の1/4の地域は、事実上居住困難になる」と警鐘を鳴らしている。

2024年問題は、2024年に生きる私たちの課題だけを解決しようとする、短期的なものではない。物流に起因する社会課題と、それによって引き起こされる未来の日本社会を憂慮し、子どもや孫世代にも、健全に生活できる社会を引き継いでいこうという取り組みなのである。

2024年問題のときによく挙げられる数字が下図だ。現状だと、2024年度には輸送力が14%(トラックドライバー14万人相当)、2030年度には34%(トラックドライバー34万人相当)不足することになる。


だが実は、2030年の34.1%(9.4億トン)の輸送リソース不足のうち、2024年問題に起因する輸送リソース不足は、約半分(14.6%、4億トン相当)である。残りは、現状にあぐらをかき、トラックドライバーの人手不足対策などの運送ビジネスの歪みを放置した場合における、自然な推移によって生じる影響なのだ。

つまり、「モノが運べない(運んでもらえない)」物流危機は、遅かれ早かれ日本社会を直撃することになる。だからこそ、手遅れになる前にきちんと運送ビジネスの歪みを是正しなければならない。

具体的にはどんなことをすべきか

こうした中、岸田政権は、2023年3月31日に、「我が国の物流の革新に関する関係閣僚会議」を立ち上げ、同年6月に「物流革新に向けた政策パッケージ」、同年10月に「物流革新緊急パッケージ」を発表した。今年1月から始まった通常国会では、「物流革新」政策に基づく施策の法制化を進めている。

「物流革新に向けた政策パッケージ」では具体的な施策として24項目、「物流革新緊急パッケージ」では13項目を挙げている。

中でも、政府がもっとも期待しているのが、「積載効率の向上」である。現在の積載効率は約38%。すなわちこれは、「トラックの1/3は空気を運んでいる」状態だが、政府は2030年度までに、積載効率を16%以上向上させることを目指している。

次に大きな効果を見込んでいるのが、「荷待ち・荷役の削減」。荷待ちは、荷物の積み卸しのために待機する時間、荷役は荷物の積み卸し作業のための時間を指す。現在、1日の運行で平均3時間程度発生している「荷待ち・荷役時間」を2時間以内に制限する「2時間以内ルール」を制定し、2時間を超えた場合には、待機料金・荷役料金の割増率を5割とする対策を盛り込んだ。

こうした複数の取り組みによって下表の通り輸送ポイントを14.3ポイント(=トラックドライバー14.3万人相当)を改善できるとしている(すなわち、今年度における2024年問題は回避は可能になる)。


2024年問題は、運送会社と荷主および元請け大手物流事業者それぞれの役割を明確にした。

• 運送会社は、経営を健全化し、トラックドライバーの待遇(収入や労働時間など)を向上させること。

• 荷主および元請け大手物流事業者は、運賃改善を含め物流全般の構造的な改善に責任を持つこと。

消費者も変わらなければならない

問題解決には消費者の行動変容も必要である。

例えば、これまで食品物流には、「1/3ルール」「1/2ルール」なるものが存在した。これは、食品は、製造日から消費・賞味費期限のうち、1/3ないし1/2のリードタイムで小売店に納品しなければならないという商慣習であり、これが食品を取り扱う倉庫会社や運送会社の大きな負担となっていた。

政府はこうしたルールの廃止を明言しているが、これによってスーパーには消費・賞味期限が短い商品が増える可能性もあるだろう。

実際、大手コンビニエンスストアチェーンでは、これまで1日3回実施していた店舗配送を2回に変更した。結果、筆者の肌感ではあるが、「最近、おにぎりや弁当などが売り切れている時間が長くなったな」と感じることが、このコンビニでは増えてきている。

これは運送会社・倉庫会社といった物流事業者の怠慢ではない。これまで無理強いをしてトラックドライバーなどに過度な負担を掛けてきた反省を踏まえ、便利になりすぎた世の中を適正なあり方に修正しようというものなのだ。

健全な物流なくして、もはや私たちの生活は成立しない。だからこそ、2024年問題を正しく理解し、正しく恐れ、そして消費者も含めて正しく対策を講じることが求められる。


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(坂田 良平 : 物流ジャーナリスト、Pavism代表)