大原美術館の外観(写真:PIXSTAR/PIXTA)

社会の仕組みを知ることは、不必要なコストを払うことを避けられるようになるなど、身を助けることにもつながります。本稿は、『クリエイター、アーティスト、フリーランスが読んでおきたい会計の授業 ギャラをいくらにする?』より一部抜粋・再構成のうえ、「非営利」団体の事業活動について解説します。

「非営利」の意味とは?

あるとき、瀬戸内の島々にアートを鑑賞する旅に出て、最後に倉敷の大原美術館を訪ねました。大原美術館は、日本初の私立西洋美術館として、倉敷紡績株式会社の社長・大原孫三郎氏が私財を提供し、1930年に開館しました。

モネの「睡蓮」など世界の名画などが集められた90年以上の伝統を誇る美術館ですが、地域や企業との連携を積極的に図って、さまざまな鑑賞会を企画し、SNSで毎日発信するなど来場者を増やす取り組みをされています。

この大原美術館は、公益財団法人という営利を目的としない団体ですが、どうして営業活動を熱心にやっているのでしょうか?あるいは「公益を名乗るのに、営業活動をしていいの?」と思う方もいるかも知れません。

実は、この「営利を目的としない(非営利)」というのは、事業をしてはいけないという意味ではなく、普通の会社のように事業をおこなって得た利益を、団体の構成員(会社なら株主、財団法人では評議員)に分配せず、その団体の活動に使わなければいけないという意味です。

つまり、公益財団法人も、設立目的の範囲内で事業活動をおこなってよいのです。「公益」とか「非営利」という言葉から、無償のボランティア活動と思う方も多いようですが、それは違います。

どんな団体でも存続していくためには活動資金が必要です。お金がなければ活動に必要な資材なども買えません。そこで働いている方もいますが、趣味や娯楽ではなく、お仕事ですのでお給料を払わないといけません。

ということは、運営にかかるお金以上に稼げないと続けられないことになります。自立して運営していくためには、お金を稼ぐ商い(ビジネス)の感覚を持つことが大切になります。

大原美術館が公表している「公益財団法人大原美術館 令和4年度事業報告書」を見てみますと、年間収入約4.5億円、経常利益約4千万円と、堅実に利益を出されている状況が読み取れます。

収入の大半が入館料で、通常の事業活動で利益を出しています。企業を経営する資産家の方が設立者ですが、趣味や娯楽で運営されているものではありません。

大原美術館はどうして存続できているのか

年間来場者数は約26万人だそうですが、何もせずに集まる数字ではないでしょう。「どう世の中の多くの人に知ってもらい、リピートしてもらうか?」を考え、地道に努力をされていて、商いの感覚を持って運営されている様子がうかがえます。

もし仮に営業努力が足らず、恒常的に赤字になる状況であればどうでしょうか?


公益法人でもお金が足りないと何かで補わないといけません。クラウドファンディングなどで広く寄付を集める、それでダメならスポンサー企業を見つける、それも無理なら自治体などの公的支援ですが、この原資は税金ですのでハードルは高いです。

このような順番で考えていくと、あとに行くほうがだんだんと自由度がなくなっていき、自分たちの意向で運営できる幅が狭まることが想像できます。

特定の人の支援を受けると、その方たちの意向を反映しないといけません。もちろん方向性が完全に一致していれば問題ありませんが、人それぞれ思いが違うようにそれは現実には困難です。

となると、最も創意工夫ができて、お客さんに楽しんでいただいた実感を持てるのは、来場者からの収入で自立して運営することになります。

(堀内 雅生 : 税理士)