「成長で財政は黒字化」と高をくくる人に伝えたい
いったん赤字国債を発行すると、利払いのためにさらに発行するスパイラルに(写真:Ystudio / PIXTA)
通常国会で審議中の2024年度予算政府案。一般会計において、歳出総額のうち国債発行(公債金収入)で賄った割合を示す公債依存度は、31.5%と、2023年度当初予算の31.1%よりも若干悪化している。
2023年12月22日に一度閣議決定された2024年度予算政府案では、31.2%とほぼ横ばいとなるはずだった。しかし、2024年元日に発災した能登半島地震に対応するための予備費を5000億円増額することにし、それを国債の増発で賄うとしたため、前掲の公債依存度となった。
今を生きる国民が便益を受け、後代が支出を賄う
バブル崩壊後、公債依存度は悪化の一途をたどった。
バブル景気を背景に税収が増えたこともあって、当初予算ベースで1990年度(決算ベースでは1991年度)に赤字国債を発行しないことにできたが、バブル崩壊後の税収減の影響もあって1994年度からは赤字国債を再び発行せざるをえなくなった。
公債依存度は、決算ベースで1991年度の9.5%から1994年度には22.4%、1996年度には27.6%まで上昇した。
赤字国債を発行するということは、後代に便益が直接及ばない経常的な財政支出を賄うのに、その便益を受ける、今を生きる国民がその分だけ税負担をせずに後代にツケ回していることを意味する。
インフラ整備のための公共事業費に充当することを想定して発行される建設国債は、残されたインフラから便益を受ける後代の国民に、建設費の一部を負担してもらう役割を持つ。しかし、赤字国債は、結果的に社会保障給付などに充てられるもので、今年の社会保障給付は、今年給付を受けた国民にしか直接便益が及ばない。
もちろん、今を生きる国民が生きている間に後年その分の税負担を負えば責任を全うしたことになる。ただ、そのためには、赤字国債として後年にツケ回した返済負担を、生きている間にきちんと負う予算編成をしなければならない。
つまり、公債依存度を下げて、国債返済のために税財源をきちんと充てる予算編成が必要である。
景気対策で国債増発、震災後も高止まり
しかし、1990年代後半以降のわが国の一般会計における公債依存度は、さらに上昇した。
在任中に「世界一の借金王」と自嘲した小渕恵三首相の下で予算が編成された1999年度には、公債依存度は決算ベースで42.1%に達した。景気対策のために国債を増発したことが主因だった。
その後、小泉純一郎内閣の下で財政健全化に取り組み、2007年度に公債依存度は決算ベースで31.0%まで低下したが、その後リーマンショックが起き、2011年3月には東日本大震災が起きた。公債依存度は、2011年度決算で53.7%に達した。一般会計歳出の過半を借金で賄うという事態だった。
非常時には国債を発行して対応せざるをえないとしても、平時に戻れば国債への過度な依存から脱却してゆくべきものである。しかし、その後も公債依存度は高止まりした。公債依存度が決算ベースで40%を割るのは、消費税率を8%に引き上げた2014年度だが、3分の1(約33.3%)を割ることがないまま、コロナ禍を迎えた。
2020年度は、新型コロナウイルスの感染拡大に直面し、新型コロナ対策のための膨大な財政支出のために国債発行は未曽有の規模に達し、公債依存度は決算ベースで73.5%と、一般会計歳出の4分の3近くを借金で賄うという異常事態になった。
新型コロナ対策のための財政支出が減り、経済活動も再開されて税収が増えるにつれて、公債依存度は2021年度に39.9%、2022年度に38.1%と下がった。
しかし、東洋経済オンラインの拙稿「『デフレ完全脱却』の政策はデフレマインド丸出し 需要刺激の大型補正予算をコロナモードで賄う」で詳述した巨額の補正予算で、国債を増発した結果の公債依存度であるから、無駄な財政支出を減らせていれば、公債依存度はもっと下がっていたはずである。
収支黒字化しても公債依存度は悪化
2023年度の公債依存度も、冒頭で示した当初予算での31.1%から、巨額の補正予算のせいで34.9%まで上昇している。2024年度は、物価高騰をあおらないようにするためにも、国債発行に依存した大型補正予算は慎むべきだろう。
では、今後の公債依存度はどうなるだろうか。
1月22日に内閣府が公表した「中長期の経済財政に関する試算」(中長期試算)には、一定の仮定を置いて推計された今後の公債依存度をみることができる。
中長期試算によると、2030年前後の名目経済成長率が3%強と見込む成長実現ケースでは、2025年度には公債依存度が30%を割るものの、2028年度に25.3%で底を打ち、それ以降は上昇に転じるという。今の財政構造のままでは、公債依存度が25%を下回ることはないというのである。
確かに、国の一般会計の基礎的財政収支は、中長期試算の成長実現ケースによると、毎年度徐々に改善してゆき、2030年度には0.3兆円の黒字になる(ちなみに、目下の財政健全化目標は国だけでなく地方自治体の分も含んだ基礎的財政収支で、これを2025年度に黒字化することを目標としている)。
基礎的財政収支が改善しているのに、公債依存度が悪化するというのはどういうことか。
その差異の原因は、利払い費の増大である。基礎的財政収支の支出側は、政策的経費であって、利払い費は含まれない。だから、利払い費が増えても、基礎的財政収支が直ちに悪化するというわけではない。
しかし、公債依存度の分母は、利払い費を含む歳出総額である。
利払い費が増えることで歳出総額が増えると、利払い費が増えるほどには税収が増えなければ、国債発行を増やさないと収支の帳尻が合わず、結果として公債依存度が上昇することになる。デフレから脱却して物価上昇率が安定して2%近傍になれば、当然として国債金利も上昇する。それに伴い、利払い費も増加する。
ツケ回しのコスト=利払い費が増加
この利払い費は、これまで今を生きる世代が負うべき税負担を回避して発行してきた国債に伴う費用である。いわば後代にツケを回したことに伴うコストである。それすら払わないということでは、無責任極まりない。
そのコストをも含んだうえで、できるだけ後代にツケ回さないように、公債依存度を引き下げてゆく必要がある。無駄な財政支出を削減することを通じて国債発行を減らすことで、公債依存度は下げられる。
中長期試算では、今の財政構造のままでも25%を割らない程度には公債依存度が下がるとの見通しであるから、無駄な財政支出を削減するという規律付けのためには、もう一段の引き下げ、例えば20%程度まで公債依存度を下げるような政策努力が必要だ。
そうすることで、後代へのツケ回しを和らげることができる。
(土居 丈朗 : 慶應義塾大学 経済学部教授)