「第2青函トンネル」議論はどこまで進んでいるか
北海道新幹線は2016年3月に新函館北斗へと開業して雪と闘いながら安定輸送を築いている(湯の里知内信号場)(写真:山井美希)
鉄道ジャーナル社の協力を得て、『鉄道ジャーナル』2024年4月号「北海道新幹線札幌延伸に千秋の期待と重い現実」を再構成した記事を掲載します。
北海道新幹線は新函館北斗ー札幌間の建設工事が続けられている。工事は一部で遅れているが、国としては2030年度末の開業時期を取り下げていない。また、並行在来線のあり方を巡ってはさまざまな動きがあり、さらに広域の物流問題も絡んでなかなか今後の方向が見えてこない。そこで今、実際にどこでどのような話があるのか関係者に聞き歩いてみたが、そのうちここでは、北海道新幹線の今後のあり方とリンクする物流問題に関して抜本策として提案されている第2青函トンネルの話題を取り上げてみたい。
青函トンネル内の新幹線 2種類の速度引き上げ
「新幹線」であるにもかかわらず在来線貨物列車と線路を共用する青函トンネルでは、貨物列車とのすれ違い時に地震が発災した際の安全性への懸念から、新幹線開業時には列車の最高速度が時速140kmに制限された。それまでの特急列車の速度に事務的に合わせた規制である。だが、それでは新幹線本来の高速性が削がれることになり、新幹線開業前の2012年から国の運輸政策審議会に「青函共用走行区間技術検討ワーキンググループ(WG)」が置かれ、実際の走行も検証して、まずは2019年3月改正で共用区間のうち青函トンネル内のみ最高速度を時速160kmに引き上げた。
同WGでは2点目の課題として時速200kmを目指す検討も行った。こちらは新幹線列車と貨物列車の走行時間帯を分ける「時間帯区分案」を採用、2020年から貨物列車の運転が減る大型連休時や年末年始に限り行うこととし、同年ゴールデンウイークから時速210km運転が実施された。これで東京ー新函館北斗間は初めて4時間をきった。
このWGの検討をさらに深掘りするため2017年には「青函共用走行区間等高速化検討WG」が設けられた。その検証結果から、本年のゴールデンウイークから時速260km化が図られる。
だが、いずれにしても時間帯区分では通年で実施するには課題が多く、首都圏対札幌の時間短縮に資する新幹線の高速化は解決のめどが立たない、国としても悩ましい課題の1つになっている。現在、盛んに貨物新幹線が言われ、軽量の生鮮品や急送品輸送は実証実験から事業へと発展したものもあるが、貨物全体から見たボリュームはわずかなもので、在来線貨物輸送を肩代わりするものではない。宅配便のパレット輸送なども提案されているが、本格的に貨物を新幹線に移すことはかなり困難である。そもそも線路施設が重量貨物列車の通過を想定していないのだ。
函館山を望みながら道南いさりび鉄道線を走り青函トンネルに向かう上り貨物列車。青函トンネルは津軽海峡の荒波も関係ないルート(上磯〜茂辺地)(写真:山井美希)
ゼネコンを中心とした民間から提案される抜本策
それに対して、もう1本の青函トンネルを掘り新幹線と貨物列車の走行路を完全に分ける抜本的なプランが民間で構想され、提案されている。その一つを手掛けるのが日本プロジェクト産業協議会(JAPIC)だ。JAPICはゼネコンを中心に現在は200社以上で構成される一般社団法人で、政官学や経済界・産業界、マスコミが同法人の場を通して議論し、政府に具体的なプロジェクトを提言してゆく。1983年に発足し、東京湾横断道路(現東京湾アクアライン)の整備を皮切りに、関空やつくばエクスプレスもJAPICから民間の声として上げて実現させている。
元来、国家的に資する大規模プロジェクトは三全総、四全総などの中で国が自ら立案してきた。しかし経済の停滞と財政の逼迫、国民・マスコミの大規模施設に対する視線の変化から、国が積極的に動かなくなった。だが、その姿勢により日本の経済的地位は下がり、その一方で激甚災害などは増加し、よりしっかりしたインフラが求められる時代となった。施設は必ず老朽化する。日本の人口は減る。だからこそ今のうちに手を打っておかないと、衰退に拍車がかかり、困るものも多い。そこで民間から将来の国土造りのインフラを提言する組織だと言う。三本柱に防災・減災・国土強靭化に関係するもの、国内立地で国際競争力を強化するもの、地域活性化に資するものを挙げ、額で言えば1兆円前後のプロジェクトを考える。
重点プロジェクトとして現在、全国に12の構想を描いている。その一つが「津軽海峡トンネルプロジェクト」、すなわち第2青函トンネルで、JAPIC案は現ルートに並行して竜飛ー福島間に内径15mのトンネルを建設し、その上段に上下1車線ずつの自動運転自動車専用道路(乗用車も自動運転を想定)、下段に単線の貨物列車専用の線路と、その両脇に避難通路兼緊急車両の走行路を設ける。車道を自動運転に限定するのも、鉄道を単線とするのも小断面として建設費を抑えるためで、海底区間へのアプローチは現トンネルより短く、海底下の土被りも浅い位置で考える。
もちろん、JAPIC案がそのまま採用されることはないにしても、絵空事では意味をなさないので、20〜30年後の技術を想定しながら、プロジェクトごとに10名前後の専任チームを編成して実現可能なまでに詰めた精度で、設計のみならず、工程から事業方式、詳細な収支見通しに至るまで立案されている。建設期間は15年で、事業費は概算7200億円と見積もる。
これを実現させれば、函館ー青森間の自動車の所要時間は5時間から2時間半に短縮、同区間の大型車の物流コストは46%削減、高速バスによる新しい交通手段も生まれ、現トンネル経由の新幹線は全列車の高速化が可能で東京―札幌間4時間台になる。食の安定供給に加え、安全保障的に海外からのエネルギー供給が途絶した時、北海道を再生エネルギー基地とすれば本州に届けられる。ベースは経済効果、ストック効果であり、物流の増加、交流人口や観光消費による経済効果は年878億円と弾いている。
第1次のプランは2017年に発表され、その後、第2次案にブラッシュアップされている。2020年末には当時の赤羽国交大臣宛に提案された。現在はシンポジウム等を重ねて広く実現への機運醸成を図っているところだ。
先送りが招いた現状に対する将来の姿は?
北海道新幹線を巡っては、さまざまな問題や課題を抱え、さまざまな動きがある。それにしても、いずれの問題も今になって発覚したことではなく、新幹線の札幌延伸を決定する頃からわかっていたはずだ。しかし、問題が大きいだけに課題として向き合わず、当面に処理すべきことを優先して、先延ばし、先送りにしてきたのが実情ではないだろうか。結果、外的な新たな問題も加わって難題としてより大きくなってしまったのだろう。
2030年度末まであと7年、その数年前までに決めるべきは決めておかないと、時間切れで必要な準備すらできなくなる。北海道新幹線が札幌まで開通する頃、ニュースはどのような国内事象を報道しているだろうか。
(鉄道ジャーナル編集部)