井上尚弥が抜けても熱いバンタム級 中谷潤人参戦で動く勢力図、次に世界戦線に加わるのは誰だ
どうなる群雄割拠のバンタム級
ボクシングのトリプル世界戦が24日、東京・両国国技館で行われ、2つの世界バンタム級タイトルマッチが実施された。WBA王座は井上拓真(大橋)が9回44秒KO勝ちで初防衛成功。WBC王座は中谷潤人(M.T)が衝撃6回1分12秒TKO勝ちで3階級制覇した。2022年12月に井上尚弥(大橋)が4団体を統一し、階級転向に伴って返上したベルト。王者候補の日本人実力者も多く、タレント豊富な熱い階級がさらに活況を呈している。
1960年代に世界王座に君臨し、この階級で歴代最高と言われたエデル・ジョフレ(ブラジル)の異名「黄金のバンタム」から、現在でもそう呼ぶファンも多い階級。53.5キロの制限体重により、体格的にも日本人が多く、かつてはファイティング原田、辰吉丈一郎、薬師寺保栄、長谷川穂積、山中慎介ら錚々たる名王者がいた。不朽の名作漫画「あしたのジョー」の主人公・矢吹丈もバンタム級。日本のファンには特別な階級とされてきた。
現代ボクシングはWBA、WBC、IBF、WBOの4つの主要団体があり、尚弥が2022年12月にこの階級初の4団体統一に成功した。転級により、23年1月に全ての王座を返上。昨年はタレント揃いの階級で争奪戦が勃発した。
そして24日にWBAとWBCのタイトルマッチが行われ、拓真がジェルウィン・アンカハスを撃破。3階級制覇に挑戦した中谷が、WBC王者アレハンドロ・サンティアゴ(メキシコ)を衝撃の6回1分12秒TKO勝ちで王座奪取した。
拓真はリング上で「バンタム級は盛り上がっていますけど、『頂点には井上拓真あり』というところを見せていきたい」と堂々宣言。会見では、中谷についても「互いに勝ち続ければいつかは当たる。その日が来るまで負けずに勝ち続けたい」と強敵を歓迎した。
中谷は「統一戦もですし、PFP入りすることが目標に持っているので、そこに向けてビッグファイトしていきたい」と飛躍を誓った。ともに4団体統一を目標に掲げているため、激突する可能性もある。
比嘉、堤、武居が虎視眈々、石田、西田は挑戦権保持、那須川天心も
特に1つ下のスーパーフライ級で対戦を避けられるなど、強さを見せつけてきた中谷のバンタム級参戦は大きい。同級は拓真と中谷のほか、IBFはエマヌエル・ロドリゲス、WBOはジェイソン・マロニーが王座を保持。ともに強すぎる尚弥に敗れはしたが、実力に疑いのない王者だ。
WBAは石田匠(井岡)がランク1位として挑戦権を持つ。拓真陣営の大橋秀行会長は「次は石田匠選手と指名試合。拓真は怪我もないので、尚弥と同じ日の試合になると思う」と5月に計画される東京D興行に参戦の見通しだと明かした。IBFの挑戦者決定戦を制した西田凌佑(六島)については、IBFが5月4日の大阪開催でロドリゲスに挑戦すると公表している。
他にも日本人の実力者がひしめいている。東洋太平洋王者・栗原慶太(一力)のほか、元WBC世界フライ級王者・比嘉大吾(志成)は体重超過による資格停止処分から復活し、WBA5位、WBC7位、IBF10位、WBO5位につける。
日本王者だった堤聖也(角海老宝石)も4団体でランク入りし、日本王座返上で世界挑戦に照準。19日の年間表彰式でも「世界は必ず獲ります」と宣言していた。元K-1王者の武居由樹(大橋)はボクシングデビューから8戦全KO勝ち。「心の準備としてはいつでも行けるぞと思っている」と着実に成長しながら世界獲りを見据えている。
キックボクシングから転向し、ボクシングデビュー3連勝の那須川天心はWBA7位、WBO14位。帝拳ジムは慎重に育成していく方針のため世界戦線に加わるのは当面先の話だが、近い将来に主戦場となるバンタム級で台風の目になるかもしれない。
そして、元5階級制覇王者ノニト・ドネア(フィリピン)も忘れてはならない。昨年7月の再起戦は22年6月の尚弥戦に続いて2連敗。世界ランクから外れたが、今回の興行取材で来日したフィリピン記者たちは「彼は現役を続ける」と口をそろえていた。41歳のレジェンドも戻ってくる群雄割拠のバンタム級。動き続ける勢力図の中でサバイバルが行われる。
(THE ANSWER編集部・浜田 洋平 / Yohei Hamada)