上昇する出生率、労働力人口に占める女性の割合の増加、子を持つ親への支援策などで注目されたフィンランド出生率は2024年時点で2010年の3分の1近くまで下がっています。一体なぜ成果が現れなかったのかについて、フィンランド家族連盟人口研究所のアンナ・ロトキルヒ研究部長が解説しました。

Birth rates are falling in the Nordics. Are family-friendly policies no longer enough?

https://www.ft.com/content/500c0fb7-a04a-4f87-9b93-bf65045b9401

出生率低下の傾向は世界中で確認されており、人口増加で知られるインドでさえ理論上の人口置換水準を下回り減少に転じています。

フィンランドでは、子どもの成長・発達の支援および家族の心身の健康サポートを行う「ネウボラ」という制度や、児童手当および就学前教育等が提供される「幼児教育とケア(ECEC)」制度が展開されるなど、子どもとその親への支援策が充実しているのですが、それでも出生率は大きく低下しています。

ロトキルヒ氏らの調査では、1970年代後半から1980年代生まれのフィンランド人が25歳の時点で「子どもが欲しくない」と答えた割合は20人に1人以下だったのに対し、1980年代後半から1990年代前半生まれでは、その割合は4人に1人近くまで上昇したことがわかっています。



かつてほとんどの社会では「子どもを持つことが大人になるために必要なこと」という価値観があったのですが、これは2024年時点で「子どもとは、他のすべてをすでに持っている人が持つもの」という価値観に代わりつつあるようだとロトキルヒ氏は指摘。

別の言葉で言うと、これまで「生活の基盤を固めるために子どもを産む」と考えられていたものが、「生活の基盤を固めて初めて子どもを産める」との考えに変化しているということだそうです。



ロトキルヒ氏いわく、出生率が低下しているのは経済情勢や家族政策が原因ではなく、文化的、心理的な側面が原因だと考えられるとのこと。そのため、フィンランド家族支援政策は子を持つ家族には効果があったのかもしれないものの、本来の目的である出生率の上昇には結びついていないと考えられるそうです。

とはいえ、若い人の中には子どもが欲しいと思っているのに産んでいないという人も多くいて、こういう人たちは「やることがたくさんあってが忙しい」という意見を持っており、子育てを取るか、自由時間の確保あるいはキャリア形成を取るかを迫られています。



この問題に対して政府ができる方法は何かという点について、ロトキルヒ氏は「より良い仕事、より手頃な価格の住宅、育児休暇を取得する人が職場での差別に直面しないという明確なシグナルなどを発するなど、できることはいろいろあります」と話しています。

ロトキルヒ氏は「政府は『経済のために子どもを産め』と若者に言うべきではなく、代わりに将来について安心させるようなメッセージを発するべきです」とコメント。一方で子どもを持たないという選択も尊重し、多くの人は親にならなくても完全に幸せになれると述べました。