あらゆる場面で時代の変化を感じた2023年は、新たな挑戦を始めた料理人たちが多かった。

更なる料理の追求と、食の悦びを伝えるため、確たる地位を築きながらも、新たな一歩を踏み出した5軒をご紹介!

フレンチ、和食、鮨……高みを目指して飛翔する、東京都内にある人気店の進化に注目した!


1.銀座の名店が、虎ノ門で圧巻のカウンターフレンチへ変身を遂げた
『L'ARGENT』@虎ノ門



2023/10/2 OPEN



「お客様と距離の近い空間で料理をしたい」という加藤順一シェフのかねてからの思いがつまった内装。中央の調理台を囲むように設計された、コの字型のカウンターが壮観

最先端の美食で知る、挑戦の先にある進化


かつて多くの料理人は、集大成を叶える場所として銀座を目指した。

パリの三ツ星で働き、コペンハーゲンでは北欧ガストロノミーの本質に触れた加藤順一シェフは帰国後、気鋭の料理人としてつねに注目を集め、銀座にオープンした『L'ARGENT』も美食家のあいだで大きな話題に。



「お客様とのコミュニケーションも大切にしたい」という思いを実現するべく、現在の場所へ移転を決めた加藤さん。刻一刻と変化する、東京の最先端の街・虎ノ門でも磨き上げられた技術をもってゲストとの対話を楽しむ

シェフのプレゼンテーションを存分に体感できる対面カウンターに心高ぶる


ミシュランの星も獲得し、順風満帆そのものだった銀座を離れると決めたのは「お客様と対話できるカウンターの店をどうしてもやりたい」という気持ちが大きかったから。

自分の料理を喜んでくれる人に直接、感謝の思いを伝えられるように。


食材にまつわるストーリーを聞けば、より一層そのひと口が愛おしい


カウンタースタイルへ変わったことにより、食材へのこだわりもさらに研ぎ澄まされた。

「お客様から食材について尋ねられることが増えました。だからこそ、心躍るストーリーが感じられる食材を選びたい」と話す。




「掛川茶 フォアグラのテリーヌ」。

実家が営むお茶農園でシェフ自らが手摘みした茶葉を使用。濃厚なフォアグラにさわやかなお茶の風味を合わせて。

甘みのあるラタフィアワインのジュレを添えている。




「愛知県 高原コーチン」。鶏ガラや野菜の端材から取ったスープを上からかけて仕上げる。

ともに19,800円のディナーコースの一例。


シェフの代名詞ともいえる美しきデザートに誰もが歓声を上げる

「熊本とバラと灰」。阿蘇山のふもとで無農薬で栽培されているバラを主役にしたデザート。竹炭とマスカルポーネのムース、バラ色のバニラアイスの優美なハーモニーを楽しみたい


自己実現のための料理や他者からの評価ではなく、華やかなカウンターに咲くゲストの笑顔こそ、シェフが一番望んだものだったのかもしれない。


― Before ―
かつての『L'ARGENT』は銀座のど真ん中にあった!


移転前は銀座4丁目交差点の一角という“日本最大の好立地”に。

「一流のレストランが集まる銀座はとても刺激的な場所だった」と加藤さん。




時計台正面に位置するテラスからの眺望もドラマティックだと評判だった。


■店舗概要
店名:L'ARGENT
住所:千代田区霞が関3-2-6 東京倶楽部ビルディング 2F
TEL:03-6268-8427
営業時間:ランチ 12:00〜14:30
     ディナー 18:00〜22:30
定休日:日曜、不定休
席数:カウンター17席、テーブル8席、個室1(6席)



2.大人を虜にする名店で、一層ラグジュアリーな体験を
『乃木坂しん』@乃木坂



2023/9/8 OPEN



入店時に目を慣らすため、最初の扉の先の照明を暗く落としている

より贅沢に、より洗練された無駄を削ぎ落とした空間に


和食とワインのマリアージュで比類なきレベルを誇る『乃木坂しん』が、内外装を刷新して2023年秋に再スタートをきった。



会食にも最適な個室。店内のイスはすべてTIME & STYLEから


新デザインのテーマは“現代の数寄屋”。フランスでも活躍する空間デザイナーや日本有数の左官職人に依頼し、上質さに磨きをかけた。

レイアウトも変え、座敷をなくして個室を2室とし、セラーの先もふたり用個室を設けた。


遊び心の象徴ともいえる、セラー奥の隠れ個室が誕生


ふたり用個室の入口はセラーの中。

ワインの棚の先にカウンターの延長線上となる席がある。



飛田さん(左)と石田さん(右)が並ぶ姿も以前より華やかに。節のある板を選んだことで、カウンターにワインのボトルを置いた時の絵力が増した。改装前と比べ、ゲストとの距離を近くすることを心がけたとか


そして印象的なのが、オーナーソムリエの飛田泰秀さんが一目惚れした樹齢300年超の伊勢檜によるカウンターだ。

あえて節のある板を選び、「節から枝が伸びて陽に向かう」と、前進を続ける意味を込めた。

そのカウンターに立つ石田伸二さんの料理は変わらず秀逸で、新たな空間が珠玉のマリアージュを一層引き立てる。




山うにを添えた「鰆の漬け」。




エビ芋と生からすみ、松葉ガニと柿の白和えなどからなる八寸。

合わせるワインはアルザス「マルセル・ダイス」のオレンジワインで、魚卵にも合う。

すべてコース(30,250円)より。


盤石の料理はそのままに、昼限定の鰻コースをスタート


改装に伴い、若手に任せる昼限定の鰻会席の『鰻の刻』をオープン。コース 9,680円。


― Before ―
純然たる和食店らしい親しみやすい空間


2016年から7年続いた以前の店舗。当初からカウンターと個室を備え、使い勝手の良さも評判に。

和食とワインのマリアージュは当時から健在。


■店舗概要
店名:乃木坂しん
住所:港区赤坂8-11-19 エクレール乃木坂 1F
TEL:03-6721-0086
営業時間:17:30〜(L.O.21:00)
定休日:日曜、不定休
席数:カウンター8席、個室2(10席)



3.賑わいや勢いはそのままに、さらに艶やかさを極めた
『鮨 りんだ』@目黒



2023/9/8 OPEN



席数を減らした分、カウンターと付け台の距離感がぐっと近くなった。客席から調理風景を眺められる六角竃も新たに導入し、つまみの内容をさらにブラッシュアップ

席数を減らし、より贅沢でエクスクルーシブな空間に


ときは、じゅうぶんに熟したのである。目黒を代表する鮨店として不動の人気を集め、10周年を迎えるタイミングで大規模リニューアル。

これまで“若手の育成”をテーマに掲げてきた『鮨 りんだ』の生まれ変わったカウンターを任された“シン・大将”は、系列店の『ブルペン』や『ダグアウト』で、その肩をしっかり温め、技を磨き続けてきた佐々木男駆(だんく)さんだ。

改装によってカウンターの客席は半分に縮小したが、その分ゲストとのコミュニケーションを取りながら一品料理に手間をかけられる環境が整った。


“シン世代”の鮨職人による技とアイデアが新鮮


夜のコースは33,000円(別途サービス料10%)でつまみ8品、握り12貫前後を提供。

魚種によってシャリの酢の配合を変えるなど、ルーキーからエースへとたくましく成長した若き大将の創意が光る。その辣腕ぶりに“シン酔”すること間違いなしだ。




「雲丹のせカマトロ」。

軽く炙った三厩のトロとうにのとろけるハーモニーに陶酔。




「車海老」。

活きたエビを10〜15秒ほど茹でてそのまま握ることで反り上がった姿形に。




「香箱ガニのぐつぐつ鍋」。

内子と外子、足のほぐし身を使った冬の贅沢鍋。濃厚な味わいを楽しんで。


どこにあるかわからない、デート仕様の個室を設置


リニューアルにあたり、ふたりで利用できる“シン・個室”も。これ以上ないほどデート向き。




入店すると細長いアプローチが。着席するまでの動線にも気持ちが高まる。プチ迷路のような空間づくりにも心を掴まれるはず。

店の対面には6席のみの、スタイリッシュな個室カウンター『R』もある。




山手通りに面し、目の前にはバス停もあるが、夜になると入り口は宵闇に包まれ、妖艶な雰囲気に。


― Before ―
町寿司の雰囲気もあり、よりカジュアルだった


リニューアル以前は、17席のコの字型カウンターで営業。

気取らない雰囲気と勢いのある接客で、瞬く間に人気店の仲間入りを果たした。


■店舗概要
店名:鮨 りんだ
住所:目黒区下目黒2-24-12 イメージスタジオ109 1F
TEL:03-6420-3343
営業時間:ランチ 12:00〜14:00
     ディナー 18:30〜21:30
定休日:日曜、月曜
席数:カウンター8席、個室2(9席)



4.知る人ぞ知る名店の新たな挑戦は、東麻布の豪奢な空間
『膳司 水光庵』@東麻布



2023/6/7 OPEN



店主の石田さんは店からほど近い港区三田の出身。進学校に進みながら、日本文化の素晴らしさを学びたいと料理の世界に進んだ


2015年の三田での開業以来、食通たちを魅了してきた『膳司 水光庵』。

紹介制であったが、ご主人の石田知裕さんによる茶懐石を目当てにその席を求めた人は数知れず。

石田さんは『京都 吉兆 嵐山本店』で17年修業し、うち7年は副料理長として腕をふるい食通の信頼も厚い。

そんな名店が、2023年6月に東麻布の住宅街に移転。


銘木によるカウンターが高級感を演出する

カウンターは鉄刀木(たがやさん)の一枚板。紫檀、黒檀とともに三大唐木といわれている銘木だ。隣に個室もあり。格式高い内装は、京都『未在』や『東麻布 天本』も手がけた杉原デザイン事務所によるもの。店内には明治〜大正の文人画家として知られる富岡鉄斎の掛け軸もあり


新店舗は「市中の山居」に倣い、都会のど真ん中とは思えぬ風雅な佇まいを見せている。

足灯籠が灯る入り口の扉を開ければ、まず待合があり、その先に銘木の一枚板が落ちつきを放つカウンター席が広がる。

紹介制ではなくなったことも大きな違い。


一層洗練された空間で、料理にも磨きがかかる


強肴の「川岸牧場神戸ビーフの炭火焼き」。



縞鯵の香りと旨みを堪能できる「縞鯵の炙り棒寿司」。ともに44,000円〜のコースから


さらに特別感を増した新店で、和の美学を知る夜を過ごしてみて。


― Before ―
三田の隠れ家的な一室で、京の文化を伝え続けた


以前はマンションの一室に入り、テーブル席のみ。

一日ひと組限定のクローズドな空気感で、部屋には希少性の高い調度品が飾られていた。


■店舗概要
店名:膳司 水光庵
住所:港区東麻布2-14-8 フィル・パーク東麻布 1F
TEL:070-4488-3877
営業時間:[一部]16:30〜19:30
     [二部]20:00〜23:00
     ※一斉スタート
定休日:日曜、月曜
席数:カウンター8席、個室1(6席)



5.あの実力派フレンチが、麻布台の地でより贅沢な時間を提供
『レストラン ローブ』@六本木一丁目



2023/6/30 OPEN



ワイドなオープンキッチンとなり、調理のライブ感を一層ダイレクトに感じられるレイアウトとなった。大地の茶色と深海の濃紺、それを調和させる白を基調とするカラーリングは東麻布時代と変わらない。シャンパンの泡をイメージした壁のデザインも引き継いでいる

調理の臨場感をより近くに感じられる仕様に


一ツ星の人気フレンチ『レストラン ローブ』。そんな実力派が今年初夏に移転、グレードアップを果たした。

新天地は、六本木一丁目のオフィスビル1階という意外な場所だが、高級レジデンスや緑溢れる広場がすぐ隣にある超一等地だ。

密やかな入口を抜けて店に入ると、静寂とともに非日常に包まれる。


料理のエレガントさと華やかさもアップ!


オーナーシェフの今橋英明さん、パティシエの平瀬祥子さんのクリエイティビティにもより磨きがかかった。自然の情景を皿に投影したかのような美しい料理がゲストを魅了。

そして、ソムリエの石田 博さんの選ぶワインがそれらの味わいをより深めてくれる。




藁で蒸して香りをつけた「蝦夷鹿内もも肉 里芋」。

横にはコーヒーが香る里芋のピュレと鹿のパテ。



クレームダンジュに薔薇のアイスクリームやローズヒップのメレンゲ、黒イチジクを合わせた「イチジクと薔薇のヴァシュラン」。ともにコース(25,300円)より


店名の『L'aube(ローブ)』とは、「夜明け、誕生」という意味の仏語。

その名のとおり、新たな始まりは華々しく開幕した。


― Before ―
東麻布のビルの2階の密やかな空間だった


以前は縦長のレイアウト。

卓上のオーナメントは今橋さんが信頼を置く金沢のクリエイティブ集団「secca」の作品で、新店でも置かれている。


■店舗概要
店名:レストラン ローブ
住所:港区六本木1-9-10 アークヒルズ 仙石山森タワー 1F
TEL:03-6441-2682
営業時間:ランチ 11:30〜(L.O.12:30)
     ディナー 18:00〜(L.O.19:30)
定休日:日曜、月曜
席数:テーブル28席、個室1(8名)


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