男性の更年期障害(LOH症候群)治療法を医師が解説 注射・塗り薬などの効果は?

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更年期障害というと女性に発症するイメージがありますが、実は、男性にもあります。あまり知名度が高くないため、症状が出ても見過ごしている可能性も……。一体どのように治療するのかなどについて、中野駅前ごんどう泌尿器科の権藤先生に聞きました。

監修医師:
権藤 立男(中野駅前ごんどう泌尿器科)

2003年東京医科大学卒業。2003年東京医科大学泌尿器科入局、東京医科大学八王子医療センター。2005年東京医科大学泌尿器科助教、2008年川崎市立井田病院消化器外科、2010年東京都立広尾病院泌尿器科、2012年米国メモリアルスロンケタリング癌センター、泌尿器科客員研究員、2014年東京医科大学泌尿器科専任講師、医局長。2019年東京国際大堀病院副院長、泌尿器科診療部長。2022年中野駅前ごんどう泌尿器科院長。医学博士、日本泌尿器科学会 泌尿器科専門医、指導医。日本泌尿器内視鏡学会泌尿器腹腔鏡技術認定医、泌尿器ロボット支援手術プロクター(ロボット手術指導医)、日本内視鏡外科学会腹腔鏡技術認定医(泌尿器科領域)、日本がん治療認定医機構がん治療認定医。

男性更年期障害(LOH症候群)とはどんな症状の病気? 男性ホルモン(テストステロン)の低下が関係しているって本当?

編集部

男性にも更年期障害があると聞きました。

権藤先生

はい、女性の更年期障害は有名だと思いますが、実は、男性にも更年期障害があります。主に50~60歳代の男性で症状が見られ始めるとされていますが、早ければ40歳代で見られることもあります。LOH症候群(加齢男性性腺機能低下症候群)とも呼ばれています。

編集部

原因はなんですか?

権藤先生

女性の更年期障害が、女性ホルモンの一種であるエストロゲンの分泌量が低下することで起きるのと同じように、男性の更年期障害も男性ホルモンの低下によって起こります。

編集部

男性ホルモンはどのようにして分泌量が低下するのですか?

権藤先生

20歳代をピークに、加齢とともに男性ホルモンは緩徐(かんじょ)に低下します。特に40歳を超えてくると、社会的地位の変化やストレスの増加、体力の低下などをきっかけに男性ホルモンが急激に低下することがあります。一般的には男性ホルモンが急激に低下すると、それに伴って症状が強く出現すると言われています。

編集部

なぜ、男性ホルモンの分泌量が低下すると更年期障害が起きるのですか?

権藤先生

体のあらゆる部位には男性ホルモンの受容体と呼ばれる結合部があり、男性ホルモンが受容体にくっ付くことで身体や精神の機能を正常に保っています。男性ホルモンのテストステロンには筋肉や骨を強くしたり、性機能を正常に保ったり、記憶力や認知力を高めたりする働きがあります。しかし、20歳代をピークに分泌量は減少し、それに伴って心身にさまざまな症状が現れるのです。

編集部

具体的に、どのような症状が現れるのですか?

権藤先生

症状は非常に多岐にわたります。一般的に、身体症状と精神症状に分類できます。

・身体症状
早朝勃起現象(朝勃ち)の消失、勃起不全(ED)、ほてり、のぼせ・汗をかきやすい、身体がだるい、筋力低下、骨密度低下、頭痛・めまい・耳嶋り、尿の勢いが悪い、頻尿、夜間頻尿など

・精神症状
不眠、無気力、元気がない、怒りやすい、なんとなくイライラする、性欲低下、集中力や記憶力の低下、認知力の低下など

男性更年期障害の治療法を医師が解説 急激に低下した男性ホルモンの補充療法(TRT)・漢方薬・塗り薬とは?

編集部

男性更年期障害には、どのような治療法が有効ですか?

権藤先生

まずは、男性ホルモンを上昇させることが治療の主体となります。最も一般的な治療法が、男性ホルモン(テストステロン)補充療法(TRT)。早ければ投与直後から効果を実感できることもあります。

編集部

具体的には、どのようにして男性ホルモンを補充するのですか?

権藤先生

注射と軟膏があります。注射の場合には、テストステロン製剤を使用し、定期的に筋肉注射をしてテストステロン値を上昇させます。

編集部

注射にはどのようなメリットがあるのですか?

権藤先生

注射は体内に投与できるため、確実に効果を期待することができます。ただし、更年期障害の症状が強くても、男性ホルモンの低下と症状が本当に関係しているのかは治療しないとわかりません。そのため、まずは注射による治療をして、効果があるかを確認することが大切です。

編集部

治療効果はどのようにして評価するのですか?

権藤先生

AMSという問診票を用いて症状の重症度を評価します。この評価を定期的に行い、注射による治療が有効であり、かつ、男性ホルモン低下と症状が関係しているとわかった場合には、注射による治療を長く継続する場合があります。

編集部

一方、軟膏はどのようにして治療するのですか?

権藤先生

テストステロンを含有する軟膏を使用します。最も汎用されているのは1%のテストステロン含有軟膏で、1日1~2回規定の量を陰嚢、顎下、内腿など皮膚が薄く毛の少ない場所に塗布し、皮膚から吸収を促します。

編集部

治療を行う上での注意点はありますか?

権藤先生

注射による治療は、生理的な範囲をこえて男性ホルモンを過剰に増加してしまうという危険性があります。男性ホルモンが過剰になると、脳から精巣へ刺激を与えている内因性のゴナドトロピンが抑制されてしまいます。すると精巣への刺激がなくなり、精子機能低下や精巣萎縮をきたすとされています。一方、軟膏による治療は、男性ホルモンの上昇が生理的な範囲にとどまるため、基本的には内因性ゴナドトロピンの低下をきたさないというメリットがあります。したがって、精子機能低下や精巣萎縮は報告されていません。

編集部

そうなると軟膏の方が、安全性が高いということでしょうか?

権藤先生

患者さんの年齢や症状にもよります。たとえば当院では、患者さんが40~50歳代であれば精子機能を温存するため、できるだけ軟膏による治療を勧めています。あるいは、最初に注射による治療を数回行い、あとから軟膏に切り替えることもあります。

編集部

そのほか、注意点はありますか?

権藤先生

前立腺がんやそれが疑われる患者さんに対する治療の安全性については、現在も議論が続いております。しかし、現在では、泌尿器科の専門医が注意しながら治療を行う範囲では問題ないという考えが主流です。

編集部

漢方薬も使用できるのですか?

権藤先生

はい、テストステロン注射による副作用を避けたい場合やさらに別の治療効果を期待している場合には、漢方薬を使用することがあります。通常、女性の更年期障害に対しては当帰芍薬散(とうきしゃくやくさん)、加味逍遙散(かみしょうようさん)、桂枝茯苓丸(けいしぶくりょうがん)を用いることが多いのですが、男性の更年期障害にもこれらは有効とされています。

編集部

そのほかにも使用する漢方薬はありますか?

権藤先生

補中益気湯(ほちゅうえっきとう)は男性ホルモンを上昇させるとの報告も散見され、体力の増加、疲れの改善などの効果も期待でき、よく使用する漢方薬のひとつです。

男性更年期障害の治療による改善効果はどれくらい?

編集部

注射による男性更年期障害の治療効果はどれくらい、期待できるのですか?

権藤先生

男性ホルモン(テストステロン)補充療法を行えば、確実に男性ホルモンを上昇させることができます。もともとの男性ホルモンの数値や症状にもよりますが、研究によるとだいたい70%くらいの人には効果が見られることがわかっています。しかしながら、男性ホルモン低下と症状が必ずしも関与しない場合もあるので、効果があるかどうかは2、3回の注射治療を行うことが確実です。

編集部

一方、軟膏による治療効果はどうですか?

権藤先生

皮膚の吸収力の違いなどによって、やや個人差が強い印象があります。塗り薬による治療の場合は、十分男性ホルモンの値が上昇していることを血液検査によって確認しながら進めることが必要でしょう。

編集部

最後に、Medical DOC読者へのメッセージがあれば。

権藤先生

男性ホルモン補充療法はとても有効な治療ですが、場合によっては多血症や精巣萎縮などの副作用を招くこともあります。そのため、定期的に状態をチェックしながら治療を続ける必要があります。必ず血液検査によるホルモンチェックを行い、きちんと治療効果が得られているか確認しながら継続しましょう。また、男性更年期障害に対する認知度は上がりつつありますが、ホルモン補充療法には繊細なコントロールが必要とされるため、治療効果を確実に得るには経験豊富な医師による治療をお勧めします。

編集部まとめ

女性の更年期障害ほど知名度は高くありませんが、確実に男性の更年期障害も認知度が上がりつつあります。正しく治療を行えば、確実に効果が期待できますから、「歳のせい」「仕方ない」といって症状をあきらめず、ぜひ、信頼できる医師に相談してみましょう。

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