空港で預けられるペット。同伴搭乗の問題について考えてみます(写真:CHAI/PIXTA)

羽田空港で日航機と海上保安庁の航空機が衝突して炎上し、日航機の乗客367人と乗務員12人は無事でしたが、海保機の乗員5人が亡くなりました。

日航機の貨物室に預けられたペット2匹は救出できなかったことで、ペットを貨物室に預けることに反対する声が、SNSを中心にあがりました。

女優の石田ゆり子さんが「いろんな意見があると思いつつも家族同然の動物たちを機内に載せる時、ケージに入れて機内に持ち込めることを許して欲しいです」と自身の意見をSNSに投稿。さらに「災害時、非常時には、モノとしてではなく家族として、最善を尽くす権利を…。生きている命をモノとして扱うことが私にはどうしても解せないのです」と投稿すると、コメント欄には賛否両論が多数寄せられ、議論が過熱しました。

その後も芸能人やコメンテーター、政治家、料理人などが、次々にSNSなどに投稿するなど、更に議論が白熱するという状況になったのです。

同伴搭乗でも緊急時は人命優先

北九州を拠点とするスターフライヤーは、国内では初めて2022年3月からペットと同伴搭乗できる「FLY WITH PET!」というサービスを導入、今年1月15日からは国内線全便に拡大しました。

緊急時の対応について公式サイトでは、「緊急時の酸素サービスはペットにはご利用いただけません。また脱出の際にはペットは機内に置いて行かなくてはなりません」と明記されています。

欧米では多くの航空会社で同伴搭乗サービスを行っていますが、その運航規約にもペットは「手荷物」として扱われる旨が記載されています。「緊急脱出の際には手荷物は機内に残して脱出しなければならない」というルールが、ペットにも当てはまります。

ではなぜ、それらを持ち出してはいけないのでしょうか。

国土交通省のウェブサイトには、航空局からの非常脱出時における適切な対応のお願いとして「何も持ち出さないで!ハイヒールは脱いで!」と記載。理由として、「非常脱出時に手荷物を持ち出すことやハイヒールを履いたままの脱出は、ご自身の脱出の遅れや他の旅客の脱出の妨げになるほか、ご自身や他の旅客が負傷したり、脱出スライドが損傷し、使用出来なくなるおそれがあります」としています。

2019年5月にモスクワの空港に緊急着陸した旅客機の炎上事故では、脱出スライドによる非常脱出の際に、多くの旅客が死傷しました。非常脱出時に一部乗客が手荷物を持ち出したことで、他の乗客の脱出が遅れた可能性もあると報道されています。

元キャビンアテンダントの指摘

JALの元キャビンアテンダントのAさんは、ペット同伴搭乗をさせた場合の非常時に想定されることについて、下記のように指摘します。

■ペットを機内に同伴できても、非常時に連れて脱出することはできない

■「置き去りにできない」と連れだそうとする乗客が出てきた場合、自身の避難の遅れや他の乗客の脱出の妨げになる

■「ペットを連れていけないなら、私も避難しない」という乗客が出てきた場合、乗務員も全員機内に残ることになる

■脱出時は急降下するスライダーを滑り降りる必要があり、何か持っていては乗客の安全を確保できない

■ペットケージを持って降りた場合、その角などでスライダーが破損すれば、他の乗客が脱出できなくなる

■ペットを抱いて降りた場合、ペットの爪でスライダーが破損すれば、他の乗客が脱出できなくなる

■脱出のためにペットをペットケージから出した場合、ペットが興奮して暴れる、乗客を噛む、逃走するなどの2次的な事故が起これば、乗客の脱出の妨げになる

もちろん、ペットは飼い主にとって大切な“家族の一員”で、非常時に連れて脱出できないのは耐えがたいつらさです。しかし、「あくまで人命が最優先」であり、同伴搭乗でもそれが変わることはありません。

ルールを無視した行動を飼い主がした場合、2次的な事故で多数の犠牲者が出る可能性もあります。

今回の事故で2匹の命を助けられなかったのは本当に無念ですが、人命救助を最優先して、迅速的確にJALの乗務員が行動したからこそ、全員脱出を実現できたのでしょう。

同乗搭乗はペットにとって快適か

そもそも、ペットとの同伴搭乗は動物にとって快適なのでしょうか。

ソラシドエアの機内環境の説明を要約すると、「飛行中の客室内の気圧は地上より低く、離陸・着陸時には気圧の変化が起こる。機内温度はエアコンで調整されているが、湿度は20%まで低下することも。離陸・着陸時や気流の悪いところでは機体が大きく揺れる」とされています。

犬や猫は、温度、湿度、気圧の変化、また音、揺れ、においなどの影響を受けやすいため、多くの航空会社がそのリスクが高いとされるパグやブルドッグなどの短頭種の搭載を許可していません。しかし短頭種に限らず、体が小さい犬や猫は人間以上に影響を受けやすいので、決して良い環境とはいえないのです。

同伴搭乗が可能な航空会社の多くは、座席をエコノミークラスと指定していて、ペットケージに入った犬や猫を座席の下に置くことになります。

飛行機などを利用して世界各国の飼い主のもとへ犬や猫を届ける仕事をしているSさんは、同伴搭乗で下記のような出来事があったと話します。

■アレルギーを持つ乗客が隣席になり、「他の席に移動してほしい」と言われた。

■においに敏感な乗客が隣席になり、「くさい」と言われた。

■天候不良で機体が大きく揺れた際、猫が飛行機酔いして何度も吐いてしまった。吐いたものを処理したが、猫の体などに付いたものは取り切れず、周辺の乗客から「くさい」と言われた。

■犬が鳴き続けてしまい、「うるさい!」と周辺の乗客から怒鳴られた。

■シートベルト着用サインが出ているときに、猫が下痢をしてしまった。猫のお尻や尻尾に付いた便は拭いただけでは取りきれず、周囲の乗客から「くさいので別の席に移動してほしい」と言われた。

■飛行中に猫がペットケージを引っかき続け、「うるさい!」と隣席の乗客に怒鳴られた。猫も爪が剥がれて、出血してしまった。

Sさんは言います。「同伴搭乗は、常に犬や猫を見ていられるのでその点の安心感は高まりますが、犬や猫にとって快適だとは思いません。また、ほかの乗客への気遣いがかなり重要になりますね」。

筆者は愛犬・愛猫と暮らしていますが、彼らとの移動の手段として飛行機を選択するのは、最終手段と考えています。その理由は、前述した「脱出の際にはペットは機内に置いて行かなくてはならない」ということ、またそれ以前に、彼らにとってほかの移動手段のほうが快適だと感じているからです。

例えば、新幹線は「手回り品」の切符を駅の窓口で購入すれば、犬や猫と同伴乗車できます。特大荷物スペースつき座席を予約すれば、大きめのペットケージを置くこともできます。

鳴いたり、粗相をしたりした場合は、デッキに出て対応するか、次の駅で下車することも可能です。素早い対応ができるので、周囲の人に迷惑をかけることやペットの不快感などを軽減できます。

タクシーに同伴乗車するときは、まず運転手さんにペットを乗せてよいか聞く必要がありますが、ほかに乗客はいないので、飼い主もペットも落ち着いて乗車できます。ペット同伴専用のタクシーであればより安心です。

筆者の場合は、移動のほとんどが自家用車です。周囲の人への配慮も、車から降りたときだけで済みます。何より愛犬・愛猫も乗り慣れていますし、ストレスも最小限で移動できます。

目的地にもよりますが、飛行機、船、電車、バス、タクシー、車などペットを同伴できる移動手段はたくさんあります。しかし、それぞれにおいて非常時のリスクや周囲の人への配慮の範囲も大きく違ってきます。

それらを十分に理解したうえで、ペットの種類、健康状態、年齢、性格などを考慮し、できる限りリスクが低く、快適な移動手段を選択することが大切なのではないでしょうか。

「モノ」ではなく「命あるもの」

動物愛護管理法第2条の基本原則にあるように、犬や猫などのペットは単なる「物」ではなく「命あるもの」です。

飛行機に限らず、ペットの同伴や搭載、乗車を許可するのであれば「あくまで人命が最優先」で、その後に「ペットの救助」という考えを持ち、救急救命についてのプロトコルを作成するなど、備えることが必要です。

筆者が、一般社団法人日本国際動物救命救急協会のペットセーバー(ペットの救急隊員)プログラムに参加した際、アメリカの消防局にはペット救助のノウハウがあり、ペット用の酸素マスクなどの救急セットも常備、動物救助専門チームも設置されていると聞きました。

フランス、カナダ、ドイツも同様で、実際に火災発生現場などにおいて、犬や猫などのペットが救助されています。

日本でその体制を確立するには、法改正や関係団体のシステム改善、連携などが必要ですが、動物愛護の精神からも議論の余地があるのではないかと筆者は考えます。今回の事故によるペット同伴搭乗の議論の根本は、そこにあるのではないでしょうか。

(阪根 美果 : ペットジャーナリスト)