近年、街には立ち食いや高級回転鮨といった目新しさのある業態が誕生。カジュアル化が進み、鮨の裾野が広がった。

そして、2023年はじっくりと力を蓄えた店主が、自由に個性を打ち出す方向に。

今回は、そんな実力派店主が営む、デートにもおすすめな話題の新店6軒をご紹介!


1.どの駅からも離れた三田の一角で、新しき“立ち食い鮨”の概念を知る
『鮨 三か田』@三田



2023/11/10 OPEN



場所は慶應義塾大学の近く。『ラーメン二郎 本店』の向かいの路面店。基本は予約制で、平日は17:00から。日曜は12:00からの昼の部もあり。基本は、1時間一本勝負

古き良き立ち食い鮨と現代らしさの融合


ここ2〜3年、高級鮨店のデフュージョンラインとして次々にオープンした立ち食い鮨の数々。

気軽に1貫から頼めて味はお墨付きとあらば、人気のほどもさもありなんというところだろう。そんな話題の高級立ち食い鮨店から独立して誕生したのが『鮨 三か田』


経験豊富な若き大将が目指す、新しい立ち食い鮨のカタチ

快活な接客も魅力的な安藤さん。かつてのお店からのファンも多い。「若い人にも本格的な鮨を食べて欲しい」とほほ笑む


閑静な住宅街を控える三田に店を構えたのは、安藤 聖さん39歳だ。

これまで、複数の鮨の実力店で経験を積んできた安藤さん。今回、立ち食い鮨を選んだ理由をこう語る。

「限られた人達だけでなく、多くの方に来ていただけるような鮨店をやりたくて。お客様のサードプレイスになれたら最高ですね」と笑う。

そこには、幼い頃、父親に連れて行って貰った立石の立ち食い鮨の名店『栄寿司』での原風景があるのだろう。


iPadでのオーダーが基本なので周りを気にせず注文できるのが嬉しい

カウンターには独特な風合いの屋久島の地杉を使用


とはいえ、店の造りは至ってポップ。

白壁には龍が舞い、店のロゴは自身が好きなスターウォーズ風で、お手洗いにはマーベルのポスター。そして、カウンターにはiPad。



iPadはひとり1台置かれる他、テーブル下にはゆったりとした荷物置きを設置


支払いもキャッシュレスといまどきだが、握りは真っ当。伝統の江戸前鮨を目指す。

師匠からの“鮨は心で握るんだ”という言葉に倣い、誠実な心で握るのがモットーだという。

それを信条にしつつ「夫婦ふたりでゼロからこの店を盛り上げていきたい」と、鮨飯の配合もネタの仕入れ先もすべて一から洗い直し、独自の1貫を追求。




「国産本まぐろ 大トロ」1貫 1,210円。写真は塩釜で揚がった120kgの天然本まぐろ。




「のどぐろ」1貫 1,430円。皮目だけ軽く炙っている。




「国産本マグロ 中トロ」1貫 1,100円。

この日は塩釜産。鮨飯の米は長野の永井農場のあきたこまちの古米を使用。流行の赤酢は使わず米酢のみ。和歌山「九重雑賀」の九重米酢を使用。



煮方を以前の店から少し変えたという「穴子」(1貫 880円)は、安藤さんの自信作。ふわっと柔らかな身質と優しい鮨飯が合う


新たに提唱する鮨のスタイルに、今後も目が離せない。


■店舗概要
店名:鮨 三か田
住所:港区三田4-1-4 1階A
TEL:070-8340-4141
営業時間:【月・火・木〜土】17:00〜(L.O.20:45)
     【日】ランチ 12:00〜(L.O.13:30)
        ディナー 17:00〜(L.O.20:45)
定休日:水曜
席数:立ち食い7席
※キャッシュレス決済のみ



2.港区・芝の裏路地で、フジタのまぐろに出合う僥倖
『佐野鮨』@芝公園



2023/11/8 OPEN



老舗のような風格のある看板が目印。店名を「鮨◯◯」ではなく、『佐野鮨』にしたのは昔ながらの“町鮨”の感覚を大切にしたため


場所は、芝公園の裏路地。

この住宅街に店を構えた理由について「港区なんですが、港区らしからぬ下町の雰囲気が気に入りました(笑)」と『佐野鮨』の店主・佐野正志さん。



店主の佐野正志さんと女将の裕美子さん。出会いは17歳。正志さんが居酒屋店長時代に鮨の修業をしたいと言い、裕美子さんが背中を押した。柔和な接客が評判


自身の店をと考えた時に浮かんだのは、町になじむ昔ながらの鮨店だったそう。

店の外に大きな看板を出し、店内にはネタが書かれた木札も。



すっきりとした数寄屋造りの店内。つけ台に傾斜と溝があるのは醤油が流れないため。常連がフラッと来れるよう1席空けているのも昔ながらの鮨店のスタイル


カウンターも昔ながらの仕様にしたりと、店の造りにもこだわりが見える。



まぐろは「いいものがなければ卸さない」が信条の「フジタ水産」から。「赤身」は厚めに切ることで、味が口いっぱいに広がる


しかし最大の挑戦は、まぐろ仲卸の雄「フジタ水産」の最高級のまぐろを使いながらコースの価格を抑えたこと。

「フジタ水産」との信頼関係は前職『築地青空三代目 丸の内店』の板長時代にその仕事ぶりが認められて実現した。

握りはシャリを多めにして食べ応えがあるのも特徴。



「いくら」は加熱後、味噌漬けにして握りに。チーズや鮒寿司のようなねっとり食感が美味


ほかにいくらを握りで出したり、穴子は腹と尾の両方を一度に握るなどオリジナリティもある。




「穴子」は腹に脂があり、尾に味がある。その両方を味わえるよう合わせて一貫に。



「アワビとボタンエビのつまみ」。アワビの肝と一緒に。すべておまかせコース(25,300円)より


鮨店の多くない芝界隈だが、町と調和する鮨店の誕生に期待は膨らむばかりだ。


■店舗概要
店名:佐野鮨
住所:港区芝2-18-9 1F
TEL:03-6453-9666
営業時間:ランチ 12:00〜
     ディナー 18:00〜
定休日:不定休
席数:カウンター7席



3.日本一高所の鮨店で、ベテラン職人の所作に心打たれる
『鮨 甚江』@新宿



2023/5/19 OPEN



45階のフロアの反対側には、港区方面の夜景を望めるバーもあり、2軒目はそこが鉄板


これまで、東京の鮨シーンで稀有だったのが高層階での食体験。

場所は、「東急歌舞伎町タワー」の45階にあるホテル「BELLUSTAR TOKYO」内。歌舞伎町のど真ん中でありながら、実に洗練された鮨店があるのだ。それが『鮨 甚江』。

優雅なホテルの動線を抜ければ、ガラス窓が大きくとられた静謐な空間が広がる。



奥に飾られているのは、書家・紫舟さんによる歌舞伎をイメージした立体作品。加藤さんの所作とともに日本文化も感じられる


窓の外には、まばゆいほどの夜景が広がり、目の前では熟練の職人による鮨が堪能できる。



“甚江”の店名は、加藤さんの母方の親戚が営んでいた網元の屋号に由来。加藤さん自身も、魚に親しむ環境で育った


大将の加藤 聡さんは六本木の店『桜坂 加とう』を閉め、外国人ゲストも多い歌舞伎町を勝負の場所に選んだ。

おまかせコースは、本格的な江戸前鮨でありながら、藻塩でいただく大トロや八丈島の島寿司にヒントを得た握り、珍しい椎茸の握りなど随所に経験やアイデアが詰め込まれた世界観を披露している。




「あん肝のペースト」はスフレ状の甘いフォアグラのような味。ペアリングは貴腐ワイン。




「さわら」は青唐辛子を漬けた醤油で漬けにしていただく。

辛みはなくさわやかな香りが残りコースのアクセントに。




魚の脂が持つ甘みを塩で引き出すため、「大トロ」は包丁を入れて藻塩でいただく。



「椎茸」は加藤さんの完全オリジナル。すべておまかせコース(30,000円)より


また、加藤さんが提案するペアリングコースでは、ワインや日本酒とのマリアージュも。

“夜景×鮨”という歌舞伎町の新たな体験を存分に満喫したい。


■店舗概要
店名:鮨 甚江
住所:新宿区歌舞伎町1-29-1 東急歌舞伎町タワー内 BELLUSTAR TOKYO 45F
TEL:03-6233-8800
営業時間:【火〜金】17:30〜(L.O.20:00)
     【土・日・祝】ランチ 12:00〜(L.O.14:00)
            ディナー 17:30〜(L.O.20:00)
定休日:月曜
席数:カウンター9席



4.満を持して50歳で独立を果たした、実力派大将の安定感たるや
『鮨 むとう』@日本橋



2023/6/10 OPEN



武藤さんを囲むように配置されたカウンター。つけ台は檜だが、ゲストが接する手前面にはバーなどでも用いられる茶色のブビンガを使用


店内はブラックステンレスやタイルを使ったシックでモダンなインテリア。鮨店らしくない造りだが、ひとたび店主の武藤啓司さんがカウンターに立てば、空気が一変する。

それもそのはず、武藤さんは魚料理で知られた『割烹 智映』や『鮨あお』などで腕を磨いた鮨職人歴25年のベテラン。

「自分の店を出すなら、落ち着いた雰囲気で」と日本橋を選び、ゆったりとした音楽を流しながら鮨を握る。

『割烹 智映』では魚本来の可能性を探り、『鮨あお』ではキリッと酸味の利いた正統派の握りを追求。その経験を活かして江戸前の味を継承している。

独立して間もないが、その安定感は流石のひと言。大人にこそ見合う一軒だ。



「中トロ」は最高の口溶け


目玉となっているのが「フジタ水産」のまぐろ。

15年以上の信頼関係があり、コースの中では赤身、腹側の中トロ、背側の中トロ、手巻きが味わえる。

「フジタさんのまぐろは柔らかくて、酸味の利いたシャリが合う」と武藤さん。




パリッとした海苔でまぐろを「手巻き」に。




「コハダ」は締め加減が絶妙。




「あわびとウニの蒸し物」は下に敷かれた海苔の磯の香りと風味が口の中に広がる。


まるでスイーツな玉に驚く!


クレームブリュレのような「玉」。

すべておまかせコース(30,000円)より。鮨のみのランチは25,000円。




鮨に合わせたいのはブルゴーニュ。ヴォギュエなどのシャンボール・ミュジニー村が多く用意されている。

グラス 2,800円〜、ボトル 15,000円〜。


細長いビルに日本橋の注目店舗が集結!


『鮨 むとう』があるのは「日本橋高島屋S.C.」裏にある「Ordin 日本橋ビル」。

『焼鳥 郄はし』『天ぷら浅沼』など注目の店舗が入居。


■店舗概要
店名:鮨 むとう
住所:中央区日本橋2-10-11 Ordin日本橋ビル 9F
TEL:03-6824-5361
営業時間:【月・木・土】17:30〜
     【火・金】[一部]17:30〜
          [二部]20:30〜
     【日】ランチ 12:00〜
        ディナー 18:00〜
定休日:水曜、祝日
席数:カウンター7席



5.ヨコハマの名店のイズムが、箱崎町の一角でひっそりと紡がれている
『箱崎町すみと』@水天宮前



2023/9/30 OPEN



ビルの1階にある行灯が目印!『箱崎町すみと』があるのは地下。スロープの下にも行灯の明かりがあって鮨店であることが分かる。元々、60席ある居酒屋だった場所ゆえ、店内はかなり広く、カウンターまでの優雅な廊下もある


日本橋・水天宮前の蛎殻町方面は“町寿司”もあって賑わいを見せるが、箱崎町は一転して落ち着いた風情がある。

「想像以上に静かな町でしたが、その分長く滞在するお客様が多いですね」と、『箱崎町すみと』の店主の黒川清人さん。



カウンター8席のみ。店内は天井の高さやイスの後ろのゆったりしたスペースがあり、開放感さえある


鮨ひと筋のキャリアを持ち『築地 寿司岩』、銀座『新太郎』を経て、直近は横浜・関内の『なか條』へ。「やま幸」の最高峰の素材が集まる鮨店として知られる名店だ。

「『なか條』では、“鮨は素材第一”と素材の良さを追求することを教わりました」と言う通り、同じく「やま幸」から素材を仕入れ、シンプルに引き算して素材を活かすことを信条としている。


美しく並べられたネタ箱も見もの

厳選されたネタ箱の中には、名取の閖上(ゆりあげ)赤貝や春子などのネタが入荷することもある


極上のまぐろはもちろん、八幡浜の水蝦蛄(みずしゃこ)、ナガスクジラの尾の身など貴重な素材も入荷。

それらを、ほど良く赤酢が入って香り良くバランスのいいシャリとともに握る。




愛媛・八幡浜の「水蝦蛄」は、カニのような柔らかく旨みのある味。

ほんのり塩気があり、口にすると旨みがいっぱいに広がる。




上質なまぐろの「赤身」は香りの良さと味の濃厚さに驚く。

硬くなってしまうため、漬けにはしない。




「イクラ」は『なか條』から受け継いだ秘密の手法で。皮のプチッとくる当たりがなく、液体が口にあふれる衝撃の食感。

すべておまかせコース(25,000円)より。



オススメの日本酒は黒川さんの地元・神奈川の泉橋酒造の限定品。「いずみ橋 秋とんぼ 楽風舞 2022BY」1合 1,000円


都心の喧騒と隔離されたような空間で、時間にとらわれず楽しみたい。


■店舗概要
店名:箱崎町すみと
住所:中央区日本橋箱崎町27-2 渡菊第三ビル B1F
TEL:03-3527-2220
営業時間:17:30〜22:30
定休日:不定休
席数:カウンター8席



6.カジュアル鮨の若き担い手が新旗艦店でつけ場を守る
『すし乾山』@初台



2023/11/20 OPEN



スッキリしたカウンターと手前に4名がけのテーブルがふたつ。鮨の初心者も玄人も受け入れる、振れ幅の広さが同店の魅力を物語る


「地元の人がちょっと奮発して普段使いに行ける“町の鮨屋”が僕の憧れです」と語るのは新田真治さん36歳。



毎朝欠かさず豊洲に通うご主人の新田真治さん。仲買との持ちつ持たれつの深い信頼関係が安くて旨い鮨を提供できる最大の秘訣だ


ビブグルマンも認めた理想の町鮨『すし宗達』や『すし光琳』を展開してきた鮨界の風雲児だ。

これまで後進に店を譲り、裏方に徹していたが満を持して立ち上げたのが『すし乾山』だ。新田さん自身が板場に立つ、いわば旗艦店。それゆえ、他の3店舗とはやや趣が異なる。

まず、これまでの店舗にあったショーケースがない。手書きの黒板もなく、すっきりとした店内は、シックで落ち着いた雰囲気。高級店を思わせる佇まいだ。

が、ご安心を。「当初のポリシーがぶれることは絶対にありません」との力強い言葉どおり、コースもつまみも値段はこれまでとまったく同じ。




『すし宗達』の名物でもある「毛蟹甲羅詰め」3,980円。

北海道産毛ガニがぎっしり詰まった、驚きの食べ応え。




大分産「カワハギの肝握り」。1貫 680円。

カワハギは肝を身の下に忍ばせて握るのが新田流。曰く「その方がシャリと肝がなじんで美味しいから」という。




「やま幸」から仕入れる天然本まぐろの「中トロ」。

ここなら、なんと1貫 480円。この日は塩釜産の182kg。


最初はお得感満載の「おまかせ」をぜひ

握りのセットとコースの内容は、全店共通。もちろん価格も変わらない。セットをベースに、好みの握りを追加するのも賢い食べ方


品書きこそないものの、お好みも大歓迎。

口頭でその日のネタを聞きながら、食べたい握りを自分のテンポで味わう醍醐味こそ鮨店の本分だろう。

またひと味違う高揚感を与えてくれるはずだ。


■店舗概要
店名:すし乾山
住所:新宿区西新宿3-13-14
TEL:03-6383-3388
営業時間:17:00〜(L.O.21:00)
定休日:不定休
席数:カウンター6席、テーブル8席


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