前立腺がん検査は何歳から受けるべきかご存じですか? 検査内容・流れも医師解説

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男性にとって身近ながんのひとつである前立腺がん。予防にはPSA検査が非常に有用とされています。PSA検査は何歳から受けられるのでしょうか? 診断の流れや内容について中野駅前ごんどう泌尿器科の権藤先生に聞きました。

監修医師:
権藤 立男(中野駅前ごんどう泌尿器科)

2003年東京医科大学卒業。2003年東京医科大学泌尿器科入局、東京医科大学八王子医療センター。2005年東京医科大学泌尿器科助教、2008年川崎市立井田病院消化器外科、2010年東京都立広尾病院泌尿器科、2012年米国メモリアルスロンケタリング癌センター、泌尿器科客員研究員、2014年東京医科大学泌尿器科専任講師、医局長。2019年東京国際大堀病院副院長、泌尿器科診療部長。2022年中野駅前ごんどう泌尿器科院長。医学博士、日本泌尿器科学会 泌尿器科専門医、指導医。日本泌尿器内視鏡学会泌尿器腹腔鏡技術認定医、泌尿器ロボット支援手術プロクター(ロボット手術指導医)、日本内視鏡外科学会腹腔鏡技術認定医(泌尿器科領域)、日本がん治療認定医機構がん治療認定医。

前立腺がんとは男性のがんのなかでもどんな病気? PSA検査・血液検査(生検)など、どんな検査で前立腺がんの疑いを診断するの?

編集部

前立腺がんとは、どんながんですか?

権藤先生

泌尿器科の悪性腫瘍のなかでも非常に罹患数の多いがんです。2022年5月に厚生労働省と国立がん研究センターにより表された「2019年の全国がん登録」によると、2019年、新たにがんと診断された罹患者のうち、前立腺がんと診断された人が第1位となっています。

編集部

具体的に、どのような性質のがんなのですか?

権藤先生

前立腺の細胞が正常な細胞増殖機能を失って、がん化する疾患です。発症には男性ホルモンが一部関与しているとされており、進行は非常にゆっくりである症例が目立ちます。ただし、ときには進行が早いこともあるので注意が必要です。

編集部

死亡率はどうですか?

権藤先生

ほかのがんに比べて死亡率は低く、なかには寿命にあまり影響しないと考えられる場合もあります。しかし、進行すると尿が出にくくなったり、頻尿になったり、血尿が出たりするほか、リンパ節や骨にも転移する場合もあります。

編集部

どのような検査で発見できるのですか?

権藤先生

主に行われるのはPSA検査です。PSAとは前立腺の腺管内に含まれるタンパク質のこと。主に精子の潤滑油の役割を担っています。前立腺がんを発症すると前立腺内の組織が破棄され、PSAが血液中に漏れ出すとされていますが、そのメカニズムは明らかにされていません。

編集部

血液中のPSA値を調べることで前立腺がんの可能性を調べることができるのですか?

権藤先生

そうです。 一般的にはPSA4以上でがんの可能性が疑われます。この4という数値にも明確なエビデンスはなく、4未満でもがんが存在することも十分ありえます。ただし、PSAの増加に伴い、がんの可能性が上昇していくことは事実で、現在最も優れたマーカーはPSAだと考えられています。

編集部

ほかにはどのような検査が行われますか?

権藤先生

PSA検査は主に一次スクリーニングの役割を担っており、二次スクリーニングとして直腸内触診や経直腸的超音波(エコー)検査、前立腺MRI検査などを行います。最近はMRIの画像精度が極めて改善しており、触診やエコー検査を割愛する場面も多く見られます。

編集部

ほかにも行われる検査はありますか?

権藤先生

PSAの前駆体である「proPSA」や、新たな前立腺腫瘍マーカー「プロステートヘルスインデックス」を測定する場合もあります。これらの検査でがんの可能性が高いと判断された場合には、「前立腺生検」と呼ばれる組織検査を経て、確定診断を行います。

前立腺がんの検査はいつから・年齢は何歳から受けるべき? PSA検査は毎年受けた方がいい?

編集部

前立腺がんの検査は何歳から受けた方が良いのでしょうか?

権藤先生

一般に、50歳以上の罹患率が高いことから、50歳以上の男性に対し、定期的にPSA検査を受けることが推奨されています。ただし、父や兄弟などに前立腺がんの家族歴がある場合には、40歳代からの検診受診が推奨されます。

編集部

前立腺がんは遺伝するのですか?

権藤先生

遺伝(家族歴)が関与している場合も多くあります。ただし、父や祖父が前立腺がんだったからといって、必ずしも発症するわけではありません。発症には生まれつきの要因だけでなく、食生活など後天的な要因も深く関係しています。

編集部

毎年、検査を受けた方が良いのですか?

権藤先生

いいえ。年齢とPSAの数値を掛け合わせ、必要に応じて1年に一度検査をするか、あるいは、3年に一度検査をするか、選択すると良いでしょう。ただし、家族に前立腺がんにかかった人がいる場合には1年に1回受診するようにしましょう。

編集部

PSA検査で高値が出たら、確実に前立腺がんということなのでしょうか?

権藤先生

いいえ。がんである確率は上がりますが、必ずしも前立腺がんというわけではありません。前立腺肥大症や前立腺炎でもPSA値が高値となることもありますし、原因がまったくわからず、高い人もいます。

編集部

PSAの数値だけでは判断できないということでしょうか?

権藤先生

前立腺肥大症と前立腺がんは併存していることもあり、がんでPSAの数値が上昇しているのか、あるいは前立腺肥大症が原因なのか、それらを可能な限り明確にするため、各種検査が必要になります。ただし、原因が明確にできないことも多くあります。

前立腺がんの検査は痛い?検査入院が必要?

編集部

直腸内触診、画像検査とは具体的に、どのようにして行うのですか?

権藤先生

直腸内触診とは肛門から直腸に指を入れて前立腺に触れ、状態を確認する検査のこと。画像検査では、肛門から棒状の探触子を直腸に入れ、超音波を当てて前立腺の内部を確認したり、MRI画像を撮影したりします。ただし、先ほどもお話しした通り、最近はMRIが進化しており、侵襲を伴うこれらの検査は割愛されることも少なくありません。

編集部

がんの疑いがある場合には、さらに検査が必要ですか?

権藤先生

各種検査でがんが疑われる場合には「前立腺生検」と呼ばれる組織検査を行います。特にMRIで前立腺がんを示唆する腫瘍が見られる場合には、MRI経直腸超音波融合生検と呼ばれる最新の検査機器で、疑われる場所から正確に組織採取する検査を行います。この融合生検は2022年から日本でも保険適用となり、一番正確にがんの存在を診断できる検査方法とされています。

編集部

その生検は、日帰りでできるのですか?

権藤先生

いいえ、通常1泊で行います。医療機関によって異なりますが、局所または全身の麻酔下で行われます。

編集部

最後に、Medical DOC読者へのメッセージがあれば。

権藤先生

海外で行われた大規模な研究により、PSA検診を受けることで、前立腺がんで命を落とすリスクや転移をするリスクを軽減できることは証明されています。ただし、日本ではそのような研究が行われた例はなく、いまだPSA検診を導入していない地域も多く存在するのが実情です。欧米と日本ではがんの発症率やがんの特徴も違うので、海外のデータを日本にそのまま適用できるかは議論につきませんが、やはりPSA検診は極めて有用なスクリーニング検査だと思われます。そのため、50歳を超えたらまずは一度測定を行うことを推奨します。もし健康診断などの項目にPSA検診が含まれていなければ、初診料も含め、1000円以内で手軽に受けられますから、ぜひ泌尿器科を受診してください。

編集部まとめ

進行の遅いがんとはいえ、前立腺がんで命を落とす人がいるのも事実。年齢や家族歴などに応じて検査を受ける頻度は異なりますが、定期的にPSA検診を受けることをぜひ習慣化しましょう。

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