【今読みたい】「猫ひっかき病」 猫の引っ搔き傷などから発症する感染症はご存じですか?
「猫にひっかかれて傷ができた経験がある」という人は多いのではないでしょうか。みている分には可愛らしい猫パンチですが、いざ猫パンチを受けてみると想像よりも痛いものです。
猫とじゃれていただけなのに、腕にミミズ腫れができてアレルギーがあったことに気づく場合もあります。
しかし、ひっかき傷や咬傷が原因でケガをした部分のリンパ節腫大や発熱を引き起こす猫ひっかき病になる可能性があることをご存知でしょうか。
あまり知られていませんが、世界中のほとんどの飼い猫が猫ひっかき病の感染症にかかっています。猫にひっかかれることに慣れていると感じている人も多いので、注意しましょう。
一体猫ひっかき病とはどのような病気なのか・感染経路・症状・治療・予防方法について、詳しく解説していきます。
猫を飼っている・猫が好き・これから猫を迎え入れる予定があるという人は、ぜひお目通しくださいね。
監修医師:
竹内 想(名古屋大学医学部附属病院)
名古屋大学医学部附属病院にて勤務。国立大学医学部を卒業後、市中病院にて内科・救急・在宅診療など含めた診療経験を積む。専門領域は専門は皮膚・美容皮膚、一般内科・形成外科・美容外科にも知見。
猫ひっかき病の病原体や感染経路
猫ひっかき病とはどのような病気ですか?
猫ひっかき病とは、グラム陰性細菌であるバルトネラ・ヘンセレによって引き起こされる感染症です。というのも、猫には自然にバルトネラ・ヘンセレが体内の赤血球の中に存在し維持されているため、世界中のほとんどの猫が猫ひっかき病の病原体を保持しています。しかし、猫にひっかかれたり咬まれたりしたからといって、必ず発症するわけではありません。猫ひっかき病を発症する割合は低いですが、小さいお子様は入院が必要なほど重症化する場合もあります。猫パンチには十分に注意しましょう。
感染経路について教えてください。
猫ひっかき病はその名の通り、バルトネラ・ヘンセレを保菌している猫にひっかかれたり咬みつかれたりすることで人に感染する病気です。とくに、ネコノミが寄生した子猫を飼育している人に多く感染がみられています。ひっかかれたり咬まれたりした皮膚上の傷跡から直接感染することが特徴です。さらに、猫ひっかき病の発症リスクは保菌猫と患者の報告から西日本が高いことがわかっています。
猫から人に感染することもあるのですか?
もちろん、猫から人に感染します。発症する確率は低いとされていますが、その中でも保菌率の高い子猫を飼育している人は発症リスクが高いです。子猫にひっかかれたり咬まれたりしたところが約3~10日以内に赤く腫れてきたときには、病院やクリニックに受診しましょう。小さいお子様や免疫力が低下している人は、特に注意してくださいね。
どのような症状が出るのですか?
ひっかかれたり咬まれたりした付近の皮膚が、約1週間前後で赤く炎症を起こす・水疱が現れる・発熱するなどの症状が現れます。ほかにも全身に出る症状は以下の通りです。
微熱が続く
悪寒がはしる
頭痛が数日続く
倦怠感がある
その後は傷口に近い場所に位置するリンパ節が痛みを伴って大きく腫れることが多いです。ほとんどの場合は症状が数週間~数か月続いたのちに自然治癒します。しかし、5~10%の患者は重症化することも。
免疫力が低下している人・小児・高齢者は以下のような障害や病気につながる可能性があります。
パリノー症候群
脳炎
心内膜炎
肉芽腫性肝炎
細菌性血管種
突然の痙攣発作
意識障害
脳症
上記のような重い合併症を引き起こす場合もありますので、猫に傷つけられて体に違和感を覚えたらすぐに病院へ受診してくださいね。
猫ひっかき病の診断や治療
何科を受診すればよいですか?
猫に傷つけられた場合は、皮膚科や内科を受診しましょう。小さいお子様であれば、小児科や小児内科を受診するようにしてください。病院へ受診した際には、「猫にひっかかれた、または咬まれた」と医師にしっかり伝えることが大切です。猫に傷つけられてからの日数や傷つけられた後の処置など、医師に伝えられるようにしておきましょう。
猫ひっかき病はどのように診断されますか?
まずは猫との接触があったかを確認します。次に猫との接触があれば、皮膚・目・粘膜・リンパ節にケガや腫れなどの症状がないか確認します。猫ひっかき病の場合は、ほぼ100%の確率でリンパ節が腫れるのが特徴です。ほかにも症状の進行具合によっては、血清抗体価検査・リンパ節腫脹病変の検査が実施されることもあります。猫との接触が多いおもちゃやご飯などの容器が傷口に付着しても感染する恐れがあることから、血清抗体価検査が猫ひっかき病の診断に有効と考えられています。いつから症状がみられたのか、症状がみられた1週間に猫にひっかかれたり咬まれたりしたのかを医師に伝えられるとスムーズに診断してもらえるでしょう。
治療方法について教えてください。
免疫力が健康な場合は、感染した部位を温める加温と鎮痛薬を使用して治療を行います。加温と鎮痛薬でほとんどの場合は症状を抑えられるでしょう。しかし、リンパ節が腫れていて免疫力が低下している、または免疫力の弱い人には病気の拡大を防ぐためアジスロマイシンなどの抗菌薬を投与することもあります。免疫力が低下している人で感染が全身に広がった場合には抗菌薬が必要となります。シプロフロキサシン・ゲンタマイシン・ドキシサイクリンなどの抗菌薬が使用され、数週間~数か月の投薬を継続することが多いです。そのため、免疫力が低下している人は感染を避けるためにも猫との接触を避けるとよいでしょう。
猫ひっかき病の予防や対処法
猫ひっかき病を予防する方法はありますか?
治療方法でも先述していますが、免疫力が低下している人は感染を避けるためにも猫との接触を避けることをおすすめします。猫との接触を避けることが1番の予防方法です。しかし、「猫が大好きで避けるなんてできない」と感じる人も多いでしょう。そのような人に効果的な予防方法は、猫にノミの駆除や防中薬などを使用しましょう。ほかにも以下のような予防する方法があります。
性格のおとなしい猫を飼う
定期的な爪切り
猫(特に子猫)と接触した後には手指の洗浄をする
猫による外傷の消毒
過剰なふれあいを控える
生肉などを与えない
おもちゃやご飯の容器などの衛生対策
菌血症の検査を行う
野良猫と接触しない
飼い猫と野良猫が接触しないように飼育する
後はひっかかれたり咬まれたりしないよう注意しましょう。
猫にひっかかれた場合の対処法を教えてください。
猫にひっかかれた場合は、傷ができた部分を清潔にした後で消毒しましょう。その際は猫に触れた手もきれいに洗浄してくださいね。また、傷ができた部分から猫の唾液などが入らないよう、傷口が塞がるまでは猫との接触を控えることが大切です。もし、ひっかかれた部分やリンパ節が腫れてきた場合はすぐに病院へ受診することをおすすめします。
最後に、読者へメッセージをお願いします。
猫に魅せられた人にとって、猫パンチを受けることは日常茶飯事ともいえるでしょう。猫の爪切りやノミなどの駆除対策をしっかり行っている室内飼育の猫であれば、猫ひっかき病を発症するリスクは軽減できます。しかし、子猫を飼い始めた人や室外にも行き来している猫と接触する人はひっかかれたり咬まれたりしないよう注意しましょう。また、免疫力が低下している人・小児・高齢者の人は猫に菌血症の検査を行えば、猫ひっかき病のリスクを低減できるのでぜひ試してみてください。猫との生活を諦められないのであれば、獣医と相談することをおすすめします。
編集部まとめ
世界中のほとんどの飼い猫が保菌している猫ひっかき病について、詳しく解説していきました。
一体猫ひっかき病とはどのような病気なのか・感染経路・症状・治療・予防方法などご理解いただけましたでしょうか。
可愛い猫との生活を脅かしかねない猫ひっかき病は、猫と人の衛生面を保つ努力次第で発症リスクを抑えられる可能性が高くなります。
猫がいる生活に新たな家族が増える場面もあるでしょう。猫ひっかき病に不安を感じるのであれば、かかりつけの獣医に相談してみてくださいね。
少しでも参考になれば幸いです。最後までお読みいただきありがとうございました。