落ち着いた環境で料理と真摯に向き合いたい。肩肘張らずに、地元民が気軽に足を運べるような生活に根差す店を作りたい…。

そんな信念をもった実力派シェフが、世田谷区や代々木上原など都心部からあえて離れた住宅街に続々と出店し、グルメな大人たちが集っている。

「わざわざ行く都心の華美な店もいいが、本質的に美味しいものを、ご近所で」。住宅街に潜むレストランが、いま熱い!




1.星付きシェフの絶品中華を、ご近所でお手頃に食せるという奇跡
『中国料理 柚子』



2023/1/6 OPEN



場所は小田急線経堂駅と豪徳寺駅のほぼ中間。駅前の商店街を背にして遊歩道を進み、10分ほど歩くとモダンな外装の店舗が現れる


2023年1月、「星付きシェフが経堂に!」と世田谷の食通たちをざわつかせた『中国料理 柚子』のオーナーシェフ・初見直人さん。

『四川飯店』で20年修業し、『広尾はしづめ』の再建を任され星付き店にまで押し上げた敏腕料理人だ。



店主の初見さん。現在の店舗の前身となる新中野『チャイニーズバル ゆずのたね』を開業後、経堂に移り『中国料理 柚子』をオープン


「物件を探しに経堂を歩いていたら、いい街だなぁと思って」

土地勘のないエリアだったが“はしづめ”での経験もあと押しし、「真心を込めた接客と料理を全うすればそのうち軌道に乗るだろう」と、新天地にこの地を選んだ。

提案するのは「健康美」がテーマの四川料理。

八寸を思わせる前菜の盛り合わせを筆頭に、盛りの美しさや絶妙なスパイス加減の料理の数々は、さすがは中国料理の名手と唸らされるものばかり。




「妖艶な黒酢スブタ」(1,850円)は、黒酢、バルサミコ酢、穀物酢をブレンドした複雑な酸味と香りが楽しいスペシャリテ。

片栗粉は少量にとどめ軽い食後感に。



「四川スモークダック」2,100円。香辛料入りの塩水に18時間鴨肉を漬け込み、セイロ蒸し、揚げ、石焼きの3段階で火入れ。クリスピーな皮目と肉のしっとり食感のバランスが秀逸だ


高級中華のクオリティーをコース(5,800円)から楽しめる手頃さに驚くが、それも「都心に行かずとも、美味しい中華を地元で味わえるように。少し特別な日に、3世代で来られる店になれたら」との店主の思いゆえ。

早くも我が街の“自慢したい一軒”になっている。


希少な日本酒も飲めるペアリングも!


「酒ディプロマ」の資格を取得したソムリエによる、日本酒8種のペアリング(4,500円〜)も新たにスタート。

中華とのマリアージュを楽しみたい。


■店舗概要
店名:中国料理 柚子
住所:世田谷区赤堤1-16-21
TEL:03-6413-9679
営業時間:【月・火・木・金】ランチ 11:30〜(L.O.14:30)
              ディナー 17:00〜(L.O.21:30)
     【土・日・祝】ランチ 11:00〜(L.O.14:30)
            ディナー 17:00〜(L.O.21:30)
定休日:水曜
席数:テーブル22席、個室2(4席、6席)





2.奥渋の食通な住人が夜な夜な集う、センスが光る小料理店が誕生
『Arbre』



2023/4/15 OPEN



松濤の住宅街に続く坂道沿い、観光客はほぼ通らないため静かにゆったり過ごせるのもローカル好み。白い暖簾と小さい行燈が目印だ


洒落た飲食店が集結する奥渋エリア。通称“文化村通り”界隈が中心地となるが、そのメインストリートの脇道にひっそりと『Arbre』は佇む。

店が建つ緩やかな坂道は、裏手の高級住宅地に住むローカルたちの動線でもあり、「近所の方が仕事帰りにサクッと飲みに寄ってくれたり、通りがかりに直接予約を入れてくださることも。都会なのにローカルな繋がりを感じますね」と店主の佐藤幹樹さんは語る。



和の趣が漂うダスティグリーンの壁と、ヨーロッパのアンティークの家具を配したセンスのいい空間。ひとり客歓迎のカウンターでは店主と会話も楽しめる


「自分の目が届くひとりで回せる規模の広さを条件に店舗を探していたところ、この物件と巡り合いました」

コンセプトは“肩肘張らずに過ごせる小料理屋”。

佐藤さんは、都内のビストロや代々木上原の人気居酒屋『ランタン』を経て独立。フレンチを主戦場としてきた佐藤さんだが、銀座の日本料理店で勉強した経験もある。




テリーヌ仕立ての「〆鯖のゼリー寄せ」(1,400円)は、〆鯖をガリ、紅しぐれ大根、ビーツで挟んだ彩り美しい逸品。



サワークリーム入りのディルマヨネーズがたっぷり乗った「カキフライ」1,100円。下に敷いた千枚漬けもいいアクセントに


それぞれの経験を活かしたオリジナリティある和食が評判を呼び、地元民で店は賑わう。

センスのいいこぢんまりとした空間と丁寧な料理が居心地の良い店だ。


いま話題のクラフトサケがイチオシ


日本酒の新たな潮流として注目される「クラフトサケ」。

しそやトマトなど、フルーツやハーブの香りを楽しめる。グラス 1,300円〜。


■店舗概要
店名:Arbre
住所:渋谷区神山町41-1 遠藤ビル 1F
TEL:03-6822-6204
営業時間:18:00〜(L.O.23:30)
定休日:日曜
席数:カウンターテーブル6席、テーブル6席





3.中華の新世代が住宅街で挑戦した、“カウンターのみ”という一手
『nope』



2023/7/1 OPEN



一歩足を踏み入れるとゆったりとくつろげるカウンター空間が広がる


『nope』の店主である高木祐輔さんは、「ザ・ペニンシュラ東京」の広東料理店『ヘイフンテラス』で修業した実力派。

彼が生み出す新感覚のスパイス中華は、その独創性もあり食通たちから圧倒的な支持を得ている。

そんな高木さんはカレーと中華の店『レカマヤジフ』を、2023年2月に閉店。再始動し、千歳烏山でスパイス中華とワインの店をオープンした。

「京王線沿線は革新的な飲食店が少なくローカルな店が多い印象でした。だからこそ新しい料理を提供する店を求めている方も多いのでは?」と、自身の出身地が近くなじみある千歳烏山を新天地に選んだ。



「豚の角煮 宝塔肉」2,480円。型を外すとぷるんと弾むピラミッド型の角煮がお目見え。五香粉が香る広東風の味わい


いただけるのは、オリジナルのスパイス配合や発酵調理を多用した洗練された広東料理。

『レカマヤジフ』で築いた料理の世界観はそのままに、「メニューはアラカルトのみ。席もカウンターだけにして、都心と比べて価格も抑えめに。地元の人たちが普段使いできる店になれたら」と話す。




美しき盛り付けに高揚する、「銚子の鰯 葱生姜ダレで巻いて」880円。

5日間熟成させた鰯の炙りを、ガレットで巻いていただく逸品。




パプリカを発酵させたソースと鮎の魚醤でマリネした帆立に、甘くてみずみずしいあやめ雪かぶを重ねた「北海道の帆立 塩漬け唐辛子と発酵パプリカ」1,180円。


スパイスと自然派ワインの相性が抜群


ナチュールを主軸に、グラス 780円〜、ボトル 3,980円〜とお手頃。

写真の南アフリカのピノノワールは軽めで角煮との相性もバッチリ。



南口の商店街を進んだ先の、バス停の向かいに建つビルの2階


街の食を底上げする、中華の旗手の挑戦に注目だ。


■店舗概要
店名:nope
住所:世田谷区南烏山5-18-15 光洋ビル 2F
TEL:03-5969-9800
営業時間:17:00〜(L.O.22:00)
定休日:不定休
席数:カウンター8席


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