化学製品メーカーの3Mは1950年代から「永遠の化学物質」の危険性を知っていたにもかかわらず隠ぺいしていたことが内部文書によって明らかに
「ペルフルオロアルキル化合物・ポリフルオロアルキル化合物(PFAS)」は、熱や薬品に強いことから、フライパンのコーティングやファストフードの包装紙、泡消火剤などに使用されてきました。しかし、PFASは、極めて長期にわたって環境中に残留することから「永遠の化学物質」とも呼ばれており、健康への悪影響が懸念されています。化学製品メーカーの3Mは、PFASの環境や人体への危険性を1950年代から知りながら、数十年にわたってひた隠しにしてきたことやその内部文章の存在が、海外メディアのMinnesota Reformerによって暴露されています。
https://minnesotareformer.com/2022/12/15/toxic-3m-knew-its-chemicals-were-harmful-decades-ago-but-didnt-tell-the-public-government/
Minnesota Reformerによると、3Mの科学者たちは、PFASを含む化学物質が人間や動物の体内に蓄積していることを1950年代から把握していたとのこと。
また、PFASが環境中で分解されないことや、アメリカ国民の血液中にPFASが広がっていること、がんのリスクが高まることなどを確認していたにもかかわらず、1979年に3Mは人間の血液から発見されたPFASの存在を隠すように指示しています。さらに、自社の研究者に対し、3Mは「自分の臆測が裁判でどのように判断されるかわからないため、PFASに関する自身の考えをメモとして残したり、電子メールで議論したりしないように」との指示を与えています。
実際に、1975年にロチェスター大学のドナルド・テーブス氏は、テキサス州とニューヨーク州のヒト血液サンプルからPFASを発見し、3Mに報告。その際に発生源としてテフロン加工された調理器具やスコッチガードなどを指摘しました。しかし、3Mの科学者だったG・H・クロフォード氏はテーブス氏らからの指摘を認めませんでした。クロフォード氏は「我々はこの件に関して知らないと訴えました。スコッチガードは有害な物質を使っておらず、高分子材料で作られています」と主張しました。
加えて、3Mは1976年にテーブス氏らからの要請を受けて従業員の血液検査を実施。検査の結果、3Mの一部の工場従業員の血液から、通常の約1000倍ものPFASが確認されました。この件について3Mはアメリカ合衆国環境保護庁(EPA)に報告する法的義務があったにもかかわらず、会社内の機密情報としてほぼ四半世紀にわたって隠されてきました。
その後、PFASが従来の予想よりも毒性が高いことが判明した際には、3M内で適切な政府機関に報告するかについての議論が行われました。しかし、「悪影響の証拠がない」として、政府機関への報告は見送られました。
3Mの科学者だったリチャード・パーディ氏は、1998年に3Mが放出したPFASが野鳥の血液に含まれているかどうかの研究を行いました。結果としてさまざまな野鳥にPFASが取り込まれていることが確認され、多くの野鳥が魚を食べることから、食物連鎖の中でPFASがさまざまな動物に移動している可能性が認められました。
パーディ氏は、野鳥の血液にPFASが含まれていることから、カワウソやアザラシなど、その他の魚を食べる哺乳類にもPFASが取り込まれている可能性があることや、同時に人間にもPFASが取り込まれている可能性を3Mに指摘し、EPAに対する報告義務があると伝えました。
しかし、パーディ氏によると、3M側がただちに対応に動くことはなく、パーディ氏のチームを解散させたとのこと。1999年に3Mを退職したパーディ氏は、EPAに対し「化学物質が動物の血液から発見された」との告発文を提出しました。その後、3Mに対してEPAによる調査が開始されています。
パーディ氏は「3Mに対する指摘を行った私はさまざまな障害や遅延、優柔不断に直面してきました。何週間にもわたって、3Mは『あなたのサンプルはすぐに分析する』との報告を受けましたが、最終的に分析が行われることはありませんでした」と語っています。
3MがこれまでPFASの危険性や指摘を黙殺してきたことについてパーディ氏は「環境にとっての安全性よりも、市場に対する影響や法的対応が行われる可能性、イメージダウンに関心を持っていたことは、非常に非倫理的です」と批判しています。
3Mに対しては2000年以降、EPAによる調査が行われ、PFASに関して国民への知識が広まりました。その結果、3Mに対して大規模な裁判が行われ、2023年6月には原告側と3Mが13年で最大125億ドル(約1兆7900億円)もの和解金を支払うことで合意しています。