長野県の第三セクター鉄道、しなの鉄道がピンチです。県知事らが国に支援を求めるなか、複線の“単線化”まで検討しているといいます。旧信越本線というかつての大幹線はいま、将来へ向けた曲がり角を迎えています。

複線の単線化まで検討している、しなの鉄道

 長野県の第三セクター鉄道「しなの鉄道」がピンチです。2023年12月14日には、阿部守一県知事と土屋智則社長らが国土交通省を訪れ、斉藤鉄夫国交相に直接、支援を要望しました。


しなの鉄道の115系電車(画像:写真AC)。

 しなの鉄道は、北陸新幹線と並行する旧JR信越本線を引き継ぎ、軽井沢〜長野〜妙高高原を運営しています(篠ノ井〜長野はJRのまま)。コロナ禍を経て経営が悪化するなか、「JRから引き継いだ過大な設備のスリム化」「交通系ICカードへの対応」のため、国に支援を求めています。

 なかでも前者では、信濃追分〜上田間(32.8km)と、黒姫〜妙高高原間(8.4km)を、複線から「単線化」することを検討しています。

 旧信越本線は特急も多く走っていたため、その立派な設備が重荷になっているというわけですが、「単線化」まで考えているのかと、SNSなどで驚きの声も上がっています。線路を撤去すれば維持管理上はラクになるかもしれませんが、将来的な輸送力増強などは望めなくなるうえ、単線化するにしても費用はかかります。

 実際どう考えているのか、しなの鉄道は次のように話します。

「確かに、信号・通信設備を全て単線用に付け替える工事も発生しますが、それでもメリットはあります。向こう5〜10年のスパンではない長期的な目線で考えているものです」

 線路を1本にすれば、そこへ2本分の列車荷重がかかるという意見もあるといいますが、「これを機に木製の枕木をコンクリート製にして整備するなどすれば、そうはなりません。線路を1本分にする方がコストメリットがあると試算しています」とのこと。

 また列車ダイヤの制約については、「そもそも、現行ダイヤは単線でも可能な規模です。利便性は維持できます」との回答でした。

「今回は県知事と社長だけでなく、沿線市町の担当者も国への陳情へ同行しています。“痛みを伴っても今やるべき”という趣旨であり、沿線市町にも理解してもらっています」(しなの鉄道)

 ここから、しなの鉄道の施設がその運営規模に対して、相当に過剰なものであることが見えてきます。ただ、そこには同社特有の事情もあるようです。

信越本線を“まるっとそのまま”引き渡された

 しなの鉄道は1997(平成9)年10月、日本で初めて、新幹線開業にともないJRから分離される並行在来線を引き継いで運行を開始しました。その後、新幹線網の整備に伴い全国に次々と並行在来線の第三セクター鉄道が誕生しますが、しなの鉄道には先駆者ならではの“重荷”があるようです。

「現在の3セクは、JRの施設を大幅に整理し、自由に使える基金を用意したうえで(路線が)引き渡されていますが、26年ほど前に当社が誕生する際は、そうした整理ができていませんでした。要・不要もなく一式で引き渡されているうえ、その価格も帳簿の価格そのもので、再査定されていません。その後の3セクは、当社の事例を研究し、そのあたりをしっかりされています」(しなの鉄道)

 なお、単線化は検討するものの、具体的なスケジュールは決まっていないとのこと。その前に、駅施設の見直しが先行する見込みだといいます。

「たとえば上田駅など、特急が停車していた駅の長いホームの石畳や、ホーム屋根の使っていない部分まで維持している状況です。北長野駅や豊野駅などには、使っていない引込線なども多くあります。そういうところから、時間をかけて(撤去を)行っていきます」(同)

 しなの鉄道を先例に、施設整理を行ったうえで引き継がれた3セクでも「意外と同じ悩みは聞く」とのことですが、「お客様に対し利便性を維持したい思いは同じ」だといいます。同社の“スリム化”が、またしても全国の先駆けとなるのでしょうか。


しなの鉄道の新型車両SR1系(画像:しなの鉄道)。

 ちなみに、単線化はこれまで、地方鉄道などでいくつか事例がありますが、旧信越本線という大幹線での単線化検討は異例の規模といえそうです。とはいえ、JR東日本もコロナ禍を経て、単線化や「非電化化」などを含めた施設の見直しを進めており、“施設スリム化”はある種のトレンドになる可能性もあります。