警察が年末年始「ひったくり」「スリ」増加と注意喚起 犯人&手口が“変化”? 被害に遭わない方法を元刑事が解説
警察の公式サイトでは、人の動きが多くなる年末年始に、ひったくりやスリといった犯罪が増える傾向にあると注意喚起をしています。特にひったくりは12月、1月に年間で最も被害が多くなるということです。そこで、元警視庁公安部外事課捜査官・刑事であり防犯事情に詳しい日本カウンターインテリジェンス協会代表理事の稲村悠さんに、ひったくりやスリに遭わないようにするために、どうすればいいのか聞きました。
少年犯罪グループが「ひったくり」練習も
Q.なぜ、年末年始に「ひったくり」や「スリ」の犯罪が増加するのでしょうか。
稲村さん「理由は大きく2つあります。一つは『現金の所在』です。まず年末年始は、現金を持ち歩いたり自宅保管する人が増加します。その理由は、金融機関が休みとなるためです。
その上で、12月はボーナスの支給月でもあり、ボーナスを支給するために銀行手続きを行う担当社員や、ボーナスを引き出した銀行帰りの会社員、また、その家族を狙ったり、年末年始でいつも以上に現金を持ち歩く人を狙ったひったくりが多発しています。
もう一つは『人混み』です。年末年始は人混みに出かける機会も多くなります。例えば、年末の買い物や初売り、初詣、帰省ラッシュなど何かと人混みに入っていく機会も多く、そのような中でスリが発生する機会が多くなります。
また、年末は忘年会、年始は新年会など酒席も多く、酩酊状態の方がスリに遭うといった状況も多くなります」
Q.ひったくりやスリの被害に遭わないようにするための心構えや行動、服装などはあるのでしょうか。
稲村さん「まず、ひったくりについてです。ひったくりの被害者は約9割が女性です。そして、金融機関の帰り道に狙われることが多く、夕方から深夜にかけての犯行が多い傾向にあります。
徒歩で被害に遭うケースは、車道側にバッグを持っているときが狙われやすいため、バッグは車道側とは反対側に持つようにしましょう。また、ハンドバックをひったくられそうになった場合は、自身の身の安全のために一定の段階で、手を放すことも重要です。また、斜めかけのハンドバックや首からかけたスマートフォンをひったくられる際に転倒して大けがをしたケースもありますので、バッグを車道側で持たないよう心掛ける上、一定の強度で抵抗を止めることも重要です。
自転車で被害に遭うケースは、自転車の前方のかごに入れていたバッグなどをそのまま盗られてしまうケースが多く、かごにカバーをかけるなどの対策が必要です。
ひったくりでは、バイクで背後から近づくような手口もあれば、一人が道を聞き、その間に別の人間が背後から忍び寄り、バッグをひったくるといった手口もあります。皆さん驚くかもしれませんが、ある地域の少年犯罪グループが公園でひったくりの練習をしていたケースもあり、さらにその手法を“先輩”がレクチャーしていたという実態もあります。
次にスリですが、人混みの中で、男性であればお尻のポケットに入れた財布、コートや上着の内ポケットに入れた財布を容易に窃取していきます。また、男性、女性ともに口の開いたバッグや後ろに背負ったリュックサックは格好の標的となるため、人混みの中で口の開いたバッグの使用は控え、リュックサックに財布を入れている人は容易に取り出せない位置(背中と密着したポケット部分)や、リュックサックを前に抱えるなど工夫が必要です。
また、ひったくりと同様に、複数人で役割を分担してスリを行うグループもいますので注意が必要です。
さらに、上着やコートに財布を入れている人は上着の前ボタンを閉めるといった対策をし、特に高齢者の人は財布と衣服をロープやチェーンでつなぐといった対策も有効です。
ひったくりとスリに共通してですが、出かける地域や地元地域の防犯情報をきちんと把握することが大事です。特にひったくりは、地域で連続発生することが多く、近隣で発生している場合は要注意です。
その上で、基本的なことですが、特に犯行が行われやすい時間帯には、人通りの少ない場所を歩くことは避けてください。防犯カメラがあるからと安心してはならず、ひったくり犯はフルフェイスのヘルメットでバイクのナンバーを偽造するなど読み取れないようにしているため、防犯カメラを気にしない場合もあります。
特に、歩きながらのスマートフォン操作やイヤホンで音楽を聴きながら夜道を歩くようなことは控えてください。周囲の異変や背後の音などに気付くことができず、迫る犯人に気付くことができなくなってしまいます。
人通りの少ない夜道などを歩く場合は、万が一に備えて、防犯ブザーなど大きな音を出すものを手に持ちながら歩くと良いでしょう。
他にも、財布が盗まれてしまった場合を想定し、現金とカード類を別個にして持ち歩くことで被害を最小限化することもできますので、検討してみてください。また、必要以上の多額の現金は持ち歩かない、人前で財布を取り出さない、といった基本的な対策もぜひ心掛けてください。
Q.万が一、「ひったくり」や「スリ」の被害に遭ってしまった時はどのようにすればいいでしょうか。
稲村さん「そもそも、ひったくりは、力によって相手の財物を奪う原始的犯罪ですので、短絡的かつ衝動的に犯行を行う犯人が多いです。よって、大前提として事件に遭遇した場合は、無理に抵抗せず、自身の身の安全を最優先で確保してください。
ひったくりで相手に引きずられ、大けがを負うケースが発生しています。引きずられることで、顔にひどい擦り傷を負い、時には痕が残ってしまうこともあります。
まず、被害に遭った旨を大声で周囲の人に伝えてください。この際、『ひったくり!』などと言ってもいいですし、『泥棒!』などと分かりやすい単語で助けを求めることが大切です。『キャー』といった悲鳴や『助けて』といった言葉ですと、内容がイメージできずに周囲の人が感づいてくれない可能性もあります。
そして、110番通報を必ずしてください。ご自身で通報してもよいですし、周囲の人に依頼をしてもよいでしょう。この際、『だれか110番してください』と言ってしまうと、周囲の人はなかなか反応しないため、目に入った人を指名してお願いすることが重要です。
余力があれば犯人の特徴をできるだけ多く覚え、逃走方向を確認してください。110番通報で聞かれることは、だいたい決まっています。以下のように、千葉県警察の『正しい110番通報の利用方法』の一部を明記しますので、覚えておくとよいと想います。通報で聞かれた際に、予め知っておくだけで整理できると思います。
1.警察官「事件ですか、事故ですか。何がありましたか?」
通報者「泥棒に入られました(交通事故です、など)」
2.警察官「それはいつですか?」
通報者「今です(〇〇分くらい前です、など)」
3.警察官「場所はどこですか?」
通報者「〇〇市〇〇町の〇〇銀行の前です(交差点です、など)」
※場所がわからない時は「目標となる銀行やコンビニの店名」「電柱、信号機の管理番号及び自動販売機(清涼飲料水)の住所表示」などを伝えるとよい。
4.警察官「どのような(事件・事故などの)状況ですか?」
通報者「帰宅途中、バックをひったくられました(事件・事故の状況、など)」
その後、犯人の人数・人相・服装・逃げた方向・(通報者の)氏名・住所・事件、事故との関係などについて聞かれます。特に最後の通報者に関しては、警察が追加で聞きたいことや事後における捜査協力を仰ぐ場合もあるため、連絡先なども警察に伝えてほしいと思います」
年末年始に向け、ひったくりやスリに十分注意しながら安全な年末を過ごし、素晴らしい年始を迎えるようにしましょう。