のと鉄道の穴水駅前に入る北鉄奥能登バスの輪島駅前行き(筆者撮影)

ローカル鉄道の廃止反対理由として、「鉄道がなくなると町がさびれてしまう」としばしば述べられる。しかし現実には鉄道の乗客が高齢者と高校生だけとなり、利用客数が極端に減少してしまったからこそ廃止論議が起こる。消えた鉄道の沿線地域と、鉄道を代替した公共交通機関は今、どうなっているのか。今回は能登半島の日本海側へ通じていた、七尾線の穴水―輪島間を見る。


七尾線は、私鉄の七尾鉄道として1898年4月24日に津幡仮停車場―七尾間などが開業した。120年以上の長い歴史を持つ鉄道だ。1907年に国に買収されて以後、細かく延伸を繰り返し、輪島まで全線開業したのは1935年7月30日である。

三セク鉄道からバスへ転換

ただ、JR西日本となってから後、1991年9月1日に津幡―和倉温泉間の電化が完成し大阪や名古屋からの電車特急が乗り入れるようになった一方、和倉温泉―輪島間は、先に1988年、能登線(穴水―蛸島間)の経営移管を受けていた、のと鉄道へと転換された。

その後、利用客減少により七尾線の穴水―輪島間20.4kmは2001年4月1日、能登線が2005年4月1日に廃止。のと鉄道は和倉温泉―穴水間のみ(列車は七尾まで乗り入れ)で営業を続けている。

能登半島の大きさは想像以上だ。かつて、金沢から走っていた七尾線の急行列車は、速度が出ないディーゼル列車とは言え、輪島までの119.5kmを2時間20〜30分。能登線へ乗り入れる急行も、終点の蛸島まで160.2kmに3時間15分ほどを要していた。穴水までの99.1kmでも、1時間40〜50分かかっていた。


のと鉄道穴水駅北側の七尾線と能登線の跡(筆者撮影)

今回は金沢からの特急からのと鉄道の列車に乗り継ぎ、穴水には13時53分に到着した。七尾での接続がよくても、今でも金沢―穴水間の所要時間は、2時間を切るのがせいぜいだ。


のと鉄道七尾線の終点、穴水駅(筆者撮影)

のと鉄道の列車内では、運転士から「奥能登まるごとフリーきっぷ」を3000円で購入。のと鉄道と北鉄奥能登バスの路線バスの全線が、2日間乗り降り自由となる便利なきっぷだ。

のと鉄道はJR西日本とだけではなく、こうした北陸鉄道のバスグループとの連携も目立つ。能登半島北部一円に路線を持つ、北鉄奥能登バスも北陸鉄道の子会社である。穴水駅では、金沢駅前と珠洲方面とを結ぶ特急バスの回数券も発売している。こうした連携が現実的な選択であることが、次第にわかってくる。

小規模ながら空港アクセスも担う

穴水は元の分岐駅で、のと鉄道の本社と車両基地がある。先へ延びていた七尾線、能登線の線路は少しだけ残され、車両の入れ換え用に使われていた。駅舎を出ると、左側には物産館「四季彩々」があり、その前に特急バス乗り場がある。七尾線、能登線の代替バスなど一般路線バスの乗り場は出て右側。立派な待合室が併設されている。


穴水駅のバス乗り場の案内看板(筆者撮影)


穴水駅前のバス待合室(筆者撮影)

七尾線を代替するバス路線は穴水輪島線が該当する。穴水駅前―輪島駅前間が基本的な運転区間で輪島行き11本、穴水行き9本を運転。そのうち一部の便は穴水総合病院や、観光交流施設の輪島マリンタウン発着となっている。

まずは穴水駅前14時50分発に輪島駅前まで乗ってみる。この便は穴水総合病院始発だが、先客はなかった。鳳珠(ほうす)郡穴水町は、七尾、輪島、珠洲などと並ぶ能登半島の中心地の1つだが、バスが一回りした商店街は、ご多分にもれず人影が少ない。

能越自動車道の一部、穴水道路の下をくぐると、穴水インターチェンジに近い此木(くのぎ)交差点で、スーパーマーケットなど、郊外型店舗が集まっている商業地帯となっている。能登半島全域からアクセスしやすい場所だ。ここから若者が乗り込んで来た。

路線バスの系統は、のと里山空港経由と市の坂経由におよそ半々ずつに分かれ、この便は2003年に開港した空港へ向かう。旧七尾線のルートとは外れるためだろうか。能登線方面とは違って、穴水輪島線は積極的に「鉄道代替」とはうたっていない。

のと里山空港インターチェンジの近くで穴水町から輪島市へ入る。若者たちは、ガソリンスタンドとカレーショップ程度しか周囲に目立った建物がない、臨空産業団地前で降りた。日本航空高等学校石川・大学校が近くの空港隣接地にあり、そこの生徒らしかった。寮完備でバスの通学需要はなさそうだが、時々、町へ出たくなる気持ちはわかる。

航空便のほうは羽田―能登間に2往復あり、北鉄奥能登バスは発着便に接続する形を取っているが、そればかりではない。空港ターミナルビルには、石川県奥能登総合事務所など行政機関がいくつか同居しており、そちらへの需要も見込んでいるようだ。

まめに利用客を拾う路線バス

輪島へ通じるメインルートである県道1号七尾輪島線へ戻り、駅があった能登三井にも「三井駅前」のバス停名が健在。駅舎も残っていた。現状、能越自動車道はのと三井インターチェンジまで。のと里山空港からの区間は、2023年9月に供用を開始したばかりだ。

ただ自動車専用道は路線バスには関係ない。輪島行きは時折、旧道へ入り集落の中のバス停に立ち寄ってゆく、どこにでも見られるパターン。こちらも駅があった市ノ瀬でも同様だ。

七尾線は能登市ノ瀬の次がもう4.4km先の終点、輪島だったが、路線バスはもちろん、こまめに停まっては利用客を拾う。市街地に入ると、市立輪島病院、輪島高校前も通り、こちらも駅といまだに名乗る輪島駅前に15時43分着。


道の駅輪島 ふらっと訪夢。バスの窓口、案内所、待合室を兼ね備える(筆者撮影)


「輪島駅」の駅名標が掲げられている。奥にバス窓口などがある(筆者撮影)

国鉄〜のと鉄道の輪島駅は、中心部から見れば町の入口に近い場所にあった。通り抜けて、海沿いのマリンタウンまで足を延ばす便も当然の設定と思うが、輪島マリンタウン行きは2本、輪島マリンタウン始発は1本のみと、意外に少ない。輪島市の人口は約2万2000人。主要産業は観光業や漁業だ。


輪島駅跡にある鉄道を記念したモニュメント(筆者撮影)

旧駅跡をバスターミナルとして整備し、バスの窓口、案内所、待合室を兼ね備える「道の駅輪島 ふらっと訪夢」が出来上がったのだが、鉄道駅の場所が、果たして交通の拠点としてベストだったか。輪島市内の移動はコミュニティバス「のらんけバス」が受け持ち、北鉄奥能登バスとも接続。敷地の問題は駅跡なら解決しやすく接続もたやすいが、痛し痒しである。

長距離輸送を担う特急バス

輪島で1泊し、翌朝7時10分発の穴水行きで折り返したが、その前に金沢駅前行きの特急バスが6時55分に出発するので、様子を観察。早朝にもかかわらず6、7人が乗り込んだ。

この先は市ノ荑、三井、穴水此の木などにも停車し、こちらも一部はのと里山空港を経由。石川県の行政機関同士を結びつける役割が見て取れる。穴水インターチェンジからは能越自動車道に入り、金沢駅西口バスターミナルに向かう。輪島市内の始発は輪島マリンタウン。金沢市内では中央病院や石川県庁などにも停車する。


金沢と輪島を結ぶ特急バス(筆者撮影)

金沢―輪島間の「輪島特急線」は、1979年に本格的な運転を開始した「奥能登特急バス」がルーツ。急行列車と遜色のない速度と料金で、次第に国鉄のシェアを奪ってゆく。当初は和倉温泉発着などの定期観光バスと連携し、観光客輸送を担う運転系統であったが、国鉄の値上げと自動車専用道の延伸に伴いビジネス需要も取り込み、長距離バスとして定着した。


金沢駅前で発車を待つ輪島行き(筆者撮影)

金沢―輪島間は7往復

現在は7往復が、北鉄奥能登バスと北鉄金沢バスにより運行されている。6時55分発は9時15分に金沢駅に着くから、所要時間は2時間20分だ。

なお、いわゆる高速バスではなく一般路線バスなので、各バス停相互間で乗車が可能だが、穴水駅前には寄らない。そちらは金沢―珠洲、宇出津方面の特急バスが受け持つ。七尾線廃止区間の代替よりも、鉄道との競争に打ち勝ち、40年以上の歴史を保ってきたバス路線と見るべきだ。


金沢駅前西口の能登方面への特急バス乗り場(筆者撮影)

一方、こちらも歴史ある能登半島の定期観光バスは、2023年3月末の運行を最後に全廃されてしまっている。ここでも同じだが、意識すべきは自家用車。それは観光客でもビジネス客でも変わらない。

輪島駅前7時10分発は市の坂経由の穴水総合病院行きで、穴水駅前には7時44分着。7時57分発ののと鉄道に接続しており、七尾には8時38分に到着する。石川県立穴水高校(穴水駅から徒歩約20分)への通学に便利かと思ったのだが、若者の利用はあっても、制服を着た高校生の乗車は見られなかった。


輪島駅前に入る穴水総合病院行き(筆者撮影)

少し古い資料だが、2010年に珠洲市が作成した「奥能登地域公共交通活性化の取組み」では、能登半島北部の各高校への進学者が、どこの中学校の出身かをまとめてあった。

高校生の広域的な通学は少ない

それによると、穴水高校への進学は穴水町内からが大半で、輪島市内からはわずか数人となっていた。反対に県立輪島高校へは、穴水町内から一定数の進学者が見られた。少子化が深刻になっている今では、もっとはっきりした傾向が出るだろう。

それゆえか、今も北鉄奥能登バス穴水輪島線には、8時少し前に続けて2本、輪島高校前に到着する便が設定されている。それぞれのと里山空港経由と市の坂経由で、途中のバス停からの需要を拾うと推測される。

穴水駅前には、7時45分から50分にかけて能登町方面からのバスが3本、立て続けに到着した。途中、穴水高校口を経由するから、そちらからは通学する生徒がいるのだろう。穴水駅前では中学生が何人も降りる。駅近くには穴水中学校があるが、町内の中学校はここだけ。統廃合が進んだ結果、バス通学が生じているのであった。


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(土屋 武之 : 鉄道ジャーナリスト)