さまざまな冷食自販機が設置された大阪の「冷食万博 グルメEXPO365」。冷食自販機も今年、冷凍食品を沸かせたトレンドワードの1つだった(写真:筆者撮影)

今年も、この1年を振り返る「●●大賞」の時期がやってきました。実は、冷凍食品業界にもトレンドがあるとのこと。

冷凍食品専門家」「冷凍生活アドバイザー」として活動し、『いますぐ食べたい!冷凍食品の本』や『冷凍王子の冷凍大全』などの著書のある“冷凍王子”こと西川剛史さんが挙げる今回のテーマは、今年の「冷凍食品トレンドワード」。

2023年は、いったいどんなワードが注目されたのでしょうか。

冷凍食品トレンド大賞とは?

筆者は毎年末に、冷凍食品に関するトレンドワードを抽出してアンケート調査を実施し、その結果からランキング形式で「冷凍食品トレンド大賞」を発表しています。

トレンドワードは「冷凍食品」というキーワードで1年間のGoogleニュース掲載記事をチェックし、その中から注目されたワードを抽出。アンケートは冷凍食品業界関係者(メーカー、食品卸、小売店、業界紙記者、その他冷凍食品関係者)を対象に行っています。


冷凍食品トレンド大賞」は今年で開催3回目となります。第1回の2021年、第2回の2022年のランキングで、ともに1位となったのは「冷凍自販機」。2023年も3位で、引き続き注目のトレンドワードです。

3位:「冷凍自販機」ビジネスの拡大

冷凍自販機ビジネスは近年拡大し続けています。コロナ禍で非対面やテイクアウトの販売形式が望まれたことや、人手不足を解消する販売方法としても注目され、冷凍自販機のみを複数台並べた専門店も誕生しました。

冷凍自販機本体は、2021年1月にサンデン・リテールシステム(東京都墨田区)から「ど冷えもん」が発売。2023年9月までに全国で約8000台設置されています。2022年2月には富士電機(東京都品川区)から「FROZEN STATION」が発売され、この2強の冷凍自販機が普及を率いています。


全国で約8000台設置されている「ど冷えもん」(写真:筆者撮影)

冷凍自販機の中身は、設置場所によって多種多様。販売されている商品で多いのは餃子やラーメン、スイーツなどですが、ご当地グルメ自販機、エンタメ性を高めたガチャ自販機(ランダムでいろいろな冷凍食品が出てくる!)も登場しています。

また、テイクアウトのみではない利用法も展開されています。

日清製粉ウェルナは、冷凍自販機市場をとらえた「冷凍自販機専用パスタ」を開発し、専用トレーとフォーク付きの冷凍パスタ「マ・マー もちもち生パスタ」を発売。冷凍自販機と電子レンジをセットで設置することでその場で食事ができ、無人の食堂として運営が可能になります。

食堂などの調理施設のない事業所や工場、ビジネスホテル、アミューズメント施設、シェアオフィス、学生寮での事業展開が見込まれています。


パスタの冷凍自販機。無人の食堂として運営が可能に(写真:筆者撮影)

このように、ここ数年注目を集める冷凍自販機ビジネス。メリットとしては、下記が挙げられます。

・無人で冷凍食品を販売可能(複数台並べた無人販売店も可能)
・24時間販売が可能
・電源さえあれば陸の孤島のような場所にも設置が可能
・無人店舗とは異なり、購入時に決済が必須なため万引きが不可能
・販売データ、購入者データの活用
・空きスペースの活用(不動産保有者からの依頼の増加)
・自販機のラッピングによる広告PR効果


 設置費用やランニングコスト、在庫補充や冷凍配送便の人件費など、冷凍自販機にはまだまだ課題はあります。しかし、新たな冷凍食品の販路として、空きスペースの有効活用策としてなど、期待が高まっています。

2位:「物流2024年問題」は冷食業界にも

ニュースでよく耳にする「物流2024年問題」は、冷凍食品業界でも今年のトレンドワードの1つで、2位に入りました。

これは、2024年4月から始まる物流事業に関する働き方改革関連法により、トラックドライバーの労働時間に上限が課されることで輸送能力が不足し、物を運べなくなる、物が作れなくなる、といったことが懸念されている問題です。

物流と一口に言っても種類があり、工場が原材料を仕入れる「調達物流」、工場内や倉庫への「生産物流」、倉庫や配送センターから販売店舗さらには消費者への「販売物流」、消費者から返品や廃棄物が戻る「回収物流」、リサイクルの「リサイクル物流」などがあります。

物流2024年問題は多くの業界に影響が及びますが、冷凍食品業界にも大きなインパクトがあると予想されます。なぜかというと、1つは冷凍食品は加工度が高く、1個の商品に使われる原料・資材の種類が多いため、調達物流の影響を受けやすいのです。


原料を製品工場に運ぶまでの物流を「調達物流」という(図:筆者作成)

例えば、冷凍グラタンを作るには、小麦粉や牛乳、生クリーム、チーズ、マカロニ、複数の調味料など多くの原料が必要です。さらには、できたグラタンをトレーに入れ、内袋で閉じ、さらにはパッケージ(外袋)で閉じ、輸送用の段ボールにも入れ……と、包装資材も多く使われます。

原料や資材のうち1つでも工場に届かないと商品が製造できませんし、ドライバー確保のための原料資材の仕入れのコストアップも見込まれます。

もう1つは、冷凍食品は大量生産・長期保存ができるため、生産コストが抑えられる都心部から離れた地方に工場を作る場合が多いのです。

地方の工場から都心部、さらには全国に供給するには長距離輸送が多くなります。長距離輸送は長時間労働者の比率が高いため、ドライバーの労働時間に上限が課されるこの問題は、深刻な影響を及ぼしかねません。

さらには、生産物流や販売物流では、常温輸送に比べて冷凍輸送可能な事業者は絞られるため、トラックの確保が難しくなる懸念もあります。

実際、どの程度の影響があるのかは未知数ですが、冷凍食品業界ではすでにさまざまな取り組みが始まっています。

日清製粉ウェルナでは、製品の内容量はそのままに、製品と段ボールの規格を見直し、積載効率を1.5倍にしました。段ボールを直接トラックに積むのではなく、パレットを使うことで積み下ろしにかかる時間を短縮。さらに製品と段ボールのサイズを従来より小さくし、これまでの段ボールでは1パレットあたり32箱だったものを、48箱積めるようにしました。


日清製粉ウェルナの取り組み(写真:筆者撮影)

今後も物流の負荷軽減のため、各社で取り組みが行われていくでしょう。どんなふうに問題を解決していけるのか、筆者も注視していきたいです。

1位:今年注目度NO.1は「冷凍食品値上げ」

今年最も注目されたトレンドワードは「冷凍食品値上げ」です。

アンケートでも圧倒的なトップ回答でした。冷凍食品業界関係者も、消費者も、値上げは肌で感じていることであり、注目度が高くなっているのだと思います。

冷凍食品に限らず、2023年は食品の値上げが目立ちました。2022年も記録的な値上げといわれましたが、今年はさらに値上げ品目が多く異常事態のような印象でしたね。

近年の食品全般の値上げの要因には、下記のものがあります。

・原材料の仕入れ価格上昇
・包装資材(袋、トレーなど)の仕入れ価格上昇
・人件費の増加(工場の労働単価の上昇、労働環境の改善)
・エネルギーコストの増加(電気、ガスなど)
・冷凍輸送、冷凍保管コストの増加
・中国などの海外の購買力の増加(日本が買い負ける)

昨年から続く値上げの追加要因として、大幅な円安による輸入原料価格の急上昇(日本の食料自給率の低さも影響)、ロシアによるウクライナ侵攻での原料価格上昇、エネルギー問題による製造工場の光熱費の上昇などが重なったことが挙げられます。

これらの影響は現在進行形で続いており、そこに今後、物流2024年問題が加わってきます。食品業界としては、今後のさらなる「コストプッシュ・インフレ(生産コストの上昇分を、製品価格に転嫁することによる物価上昇)」は避けられないでしょう。

もし値上げをしない場合、製品の量が減ったり、質が下がったりなどの「実質値上げ」が起きてしまったり、メーカー従業員の給料や休日などの労働条件が悪化したりすることも考えられます。

食品業界としては、継続的な経済活動を維持するため値上げは必要ですが、値上げしても受け入れられる付加価値が重要になります。

ただ、このような状況下で冷凍食品の値上げは日々の家計を圧迫するものの、そもそも冷凍食品は非常にコスパのよい商品だと考えます。値上げしてもまだ、外食やテイクアウト、さらには自分で全て手作りすることに比べれば、まだまだ節約や時短という点で魅力があると感じます。

そして、この物価高のなか、筆者がおすすめしたいコスパのよい冷凍食品もあります。それは「大容量パック」です。

大容量パックは製造コストやパッケージコストが下がるので、量あたりの金額で見るとお得になり、コスパを発揮します。

特に冷凍食品は長期保存ができるので、生鮮品のように腐らせることもなく、ムダになりません。保管場所の問題はあるものの、コスパを維持できる1つの方法になるので、今後は大容量パックの冷凍食品の人気がさらに高まると思われます。


お買い得な大容量の冷凍餃子(写真:筆者撮影)

普段の暮らしで上手に活用を!

2023年も終わりに近づきました。年末年始は冷凍おせちや冷凍ケーキ、ふるさと納税で取り寄せた食材など、意外と冷凍食品を食べることが多いものです。

人をもてなす機会も増えるので、そんなときこそ、ぜひ味も見た目もよく、手間は省いてくれる冷凍食品に注目・利用し、身近に感じてください。そして普段の暮らしにも上手に活用し、食生活を豊かに彩っていただけると“冷凍王子”としてうれしい限りです!

(西川 剛史 : 冷凍生活アドバイザー)