【M-1グランプリ2023特集】初決勝のくらげがM-1ドリームは手にする!? 「これで気が楽だわ、俺の人生。10位でもいいわ。決勝行ったしな」
M-1ファイナリストが発表された12月7日、オズワルドの伊藤俊介さんがXにこんなポストをした。「負けたのは悔しい。ただ、世話になってる先輩と可愛い後輩と泥水すすった同期がいったのが死ぬほど嬉しい」──この「泥水をすすった同期」こそ、今大会のダークホース的存在、くらげ。現在もアルバイトを続ける2人、M-1についてあますことなく語ってもらった。
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1位予想はさや香。現場にM-1見に行ってついでに出られる感じ
──芸人仲間の方が「くらげこそM-1ドリーム」だと言っていました。「ダークホース」と書かれたメディアもありますが、どう思いますか?
渡辺 圧倒的にダークホースです。YouTubeにある「優勝候補予想ランキング」動画で最下位だったんです。投票率2%でしたよ。倍率はエグいです。公営ギャンブルだったらとんでもないことになる。
杉 僕もさや香、モグライダー、真空ジェシカの三連単、一番王道に賭けます。
──公式の三連単順位予想、やったんですか(笑)。
渡辺 1位はさや香だな。僕も予想するとしたらそうだな。現場にM-1見に行ってる感じです。ついでに出られるっていう。
──いやいや決勝まで進んでいますからね。初挑戦はコンビ結成年の2018年で、1回戦で敗退されました。
渡辺 2回負けてます。早めに受けると、再エントリーというルールでもう1回出られるんですよ。そこでも落ちました。
──(笑)。2019年は準決勝まで行って、無名ながら敗者復活戦の視聴者投票で8位でした。
杉 本当に行けると思っていなかったので「ラッキーだね」という感じでした。
渡辺 準決勝進出の発表がある日はライブで、「2時に渋谷に集まろう」という約束をしていたんです。12時に発表があって、スマホで結果を見た相方から「な、なんか……準決勝行ってるけど……?」と連絡があって。「じゃあ早めに集まるか」と。
──この準決勝のネタをユウキロックさんが絶賛されていたと。
渡辺 ユウキロックさんは絶賛します。大体ほかの人もめちゃくちゃ褒めてくれます。僕らだけ見ると僕らだけ褒めているように見えますけど、全員褒めてくださってます。
──(笑)。そうでしたか。渡辺さんが女心について「わかんねえけど」と言いながら芯をつくというネタをもう1度見たいのですが、公式YouTubeで非公開にしていますよね。
渡辺 そうなんです。YouTubeはすべて彼がやってくれています。字幕入れてくれています。
──作業量がすごいですね。
渡辺 漫才のネタ動画をアップして、企画とかあまりやってないんです。
準々決勝で、走馬灯になるレベルでウケた
──今回、1回戦から準決勝まで勝ち上がった過程で、印象的なシーンはありましたか?
渡辺 準々決勝ですね。
杉 今までで一番ウケすぎて。「笑い待ち」ってあるじゃないですか。出る前は「それを意識しよう」と話していたんですが、それ以上の笑いで。
──そんなにいつもと違う感じだったんですか。
渡辺 死ぬとしたら、走馬灯はあそこです。「あんだけウケたもんな〜」という感じでしたから。今までのウケ方と違いすぎてネタが飛んだほどだったんです。「え!? こんなにウケるんかい!」と無駄なことを考えちゃって。運がよかったくらい、いいお客さんでした。出番順もよかったんです。
杉 袖で見ていた芸人んが「ヤバかったね!」みたいなことを言ってくださって。後日、その芸人さんがほかのライブで、劇場の全員に「くらげがすごかったよ」と言ってくれたらしいんです。
──ちなみにどなたですか?
渡辺 いぬの有馬(徹)さんです。
杉 いぬさん、某ライブには「ねこ」で名前変えて出てるんです。
渡辺 言うな言うな。いぬさんが某ライブにねこで出て2連覇した話言うな。
杉 絶対書いてください。
──いい話ですね(笑)。袖にもインパクトを与えるくらいすごかったんですね。準決勝の手応えはいかがでしたか。
杉 なかったです。準々決勝がウケすぎたので。
渡辺 準々決勝が100点満点中150点くらいの感覚になっちゃったんです。その影を追い求めてしまって。スベっていたわけではないんですけどね。
──比較してしまったんですね。準決勝が終わって決勝発表までの間は、なにをしていましたか?
渡辺 オズワルドの伊藤(俊介)と豪快キャプテンの山下ギャンブルゴリラとスタミナパンの麻婆さんと、ダブルヒガシの大東(翔生)とフースーヤの谷口(理)と、あとからロングコートダディの堂前(透)が来て、ご飯に行きました。伊藤が「とにかくみんな誘って行こう」という感じで。伊藤が全部出してくれました。麻婆さんのほうが先輩だけど、伊藤が出しました。麻婆さんは自分が払いたくないから、あの瞬間だけ僕らと同期になった。
杉 一個先輩なのに? たまにそういう人いるけど。
渡辺 「同期だよ」「そうなの?」って話してたら、上だった。
──(笑)。皆さんどんな話をしましたか?
渡辺 やっぱりエゴサとかしちゃうんですよ。「準決勝 くらげ」とかで。褒めている人もれば「ちょっと甘かった」という人もいて、半々で。「これは無理だな、全員に褒められる人が決勝に行くんだよ」とか。それで途中で伊藤が「もうそういうのやめよう! 普通にエロい話しようぜ!」って、無理やり話を変えて。でもまた途中からエゴサしちゃうんですよ。
結果発表時、オズワルド畠中が「話が違うぞ」
──ドキドキがすごいですね。杉さんは?
杉 僕はオズワルドの畠中(悠)と真空ジェシカのガクの3人でご飯に行きました。ガクは自信がありつつも「まだわからない」と言っていて、僕は「くらげとオズワルドはちょっと今回厳しいかな」と。畠中と「俺ら2人で帰ろう」と言っていたんですが、まさか僕らと真空ジェシカが受かってオズワルドが落ちるなんて。結果発表直後、泣いている僕に畠中が寄ってきて「話が違うぞ」って。
──あはははは! 一緒に帰ると話していたのに(笑)。
杉 あとで畠中が3人でご飯を食べている写真をXにポストして「このときは楽しかった」と書いていましたね。
渡辺 僕も堂前さんに「どうやった?」と言われて「多分無理っすねー」と話していたから、名前呼ばれて泣いているときに堂前さんが来て祝福してくれつつ「話しちゃうやん!」で、2秒ではけて行きました。
──そんなやりとりがあったんですね(笑)。
渡辺 でも、名前が呼ばれた瞬間はみんな優しかったです。ダイタクさんとかオズワルドとか来てくれて。みんな抱き合ってくれて。
──温かいですね。
渡辺 絶対に辛いはずですからね、自分たちも。
──辛さよりも仲間を思って。
渡辺 ダイタクさんは、僕らの東京漫才師の兄さんなんです。
──皆さんダイタクさんにお世話になっているんですね。名前を呼ばれた瞬間のことは覚えていますか?
杉 名前を呼ばれるとは思っていなかったので、エントリナンバーが2109なんですが、エントリーナンバーを呼ばれた瞬間にもう涙が出ちゃって。ネット上では、「どうやら、『エントリーナンバー!』のときにすでに杉が泣いていた」という変な噂がたっていて。
渡辺 ヤバいな。
──あはははは!
渡辺 「2100……」の時点でほぼくらげなんですよ。2100番台のナンバーはいないから。僕も名前を呼ばれた瞬間に「マジか!」と叫んで、もう泣いていました。すぐ近くにいたダンビラムーチョさんがガッツポーズをやってくれたし、奥にいた令和ロマンの(高比良)くるまが、いつも冷静でそんなことするようなヤツに見えないのに、僕らに向けてガッツポーズをくれて。
杉 あとで決勝発表の動画を見たら、「令和ロマン!」と呼ばれた瞬間、後輩のくるまが先輩の僕らに「おめでとう」をやってくれたのに、僕らはそんなことやってないの。自分たちのことで必死で、泣いてて。めっちゃ恥ずかしい。
渡辺 泣いてるから誰が呼ばれたかも覚えてないしね。
杉 2人であとで確認し合ったんですよ。
渡辺 あとで全員が並んだときに「あ、この人たちが通ったんだ」って。
こんなに汚くて華がないヤツを選ぶなんて“ガチ”じゃん! って
──それどころじゃないほど噛み締めていたんですね。泣いていたときどんなことを考えていましたか?
杉 ようやく夢の舞台に立てるなと。このためにやってきたので。それがうれしかったですね。
渡辺 僕はまず親の顔が出てきて、2番目にゆにばーすの川瀬(名人)さんが出てきて。一番お世話になっているので。3番目に同期のまんじろうの大寺(惇平)が出てきて、「なんでだよ!」とちょっと笑ってしまいました。
──なぜですか(笑)。
渡辺 前日に一番長くアツいLINEをくれたんです。「このネタやるなら絶対行けるよ!」っていう、言ってしまえばスカスカの内容なんですけど、一番アツく言ってくれました。
──川瀬さんもやりとりがあったんですか?
渡辺 川瀬さんは準決勝のネタが出来上がったときに「これで決勝に行けるぞ。おまえらが多分一番近いから」と言ってくれたんです。4月くらいかな。
──そのネタはいつ頃出来上がったのでしょう。
渡辺 1年前にできて、少しずつ改良して、4月に8割くらい出来た感じです。川瀬さんはネタを褒めてくれることは今までもありましたが、「行けるよ! 決勝行ける!」という褒められ方は初めてだったんです。
──そう言われて、実感はありましたか?
渡辺 もちろん自分たちでも思っていましたが、今まで決勝に3回行っている人が言うから「ガチか……」となりました。
──決勝に行ける人って、それまではどんなイメージでしたか?
渡辺 いや、すごい人……僕らは「行けるわけがない」と思っていました。準決勝は行けるけど、準決勝から決勝って、もう想像ができないんです。選ばれた人です。だから僕らが選ばれた時点で「ガチすぎるな」と思いました。選ばないよ、こんなに汚くて華がないヤツ。出すに値しない可能性もあるじゃないですか。テレビ番組ですし。……となったとき、「俺ら? ……ガチじゃん!」と思いました。
──真正面から実力勝負なんだなと。
渡辺 本当にそう思いました。めっちゃリアルなんだなって。目指していたけど行けるとは思っていないというものあって。「行ける・行けない」じゃなくて、「多分行けないんだろうな」って。
──決勝の舞台に立ったとき、どんな心境になるんでしょうね。
渡辺 まずは舞台上の明るさがどれくらいかを知っておかなきゃ。
杉 何度かテレビに出させてもらっていて、あの明るさを知っているからあまり緊張せずにすむかも。初テレビが決勝だとちょっとヤバいと思いますけど、敗者復活戦にも出たし。そのときは初めてのテレビだから緊張しました。
2019年、無名すぎて先輩の福田麻貴が「ソニーちゃうんや!」と驚がく
──2019年の敗者復活戦が初めてのテレビ? じゃあ本当に一般視聴者にとっては無名だったんですね。
杉 ほかの芸人とかも、M-1で初めて存在を知ったと思います。3時のヒロインの福田(麻貴)さんに後日∞ホールで会ったとき「吉本なんですか?」って言われましたから。
渡辺 敬語でね。他事務所の先輩だと思われてた。
杉 吉本の後輩だったっていうね。
渡辺 ∞ホールにゲストで来ていると思われてて。「えーー! ソニー(・ミュージックアーティスツ)ちゃうんや!」
──なぜソニーさん(笑)。
渡辺 パッと見てにじみ出る雰囲気にソニー感があったんですかね。
──(笑)。結成間もなかったから知らなかったんですかね。
渡辺 それもあります。∞ホールのシステムの一番下にいたし、敗者復活戦の後にスタッフさんと会ったら「君らがくらげか!」と言われて。いや俺今まで何度もすれ違ってるけどなあ……って。今いないですけどその人は。
──あはははは! ちょっとイヤな感じがあった?
渡辺 なんだかあの時期はありましたね、今はないですけど。下すぎて人権ないもんな。あいさつされなかったり。「おはようございます」と言っても「……はい」みたいな感じで。
杉 気持ちはわかるんです。何百人もいるから、向こうからしたら1人ひとり丁寧にできないと思うので。
渡辺 敗者復活戦の次の日に会ったときに「おはようございます」と言ったら、「おはようございまーす!」と言われたときは、「おお! やっと魂が入ったんだな! 人になったんだな俺らは」と思いました。
──やっぱりそういうのって覚えてますよね。
杉 そうですよね。あと最初に「わかんねぇけど」のネタを構成作家さんの前でやったとき「こんなネタじゃ無理だよ」と言われてそのまま準決勝まで行ったら、その日、「今日もこのネタめっちゃよかったよ」って、急に。
渡辺 「前から俺は評価してたよ」みたいな。途中で質問したらマジでキレられたもんな。「いいよいいよ! その感じでいくならもういいよ。下にいなよ」みたいに言われて。
──そういう方いるんですね(笑)。
杉 でもその人ももう今はいないです。
渡辺 みんないなくなるんだ。
杉 原因は分からないですけどね。
──ちょっとなにかある人は消えるんですね。
渡辺 いるけど僕らが見えていないだけかもしれないですけどね。
一緒に泥水をすすった芸人から「希望だよ」
──そういう目に何度も遭ってきたんですか。
渡辺 僕らがこういう話一番あると思います。泥水をすする系の話は。特にコロナ禍は営業が全部なくなって、∞ホールのシステムもうやむやになって。
杉 そのときは1人の社員さんが600人くらいマネージメントしていて。
──そのころの時期に一緒に切磋琢磨した芸人さんから、今回反応はありましたか?
渡辺 めっちゃLINEが来ました。「夢がある」「俺らでもいけるかもしれない、と思わせてくれてありがとう」とか。どんどん芸人がやめなくなっていくよ。
──皆さんの希望ですね。
渡辺 ぶくろ旋風のヒデミールさんという方から「本当に希望だよ」というLINEが来ました。
杉 まだいる?
渡辺 ヒデミールさんはガンガンいる。東久留米でライブやってる。
──(笑)。消えていなくてよかったです。杉さんは、決勝が決まった週にお子さんも生まれているんですよね。
渡辺 ピークが多いんだよな。
杉 めっちゃ忙しい週でしたね。奥さんは出産で入院していて、僕が上の子を見ていて。周りの人が手伝ってくれましたが忙しかったですね。
渡辺 おまえの子どもが生まれた日、うちのアパート断水だったんだぞ。
杉 知らん!
渡辺 トイレ流れんかったんだぞ。
──ハッピーな日と断水の日で(笑)。決勝までどんなふうに過ごしますか?
杉 ネタをどうしようかという話をしていますね。
渡辺 あとは疲れないようにしています。とにかく体調管理ですね。すべての食物に生姜をかけています。体が冷えないように。
──すごい心がけですね(笑)。
渡辺 なに食べてもあんまりおいしくない。
杉 僕は準決勝で咳がちょっと出てヤバかったので、病院で決勝までの日数分の薬をもらいました。
ライブの合間にUber Eatsやって日焼け
──ちなみに、皆さんが「ドリームだ」と言うということは、今アルバイトをしていますか?
渡辺 してます。ファイナリストで僕らだけですね。バイトしてるの。給料一桁も僕らだけじゃないですか?
杉 バイトしてるっていうことはそういうことですよね。
渡辺 だから周りのみんなが祝福するわな、と思います。
──歴代のファイナリストでは、2020年に決勝4位になった錦鯉さんが、当時はまだバイトしていましたね。今は何のバイトをしていますか?
渡辺 僕はダンボールを組み立てるバイトをしています。日によって解体か組み立てかあって、この前なんて、「こっちのダンボールを組み立てたあと、そっちのダンボールを解体しておいて」と言われて、俺は何をやっているんだろうと思いました。
──あはははは!
渡辺 もしかしたら、監視カメラでめっちゃ金持ちのヤツが道楽で見ているのかなと思いました。酒飲んでステーキ食いながら見てるのかなって。
──(笑)。それを週にどれくらい?
渡辺 派遣なので融通が効くんです。でも決勝が決まってからは行かないようになりました。だから今月のギャラが一番しんどいかもしれないですね。
杉 僕はUber Eatsの配達と、地下アイドルの握手会の剥がしをやっています。この前、僕が剥がす側なのに「お時間です」と言われて僕が剥がされたんですよ。意味がわからなかったです。
渡辺 剥がされ顔じゃないのになあ。
──(笑)。それはどんなツテでできるバイトなんですか?
杉 もともと先輩の芸人がやっていて紹介してもらいました。シフトの融通も効くので、行けないときはほかの芸人に行ってもらったりして。Uberも好きなときにやっています。
渡辺 一回こいつ、Uber先でUberして、川崎まで行ったこともありましたね。
杉 あと夏に∞ホールでライブやって、5時間くらい空き時間があったのでその間にUberやって帰ってきたら、めっちゃ日焼けしてた。
渡辺 おまえ焼けてんじゃん! って。
杉 次の出番で急に日焼けして出たんです。
──あはははは! 本当に休む間を惜しむほどバイトして。そんな2人が決勝に行くとなったら、それは周りもアツくなりますね。
親はあいさつ周り、母校は生徒に呼びかけ、アツい応援!
──決勝が決まった後の記者会見では「グッズのステッカーが圧倒的に人気がなくて、自分たちで購入した」と話していましたが、グッズも動いたんじゃないですか?
渡辺 8位までになったらしいですね。
杉 知らなかった!
渡辺 「買いたい」と言ってくれている人もいて。前は杉が2万、僕が4万円分買って1位になったことがあったんですが、今回は自分で買ってないのに。ネットでも買えるので、実家関係が買っている可能性もありますね。
──ご実家の反応はいかがですか?
杉 父が喜んでくれて。決勝が決まった翌日に近所に「息子がM-1に出ます」とあいさつ回りしたみたいです。小学校、中学校、保育園にも行ってきて。20年前に通っていて、知っている先生も園長先生くらいなのに。
──ありがたいですね!
渡辺 僕は地元の中学校の新聞に、「卒業生が夢を追ってM-1グランプリ決勝へ。みんなで応援しましょう」と書いてくれて。それはうれしかったんですが、今朝、母親から来たLINEを読んでゾッとしたんです。2、3日前の給食の時間に、校内放送で「卒業生の渡辺さんがM-1決勝に出るので、皆さん24日は応援しましょう」と流れたそうで。くらげなんて知らないし、クリスマスイブですよ? 中学生は「え……」という感じですよね。
杉 僕は高校時代に野球部で、そのときのコーチがいま母校で先生をやっているんですが、その先生も毎授業「おまえら、くらげを見るように」と言っているそうで。無理やり見せるものじゃないから。見たい人だけ見てくれればいいです。
──そうですね(笑)。地元の方も熱がこもっていますね。身近な芸人さんはいかがですか?
渡辺 まずはやっぱりダイタクさん。抱き締めてくれて、記者会見のときに「どっちが大さんか拓さんかわからなかった」と言いましたが、全然わかっていて、大さんが抱き締めてくれたんです。その後で拓さんが鼓舞してくれて。控室ではダンビラムーチョの大原(優一)さんが、「もうバイト辞められるな!」と抱き締めてくださって。マユリカの中谷も一緒にいて、3人で抱き合いました。あと、オズワルドの伊藤が泣いてくれました。Xに「初めて、決勝に行けなくてうれしいが勝ったわ」みたいなポストをしれくれて。「もう止まらんからもう一言言わしてくれ。負けたのは悔しい。ただ、世話になってる先輩と可愛い後輩と泥水すすった同期がいったのが死ぬほど嬉しい。死ぬほど嬉しいに決まってるのよ」って。
ダイヤモンドからのアドバイス「最下位は取らないほうがいいらしい」
──アツい……! 同期ですもんね。
渡辺 僕に関してはNSCで同じクラスだったんです。1組で、クラスの中でABCのランク分けがあって、僕ら2人ともCクラスでした。杉も畠中も違うクラスのCです。
──そのときは伊藤さんとどんな仲だったんですか?
渡辺 伊藤もあまり人と仲良くしないスタンスで。お互いにNSC時代は唯一しゃべって飲みに行っていました。
──10年以上のお付き合いですよね。
渡辺 先にオズワルドが結果を出しまくっちゃいましたけどね。
──そのときはどんな心境で見ていましたか?
渡辺 ちょっと夢ありましたね。いい指標になりました。「あいつら、努力でいったな」というのが一番うれしかったです。
──オズワルドさんが指標ということは、お2人とも芸能人とお付き合いされていて、渡辺さんもそうなる可能性がある……?
渡辺 なるほどね! 僕は38歳から45歳くらいの女性からしかDM来ないです。
──なぜでしょう(笑)。
渡辺 わからないです。ちょうどいいんじゃないですかね? 緊張もしないんでしょう。一度、熟女キャバクラで働いているバツ2の女性からDMが来て飲みにいったんですが、そのときに「言っておかなきゃいけないことがある」と。何を言われるのかと思ったら「本当はバツ2じゃなくてバツイチです」と言われて。変な盛り方! ムズすぎる!
──なんで増やしたんでしょう(笑)。迫りくる24日ですが、緊張していますか?
渡辺 ダイヤモンドの野澤(輸出)さんから会うたびに言われるのは「最下位は取らないほうがいいよ。わかんねぇけど」って。いや、わかってんるじゃん。「あと、わかんねぇけど、ウケたほうがいいらしい、どうやら」と言っていました。野澤さんはボケっぽくして緊張を和らいでくれているんだと思います。小野(竜輔)さんは「もし最下位になっても最下位を集めたライブがあるから、それはそれで笑いになるよ」と言ってくださって。
──じゃあどんな結果になっても。
渡辺 何をやってもノンプレッシャーでいける、と思えるのが一番いいですね。でもやっぱり松本(人志)さんの前でやるのは緊張しますよね。松本さんの画像とか事前に見ておこう。あと、出囃子の音、あるじゃないですか。僕はあの音源をいまYouTubeで聴きまくっています。
杉 いいねそれ。僕もやろう。
渡辺 ブラックマヨネーズさんが優勝した2005年からかな? 初めてそれが流れたんです。で、それを誰かがラジオで「あの音を聴くと、その瞬間に『うわ! M-1!』ってなるから聴いておいた」と。聴き続けていると聴いたことがないBメロみたいなところまでいって、そっちを聴きすぎて、逆にヤバくなったと。
──あははは!
渡辺 その前に流れる曲も聴いてる。
杉 それも音源あるの?
渡辺 あれ、「トイ・ストーリー2」のサントラなんだよ。2本目の出囃子の音源もあって、それも聴いてる。
「これでもう死ねる」
──いいルーティンですね!(笑) お2人にとって、M-1はどんな存在ですか?
杉 人生を変えるために、一番近道なのがM-1だと思います。僕らみたいな芸人は。
渡辺 テレビで売れないだろうしネタにポップさがないし、SNSも積極的にやっているわけじゃないので。意外とM-1に向けて頑張るのが近道なんですよね。中1のときにM-1が始まって、M-1を好きになってからの人生の方が長いので、もう「M-1=人生」みたいなことにはなっています。
──本当にお2人のような芸人さんのためにある大会だと。
渡辺 かっこつけるわけじゃないですけど、決勝が決まったとき、真っ先に思ったのが「バイトを辞められる」とかじゃなくて、「これでもう死ねる」と思ったんです。結婚したり幸せになったり離婚したり、人生の中でいろいろあるかもしれないですが、「死ぬときに思うな」と思ったんです。「決勝出たしな」って。病気になっても「でも決勝に1回でも行ったもんな」と思えるというか。マジで、それだけはすぐに思いました。「これで気が楽だわ、俺の人生。10位でもいいわ。決勝行ったしな」って。M-1の小さい年表にコンビ名が載るじゃないですか、それだけで十分です。これ、2人くらいにしか言っていないです。
──すごく貴重な、いい言葉をありがとうございます。最後に、決勝に懸ける意気込みを教えてください!
杉 決勝の光景を見ずに辞める芸人が割合的に多いじゃないですか。そんな中で行かせてもらっているので、その人たちの分……と勝手に思っています。決勝進出を喜んでくれた人がいるから、自分たちだけの舞台じゃないなと思います。
渡辺 辞めた芸人がめちゃくちゃLINEくれるけど、そいつらはもう社会人をやっていて「おまえらすごいよ」と言ってくれるんですが、でも絶対に辞めたやつのほうがすごいんですよ。そいつらに、バチッとやっている姿を見せたいです。
構成・撮影/丸山剛史 取材・文/有山千春