Vol.133-4

本連載では、ジャーナリスト・西田宗千佳氏がデジタル業界の最新動向をレポートする。今回のテーマはクアルコムの新CPU「Snapdragon X Elite」。インテルとクアルコムが今後のCPU、ひいてはPCで狙っているニーズを解説する。

 

今月の注目アイテム

クアルコム

Snapdragon X Elite

↑自社開発のCPUアーキテクチャ「Oryon」を12コア搭載するSnapdragon X Elite。Apple M2と比較してマルチスレッドで50%高い性能を、第13世代CoreのPシリーズと比較して同じ電力量であれば性能は2倍になるという

 

前回の本連載で、インテルが2024年に向けて「次世代Core」シリーズを準備中であることを解説した。新たにチップレット構造を採用してCPUコアやGPUコアなどの組み合わせを細かく変え、製品バリエーションの柔軟性拡大と消費電力低減の両方を狙った改善を進める。

 

だが、それだけで「PCを買い替える」ニーズが生まれるか、というとそうではないだろう。いままでできていたことが改善されるくらいだと、「次にPCを買わねばいけなくなったとき」、すなわち、古くなったり故障したりしたときにしか買い替え需要が起きづらい。

 

PCも新しい、強いニーズが必要になってきている。それはなにか?

 

より大きなニーズとしてインテルが目指すのは「AI」だ。

 

生成AIブームもあり、AI関連処理のニーズは拡大している。現状、それらの処理はほとんどがクラウドの高性能なサーバーで行なわれている。PC内で処理することもできるが、それには高性能なGPUが必要で、やはり高価なPCが必要になる。

 

しかし今後は、個人のスケジュールや写真、健康データなど、プライベートな情報を扱うAIが増えていくだろう。そうすると、クラウドにデータを毎回アップロードするのはプライバシー上のリスクがあるし、ネット越しに反応を待ちながら使うのも使い勝手の面で問題がある。

 

個人は生成AIの「学習」はほとんどしない。学習されたデータからの「推論」に特化し、比較的規模の小さな生成AIを用意すれば、PCやスマートフォンの中だけで処理を完結できるようになる。

 

生成AIが個人のアシスタントになっていくのなら、機器の中で完結する「オンデバイス生成AI」を効率的に処理できる機構が必要になる。

 

すべての次世代Coreには「NPU」と呼ばれる機構が搭載される。これはAIが必要とする処理に特化した仕組みで、これまでも「マイク音声のノイズ除去」や「ビデオ会議の背景ぼかし」などに使われてきた。今後は消費電力低減と速度向上が同時に実行され、生成AIを含む大規模なAI処理も行なえるものになっていく。

 

実は同じような機構はクアルコムの「Snapdragon X Elite」にも搭載される。スマートフォンではカメラ向けのAI処理や音声認識に使われている機構だが、それをさらに拡大し、インテル同様、オンデバイスでの生成AI処理への活用を目指す。

 

こうした機構がPCの姿を変え、新しいニーズを生み出す……と結論できれば美しいのだが、現状はまだそこまで行っていない。PCでのオンデバイスAI活用自体が始まったばかりで、スマホの方が先行している状況だからだ。次世代CoreやSnapdragon X Eliteは先駆けとなる存在であり、そのためにはソフトの改善も必須。特にWindows 11のオンデバイスAI活用がどう進化するかが、大きな鍵を握ることになる。

 

2024年もAIは先を争って進化が進むと考えられるが、PC用の新プロセッサーの効果も、そうした「進化したAI」で検証されたのち、一般に売れるための武器に変わっていくだろう。そうすると、2024年後半から2025年にかけて、すなわちいまから1年後くらいが“変化が可視化される”タイミングになるのではないだろうか。

 

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