この記事は、小売業界の最前線を伝えるメディア「モダンリテール[日本版]」の記事です。

ホームセンターのホームデポ(Home Depot)は、ショッパブルな(買い物可能な)ミニシリーズ(短期の連続テレビ番組)で、テレビ視聴者にQRコードで商品を購入してもらえるか実験している。

ホームエンターテイメントブランドのビジオ(Vizio)との提携により制作された「メリー&ブライト(Merry & Bright)」は、ビジオ視聴者のホーム画面にローテーション表示されるコレクションとして現在紹介されているブランドコンテンツのシリーズだ。このシリーズは音楽オーディション番組「アメリカンアイドル(American Idol)」で有名になった歌手のジョーダン・スパークスがホストを務めており、ホームデポの商品を使ってホリデーシーズンに自宅を模様替えをする家族の物語で、家の改造番組の雰囲気を出している。番組では、画面上でQRコードが点滅表示され、それをスキャンするとホームデポのクリスマスデコレーションのページが開く仕掛けだ。

ホームデポのメディア担当ディレクターを務めるクリスティーン・リード氏によると、「メリー&ブライト」は、代理店やブランドからの関心が強いにもかかわらず、まだ主流になっていないマーケティング分野をテストする機会だという。

「顧客にとって、ショッパブルなメディアとしてテレビを使うことは新しい行動だ。これが未来の姿だと考えており、力を入れている」と、リード氏は米モダンリテールに語った。



ショッパブルTVは「次のフロンティア」



インサイダーインテリジェンス(Insider Intelligence)の4月の調査により、広告代理店の専門家の約57%は、ショッパブルテレビを、パーソナライゼーションの強化やオムニチャネルの広告トラッキング以上に「次のフロンティア」だと考えていることが判明した。さらに、サムスンアズ(Samsung Ads)とカーブインタラクティブ(Kerv Interactive)の調査では、スマートTVの視聴者の4分の1は、テレビを見ながら、すでに能動的にショッピングを行っていることが明らかになっている。

このシリーズは、ストリーミングTVサービスとブランド間のより大きな相互作用の一例であり、ショッパブルなコンテンツはキャンペーンにおいてより大きな部分を占めるようになってきている。Amazonは、ストリーミングの機会をブランドに売り込み、実験を行っている。最近では、ブラックフライデーのセールのため、NFL(ナショナルフットボールリーグ)の試合中にショッパブルなQRコードを登場させた。一方、ロク(Roku)は、アクションアズ(Action Ads)のようなショッパブルコンテンツを利用し、成長中の自社広告ビジネスにより多くのD2Cブランドを誘致することに注力している。

このシリーズは11月1日にスタートし、12月末まで放映される予定だ。現在は半分ほど終了したところなので、結果を評価するのはまだ早すぎる。また、長い形式の動画が、QRコードを使用した15秒や30秒の短いスポット広告よりも良い業績をあげられるかどうかもまだわからない。しかし、これまでのところこのシリーズは、プラットフォーム上のほかのコンテンツと同程度の業績をあげているようだ。ビジオによると、ほかのホームスクリーンのヒーロー動画の平均クリックスルー率が0.6%であるのに対して、このシリーズのコンバージョン率は若干高いという。

リード氏は、将来もショッパブルな動画が使用される可能性はあるというが、もっとも注力しているのは「ファネルを平らにすること」、すなわち簡単な購入方法によって商品の認知度を高めることだと語る。そのためには、ストーリーテリングと商品説明を混ぜ合わせ、視聴者が商品を売りつけられていると感じないようにすることが求められる。

「押しつけがましくなく、信頼できるように見えることを心がけている」とリード氏は述べている。

より的確なターゲティング



ビジオにとって、「メリー&ブライト」は新しいコンテンツ戦略の一環だと、ブランドコンテンツおよび販売戦略担当バイスプレジデントのカトリン・ウィルソン氏は語る。より強力なストーリーテリングに注力し、消費者のエンゲージメントの機会創出に重点を置くことに加え、ビジオは最近、オペレーティングシステムを見直し、ACR(自動コンテンツ認識)データをより有効に活用し、レコメンデーションを改善できるようにした。これによって、人々がテレビをつけたとき、「メリー&ブライト」を表示させるターゲットをより的確に行えると、同氏は述べる。

「視聴者がどのようなコンテンツに興味を持ち、どのようなコンテンツを楽しんでいるかを把握しているため、このタイプのコンテンツからもっとも恩恵を受けるような消費者のタイプを、フロントエンドで的確にターゲティングできる。単にネットワーク上で広告を配信し、適切な視聴者の目に触れることを期待するのとは対照的に、より十分な考慮の上で取り上げることができる」と、ウィルソン氏は述べている。

このプロジェクトは、ビジオとホームデポのチームに加えて、ターンカードコンテンツ(Turn Card Content)がプロデュースし、OMDのザ・コンテンツ・コレクティブ(The Content Collective)のマーケターと共同で制作された。この番組は1本10分程度になっている。これはストーリーを展開し、DIYを行う人たちのための身になるヒントを盛り込むのに十分な長さでありながら、それほど長い時間拘束させるものではない。そして、QRコードは目ざわりにならないよう、画面の下部3分の1で点滅することが決められた。

「この新しいメディアの利点のひとつは、我々がルールを作り、ホームデポとパートナーシップのニーズに応えられる最適な方法を決定できることだ」と、ウィルソン氏は述べている。

顧客維持のためのメディアを模索



リザードストラテジー(Lizard Strategies)の創設者兼CEOのリズ・クレッセル氏は、あらゆる規模のブランドが、ショッパブルなテレビコンテンツを実験していると語る。しかしこの分野はまだ成長段階であり、多くの企業が広告予算を絞っていることから、実験的なものは必ずしも優先されない。さらに、視聴者にとって意味のある方法で実行されなければならない。

「買い物客が動画を一時停止して、スマートフォンを手にしてスキャンすると想定してはいけない。さらに、コードが消えてしまう前にスキャンできなかった場合に、買い物客が番組を巻き戻してスキャンし直すなどと考えるのはもってのほかだ」と、同氏は述べている。

「メリー&ブライト」の場合、画面に表示されたQRコードは、視聴者の手元にスマートフォンがない場合、手に取ってスキャンするのに十分な時間だけ画面に表示されていないこともあったと、クレッセル氏は述べている。また、たとえばユニークな商品ページや、割引コード、またはデコレーションのヒントのようなeメールキャプチャなど、遷移先がもっと具体的なものであったり、さらなるエンゲージメントの機会を提供することもできたはずだと同氏は語った。

しかし、ホームデポが顧客を引き付け維持するために新しいメディアを模索したのは、これが初めてではない。以前にもパンデミックによるロックダウンの頃、ライブストリーミングのワークショップを実験したことがある。これは、店舗がシャットダウンしたことで盛り上がったトレンドだ。また、ホームデポは、今でもウェブサイトで無料のワークショップを提供している。ワークショップは、蛇口の設置方法や、ガレージの収容力を最大限に活かす方法など、DIYプロジェクトや住宅改善に焦点を当てている。

「いろいろと実験しているのはすばらしい。人々に何かのやり方を教えているから理にかなっている。これは収益化に最適だ」と、クレッセル氏は述べている。

[原文:How Home Depot is experimenting with shoppable TV content on Vizio]

Melissa Daniels(翻訳:ジェスコーポレーション、編集:戸田美子)
Image via Home Depot