「心よりお詫び」はするが、「不適切発言」の訂正は拒否…川勝知事が「口先だけの謝罪」を繰り返す本当の理由
■12月県議会での川勝知事の「謝罪」の中身
静岡県の川勝平太知事が、県議会本会議の場で、思いも寄らぬ不可解な謝罪をして、周囲を驚かせた。
一体、何があったのか?
12月6日の静岡県議会代表質問の冒頭で、「不適切発言」による政治姿勢を問われた川勝知事は「県議会から決議をいただく状況になったことに、まことに申し訳なく、心よりお詫びする」と述べたのである。
不適切発言とは、川勝知事が県議会に諮っていない新たな文化施設の建設構想を外部懇親会で「詰めの段階」などと話してしまったことだ。「2025年6月まで川勝知事の居座りは決定事項…失言連発&リニア妨害なのに自民党が対抗馬を立てない理由」でも詳述している。
県議会の全会一致の決議は、川勝知事に不適切発言を速やかに訂正して反省することを求めたものだった。
そのような県議会の求めにもかかわらず、川勝知事はあくまでも「不適切発言」の訂正を拒否した上で、「県議会が決議に至った状況」に対して、「大変重く受け止めている」ので、「心よりお詫びする」と謝罪した。
■知事のイスに固執する川勝知事の「権謀術数策」
摩訶不思議で何ともわかりにくい謝罪をした後、今回の「不適切発言」の端緒となった「三島市を拠点とする東アジア文化都市の発展的な継承センター(事業)を白紙にする」と宣言した。
つまり、火元となった発言すべてを撤回したことになる。
これで一件落着となるのかどうかは全くわからない。
「不適切発言」を認めることを拒否して、意にそわない不可解な謝罪をしたのは、「権力の座」に固執する川勝知事の“権謀術数策”だからである。
ただ川勝知事の思いもよらぬ奇抜な謝罪に、自民党県議団が12月県議会の会期中(21日閉会予定)に、知事辞職を求める政局に発展させるのかどうかはこれからである。
■何も決まっていない事業を「詰めの段階」と発言
今回の謝罪にいたる経過を振り返る。
ことし10月12日の静岡県内商議所会頭らの懇談で、川勝知事は静岡県内で行われている国際文化交流事業「東アジア文化都市」に触れ、「三島を拠点に東アジア文化都市の発展的継承センターのようなものを置きたい。そのために土地を物色している。実際は、国の土地を譲ってもらう詰めの段階に入っている、それも買わないで定期借地で借りたい」などと新規事業を明かした。
県議会を無視した頭越しの知事発言で、土地買収等はじめ新たな施設計画が進んでいることが一部報道で初めて公になった。
自民党県議団らはこの知事発言に激怒、9月県議会最終日の翌13日に急遽、緊急質問が行われた。
質問に立った自民党県議は「(当該発言は)不穏当発言ではないか」とただした。
これに対して、川勝知事は同施設計画について、「職員レベルの内部検討は進んでいるが、何も決まっていないのが実情だ」などと釈明した上で、「不穏当ではない」と頭から否定した。
自民党県議団にそれ以上、追及する材料はなく、この問題を閉会中審査することを決めて、12月県議会に先送りした。
■「構想を述べただけ」と発言の訂正を拒否
県議会総務委員会は10月25日に閉会中審査を行い、事務方の説明を求めた。
担当部長は「三島駅近くに国が利用する予定のない国有地の情報をもらったが、譲渡など具体的な検討に至っていなかった」と詳細な資料を基に実際の状況を説明した。さらに、「知事の発言には正直なところ驚いた」と心中を明かした。
事務方の説明通りならば、川勝知事は、まだ決まってもいない頭の中のアイデアを「詰めの段階」として、堂々と外部に話してしまったことになる。
11月6日の2回目の閉会中審査では、県当局の説明に食い違いやごまかしがないかを確認するために、国の関係者を参考人として招請することを決めた。
11月22日の3回目の閉会中審査では、東海財務局の担当者が、国有地取得やその活用方針など全く決まっていない状況を県から説明を受けたことを明らかにした。
3回にわたる丁寧な審査の結果、川勝知事の発言した「三島に東アジア文化都市の発展的継承センター」事業は「詰めの段階」ではなかったと断定された。県議会総務委員長らが11月29日、発言の訂正を申し入れた。
これに対して、川勝知事は「構想を述べただけであり、訂正の必要はない」ときっぱりと拒否した。
■訂正を求める決議案は全会一致で可決
1日に開会した12月県議会冒頭でも、川勝知事は「今回の発言は、東アジア文化都市のレガシー創出に向けた思いを語ったのであり、現時点で何も決まっていない」として、あらためて訂正を拒否した。
このため、自民党県議団は、総務委員会作成の「不適切発言」の訂正を求める文書を決議案に替えて、知事与党「ふじのくに県民クラブ」を含めた全議員の同意を求めた。
6日の県議会冒頭で、中沢公彦議長が「知事は、『三島を拠点とした東アジア文化著都市の発展的継承センター』『詰めの段階』との発言を速やかに訂正するとともに、知事としての発言の重みを十分に意識し、今後は決して、軽率、不用意な発言をしないよう改めて求める」などと決議案を読み上げた。
自民党県議団の根回しが功を奏して、反対者はひとりもなく、全会一致で可決した。
■川勝知事が「不適切発言」を安易に認められない理由
冒頭に書いたように、県議会決議に対して、川勝知事は代表質問の答弁の中で、真っ先に謝罪した。
県議会決議は、「不適切発言」を認めた上で、訂正して反省することを求めた。それにもかかわらず、川勝知事はあくまでも「不適切発言」の訂正は拒否したのである。
だから、川勝知事の謝罪が一体何に対してなのか、県民には全く理解できないだろう。常人にはあまりにも不可解な謝罪だからである。
ただ気位の高い川勝知事が頭を下げたのだから、これ以上の追及はしてくれるなという思いだけは伝わった。
しかし、なぜ、それほどまでに「不適切発言」を認めて、訂正することを川勝知事は拒否するのか?
それは、今度「不適切発言」があれば辞職すると公言しているからである。
■「次失言すれば辞職する」と宣言
ことし7月24日の会見で、中日新聞記者が「(2019年12月、自民党県議団を念頭にした)ヤクザ、ゴロツキ発言であるとか、(2020年10月の)菅義偉総理に対する教養レベルが露見したとか、(2021年6月の)知事選の女性蔑視発言であるとか、女性蔑視、学歴差別、地域差別などいろんな分野からの批判が出ている。なぜ、こういう問題が何度も起きてしまうのか」と追及した。
川勝知事は「(選挙応援などの)政務のときとか、さまざまな状況下でそういう発言が出ている。常時公人でいく以外にない。常に公人である。公人としての知事の立場を取ると誓った」と述べた。
この回答に、記者は「ヤクザ、ゴロツキ発言とかは公人の立場だった。また同じことが起きてしまう気がする」と突っ込んだ。
これに対して、川勝知事は「今度間違うようなことをして、人様に迷惑を掛ければ辞職する」と宣言したのだ。
翌25日の新聞各紙は一斉に「不適切発言をして、今度迷惑をかければ辞める」と川勝知事の“辞職宣言”を大きく取り上げた。
この“辞職宣言”に対して、9月県議会は本会議の最終日(10月13日)、知事給与減額条例案の可決に伴い、全会一致で5項目の「附帯決議」を採択した。
『今後、仮に不適切な発言があった場合には辞職するとの発言に責任を持つこと』――つまり、“辞職宣言”を厳守しろ、という1項目を加えたのである。
■「全会一致の決議」への謝罪という苦肉の策
附帯決議に法的拘束力はないから、最終的には、川勝知事の判断に委ねられる。
しかし、“辞職宣言”という大見得を切ったのに対して、県議会全会一致の附帯決議までつけられた。
これでは、「ああ言えばこう言う」川勝知事でさえ、「不適切発言」を認めてしまえば、自らの“辞職宣言”から逃げられないと判断したのだろう。
当然、知事与党「ふじのくに県民クラブ」の県議17人をはじめほとんどの県議は、そんなことを考えて今回の決議に同意したわけではない。「不適切発言」による混乱を踏まえ、知事の反省を求めただけである。
しかし、自民党県議団の強硬派が、「不適切発言」を根拠に辞職を求めてくることは十分に予想できる。
川勝知事は必死で「不適切発言」の訂正を拒否した上で、県議会全会一致の決議に対して、謝罪するという苦肉の策を取ったのだ。
■無免許運転の元県議も「不適切発言」で政界を追われた
ことし9月、中山真珠県議が無免許運転で検挙された後、代行運転を使ったという説明の虚偽がばれた。
中山県議は無免許運転が理由ではなく、その後の不適切発言がもとで辞職を迫られ、政界から身を引かざるを得なかった。
つまり、「不適切発言」が中山県議を辞職させたのである。
川勝知事の頭の隅には中山県議の辞職もちらつき、「不適切発言」という単語そのものを消してしまいたかったのだろう。
これまでは、ごまかしと言い訳を繰り返して逃げてきたが、今回は県議会本会議で謝罪してまでも知事の座を死守したかったわけである。
6月県議会では最終日に政局となり、知事不信任決議案を提出する事態にまで発展した。9月県議会も最終日に「不適切発言」が問題となりもめた。
今回も何らかの騒ぎが起こるのであれば、12月21日の県議会最終日であろう。
■次期知事選まで残すところおよそ1年半
ただ自民党県議団も打つ手に欠けるのだ。
11月23日に、2025年6月の県知事選候補者を検討する自民党県議団の会議が非公開で開かれた。
県議によると、現在候補者は未定だという。実際のところはわからないが、有力な名前は挙がってこない。
12月県議会最終日に川勝知事と本当に対峙(たいじ)するのであれば、自民党県議団は知事候補者の検討を終えていなければならない。知事候補者が白紙の状態で戦うことなどありえない。
一方、国政では、自民党安倍派の裏金疑惑で、自民党に逆風が吹いている。万が一、川勝知事が辞職したとしても、選挙戦で勝てる見込みは非常に薄い。
もし、いま選挙戦となっても、自民党にいじめられている川勝知事へ大量の同情票が集まるのがオチである。
2019年12月に「ヤクザ、ゴロツキ」「県会議員の資格はない」とくそみそにけなされた自民党県議団だが、その後1年半もあった21年6月の県知事選で候補擁立に手間取り、結局、自民党推薦候補に約33万票の大差をつけられ川勝知事の圧勝を許した。
12月県議会が閉会すれば、同じく知事選まで1年半となる。前回同様に候補者を決めていないのであれば、現在だけでなく、前途も厳しいだろう。
ただ、政治の世界はどうなるのかはわからない。自民党県議団と川勝知事の対立は21日最終日まで目が離せない。
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小林 一哉(こばやし・かずや)
ジャーナリスト
ウェブ静岡経済新聞、雑誌静岡人編集長。リニアなど主に静岡県の問題を追っている。著書に『食考 浜名湖の恵み』『静岡県で大往生しよう』『ふじの国の修行僧』(いずれも静岡新聞社)、『世界でいちばん良い医者で出会う「患者学」』(河出書房新社)、『家康、真骨頂 狸おやじのすすめ』(平凡社)、『知事失格 リニアを遅らせた川勝平太「命の水」の嘘』(飛鳥新社)などがある。
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(ジャーナリスト 小林 一哉)