無意識なブラック行動の典型が、「部下の時間を奪うこと」。たとえばメール処理ができない上司もブラックです(写真:nonpii/PIXTA)

優れたリーダーとは「気くばりができる人」です。これまで、ビジネスは上意下達。上司が決めたことを部下が実行していれば成果は出ていました。

ところが、いまは顧客ニーズが複雑化した影響で、顧客の接点に近い、現場のメンバーが細かいニーズを吸い上げなければ成果が出なくなったのです。つまり、リーダーは、現場のメンバーが最高の環境で働くことができるように「気くばり」するのが仕事なのです。

本稿では、カルチュア・コンビニエンス・ クラブをはじめ、数々の会社で代表取締役を務めた柴田励司氏が、新刊『リーダーの気くばり』より部下に対してリーダーが考えるべき「気くばり」について解説します。

以前に『もしかしてブラック上司?』(ぱる出版)という書籍を上梓しました。

この本は、暴言罵倒する、残業を強いるなどの人格否定的な「ブラック行動」について書いたものではありません。むしろより深刻な「当人にまったく自覚がない」ブラック行動がテーマです。

よかれと思ってやっていることが…

自分の常識からすると当たり前の行動で、むしろよかれと思ってやっているのに、部下にはブラックと思われてしまう……。そのような言動をしていないかを読者にチェックしてもらうため、まとめたものです。

無意識なブラック行動の典型が、部下の時間を奪うことです。

たとえば、メール処理ができない上司もブラックです。メールの処理が遅い上司はブラック資質保有者、部下の仕事のタイミングも遅延させます。

深夜や休日にまとめて返信するのは、ブラック確定。隙間の時間を利用して、携帯端末からどんどん処理すべきでしょう。深夜、休日に返信を書いた場合には、下書きフォルダに入れておき、翌朝に送信するといいでしょう。

また、返信が遅れそうな場合には「〇日までに返事する」ととりあえず返します。長いメールが来たら、メールで返さずに電話をします。

特に長いメールを書いてくるということは、困っているか、いま何とかしてほしいと部下は思っているはずですから、その意を汲む意味からも、その場で解決できたほうがいいと思います。長いメールが来たときには極力会って話をするということを意識するようにしてください。

部下のスケジュールが公開されているにもかかわらず、それを確認せず呼びつけたり、仕事の依頼をするのもブラックです。そこには、部下の行動や負荷を把握していないうえに、部下の時間は自分のものという意識が、当たり前のように根底にあるように思います。

さらに、自分のスケジュールを公開しない上司もブラックです。部下からすると、いつどこで上司に相談したらよいかわからないからです。

みなさんが思う以上に、自分の行動がブラックであることに気づいていない管理職が多過ぎます。

こうしたブラック上司の存在率は業界ごとに異なるように思います。特に、人的流動性が低い業界で存在率が高いようです。

理由は簡単。他業界からの人材の流入がないため、世の中の変化を自分ごととして受け入れていない経営層、管理職層が多いからです。上司のやり方が変わらないので、そういう業界からはどんどん若手の有望人材が流出し、人が集まらない企業は事業継続ができなくなります。

経営層はこの悪循環を深刻な問題として捉えるべきです。

周囲とうまくいかない部下の対処

とても優秀な部下がいたとします。その部下は、自分の期待に120%応えてくれます。

その部下と話していると議論が弾み、気持ちもいい。つい、いろいろな仕事にアサインします。ところが周囲はその部下について総スカン。なんであの人ばかり重用されるのか……と陰口が飛ぶほどです。

あれだけやってくれているのに、なんでそんなにネガティブ評価なんだろう、と思い、その人の評価を修正しようとするのですが、うまくいきません。むしろ、なぜ、その人をそこまで守るのか? と周囲の感情を逆なでする結果となってしまいます。

その後も、その人を要所、要所で登用するにつれ、周囲の気持ちはリーダーから離れ、リーダーとその部下は孤立することになります。一方で、その人の行動についての意見(クレーム)も耳に入るようになり、その意見を当人に伝えて、なんとか周囲との関係性を改善してもらおうとします。ところが、本人からこう説明されます。

実は〇〇ということがあって、その行動になった。自分が動かなかったら事態(周囲との関係)は悪化しただろう。

これに「なるほど、周囲がわかっていない」と思います。この部下は自分と同じ目線でよくわかっていると思い、誰がどんなことを言っているのかを伝えてしまいます。ときにはメールを転送してしまったりします。

これが事態をさらに悪化させます。その部下と注進してくれた部下との関係性は最悪になります。

自分と周囲の評価が逆だったら

自分の評価は極上。ただ周囲の評価は真逆。こんなときは、自分の目が曇っているのではないかと疑いましょう。

これまで私は多くの人のアセスメントに関わってきました。5000人は優に超えているでしょう。この点からすると「人を見る目」についてはプロとしてそれなりの実績があるといえると思います。

しかしながら、こと自分が絡むことになると一気に目が曇ります。そういうものです。私情は判断を誤らせます。過去に数回、ここで書いたような失敗をしたので、自分の評価と周囲の評価にギャップがある場合にはこう捉えています。

・その部下が自分にとって優秀なことは事実(ただし、それは自分に対してのみ)
・その部下が周囲とうまくやれていない(よくない影響をもたらしている)ことも事実

このため、こう心がけています。

・その部下の周囲への影響を最小にするアサインとすべし
・それができない場合にはその部下を自分から離すべし

周囲のレベルとその部下のレベルに差があり、その部下の言っていること、やっていることのほうが自分の期待に応えているという場合であっても、その組織にそのレベルで動く準備がない場合に、無理にその部下に合わせようとすると、組織が機能不全になります。

何を食べるか、何の映画を観るか、どこに遊びに行くか……。物事をスパッと決められない人が多いようです。それがプライベートであれば笑い話で済むかもしれませんが、ビジネスとなると笑えません。

先日あるところでこんな話を聞きました。意思決定者がなかなか「決めない」ので困っているというのです。

彼は周囲からの提案に対して「NO」とは言わないそうです。しかし、ダメ出しだけはどんどんする。そこで再度検討して別の案を持って行くと、またNOとは言わず、ダメ出しをする。こんな感じで一向に決まらず部下たちが 困っているというわけです。

私は提案自体が悪いのではないかと思い、内容を吟味してみました。が、そんなことはないのです。

「いま決めなくてもいい」はない

上司の仕事は「わからないことを決めること」です。成功するかしないかは誰にもわかりません。部下からある程度の説明を聞いたら、自分の判断軸に照らして、「えいっ!」とひと思いに決めないといけません。

勤勉な上司の場合、自分の判断軸がないのに、下手に知識があるぶん、いろいろなオプションの検討を指示します。結果、ますます決められなくなるのです。

あなたが決められないのであれば、打開策は1つしかありません。

信頼を寄せる人に決めてもらうのです。その人に「これがいい」と言ってもらいましょう。あなたの上司でもいいでしょうし、外部のアドバイザーでもいいでしょう。

「最後は、子どもや妻が賛成するから決めた」なんていう経営者も少なくありません。どんな決め方であろうと、タイムリーに決めることが部下に対する「気くばり」となります。

ある企業に自分を高める努力を怠らない人がいました。誰よりも長く働き、熱心に課題に取り組む。その努力が認められ、30代にして役員に登用されました。

ところが彼をリーダーにした企画は、これまですべて頓挫しました。なぜなら、周りの人が動かないのです。「どうしたものか」と社長から相談を受け、この彼を分析してみました。

たとえば、会議の場で彼が意気揚々と発言していても、周囲はなぜか白けています。それでも彼は場を盛り上げようと一生懸命やっています。アイスブレーク、議論の可視化、KJ法……等々。多くのマネジメント本を読み、社外の研修に自費で出掛け、習得したスキルを実践していました。

「双方向のコミュニケーションを意識しています」。私とのインタビューでも、彼は優等生の回答をします。しかし、彼の周りに人は集まりません。いろいろ検討した結果導き出された、その原因は、彼が周囲の批判をすることにありました。

周囲を批判する人の問題点

彼の発言には、つねに他人へのネガティブな要素が含まれていました。そこに、「自分のほうが優れている」という意識が見え隠れするのです。こうしたタイプは、他人を蹴落としてでも上へ行こうとします。少なくとも、周囲の目にはそう映ってしまいます。

彼のように、何事も自分中心で、野心のある人と一緒に仕事をすると、周りの人はそのための「駒」にされてしまいます。

彼の自分を高めたいという意識は大いに結構です。伸び盛りの企業にとっては、むしろこういう人材は必要です。しかし、彼には周囲あっての自分、という意識が欠落しています。他者への気くばりがまったくありません。自分の利ばかり追求してはいけないのです。

私は彼を呼び出し、試しに、社内のほかの管理職の評価をしてもらいました。するとすべての人に対して良い点はわずかに5%、残りは問題点の指摘に終始しました。しかも大半は、「自分と比較して」の話。聞いていて気持ちがいいものではありませんでした。


一方で、彼自身のキャリアビジョンを聞くと、より大きな仕事をして社会を豊かにしたいと答え、その志はなかなか立派なものでした。

彼のなかには何かを成し遂げたいという思いが強過ぎて、足元が見えなくなっていたのです。周囲を動かすには、自分を捨てて奉仕する姿勢も必要です。

そこで彼にこうアドバイスしました。

「まずはあなたの志をみんなに感じてもらえるような存在になりましょう。いまは個人的な野心のほうが目立っています。この意味を考えておいてください」と。

志ある人には人が集まる。野心ある人からは人が離れる。リーダーとなるべき人は肝に銘じてほしいことです。

(柴田 励司 : 株式会社IndigoBlue代表取締役)