「苦しかったのは収入が少ないのに娘に養育費を月2万5000円払わないといけなかったことです」と話す原口さん(編集部撮影)

アラフォーというと仕事が波に乗ってきたり、育児に追われていたりしている世代だ。現在、夫婦の3組に1組が離婚すると言われているが、アラフォーで離婚をした人はその後どのような生活を送っているのだろうか。今回は40歳で離婚をした女性に話を聞いた。

専業主婦という名のひきこもりだった

約束をしていた喫茶店に現れた原口麻衣さん(仮名、53歳)は素朴な印象で穏やかな口調の女性だった。原口さんは東日本大震災のあった2011年に40歳で離婚している。23歳で結婚後、公務員として働いていたがメンタルの調子を崩して休職と転職を繰り返し、39歳でリーマンショックにより離職した後は家庭に入り専業主婦となった。

「でも、専業主婦という名のひきこもりだったんです。家事がうまくできなくて元夫にいつも怒鳴られていました。そして、うつ状態に苦しみつつ、いつ怒鳴られるのかビクビクしていました。そんな様子に愛想をつかした元夫から離婚を切り出され、シングルマザーになりました」

離婚後は当時中学生になったばかりの娘との生活。両親とは折り合いが悪かったので親には頼れなかった。しかしうつの状態が悪く、ゴミ屋敷状態の自宅にひきこもる様子を見かねた娘から「父親と生活がしたい」と言われ、原口さんは娘の住む家から追い出された。親権は元夫へ移り、娘は元夫と生活を始めた。

「通院していた精神科ではうつ病と言われていましたが、うつ病がなかなか良くならず、新薬を試したら治るのではないかと期待を抱いて治験のできるクリニックに変えました。ところが、治験薬の副作用でだるくて寝たきりの状態になってしまい、それを見かねた母が心配してきたんです。それをきっかけに障害者手帳を取得しました。

さらに母に問いただしてみると、すでに40年前に発達障害の診断が下りていたと言うんです。当時は発達障害という言葉はなかったので、微細な脳の損傷のある子どもとされていたようです。もっと早く教えてくれていたらまた違った選択ができたのにと思いました。でも、思い切って治験でクリニックを変えたことはとても良かったです。あのまま、前の病院にいたら、今でもうつでずっと苦しんでいたと思います」

発達障害の当事者会に参加するように

原口さんは発達障害のせいで家事がうまくできず部屋がゴミ屋敷と化していたのだ。それから発達障害の当事者会に参加するようになり、情報を得て障害年金の受給や、障害があることから格安でヘルパーを利用できることを知った。週に何度かヘルパーに来てもらうようになり、ゴミ屋敷だった部屋はみるみる片付いていった。下町で一人暮らししている部屋は家賃が安く、元訪問看護師の大家さんも原口さんに良くしてくれた。

「苦しかったのは収入が少ないのに娘に養育費を月2万5000円払わないといけなかったことです。休職中の傷病手当金や預貯金を切り崩してなんとか養育費を捻出していました。養育費は払っていましたが、最初の頃は娘に会えていませんでした。娘に会えるようになったのはその数年後です。

どうやら娘は中学校を不登校だったようです。高校生になった娘は漫画やアニメなどが好きで、年2回行われるコミックマーケットで買ってきてほしいものを頼まれたのがきっかけにまた娘と会うようになって、コミケに足を運びました。私も恩返しのつもりでコミケのスタッフをやりました。不登校だった娘ですが、有名大学に通って就職も果たし、とても優秀です」

経済的に苦しいのなら生活保護を受ける手もあるのではないかという質問には、実は離婚時に財産分与で手に入れた預貯金が1000万ほどあるため生活保護は受けられず、その預貯金の一部を資産運用しているという。

「興味本位で銀行に行ったらものすごいVIP席に通されて、資産運用の説明を受けました。話を聞いているだけでとても勉強になって、まずは100万円から資産運用を始めたら少しずつ増えていったんです」

マイノリティの当事者会を主催

また、原口さんは自分が発達障害というマイノリティだと自覚したことで、自身の他のマイノリティに関しても向き合うようになり、LGBTQのイベントであるレインボーブライドのスタッフも引き受けるようになった。ずっとひきこもり状態だった原口さんが、大家さんや福祉を通して社会とつながれるようになったのだ。現在は障害年金を受給しつつ、ひきこもりの家族を支援する団体でバイトをしたり、障害者の当事者研究をしている大学でデータ入力業務をたまにしたり、収入が少なくて住民税が非課税なので、非課税世帯に配布される物資や給付金なども活用して生活をしている。

「大家さんが友人を招いて楽しそうにしているのを真似して、私も部屋に友人を招いてご飯を一緒に食べるようになりました。家事は苦手なので、料理は友人が持ち寄ってくれます。また、発達障害でもLGBTQの方でもどなたでも参加できる当事者会を主催して、そこでもいろんなマイノリティの方と交流しています」

ちなみに今は、再婚願望はないという。いまだに体調が良くない日があり、フルタイムでは働けず、非課税世帯をキープしたいという。

一度はどん底まで落ちた原口さんだが、今は多くの理解ある人たちに支えられて生きている。知的好奇心も高い彼女は今後も新しい何かを見つけて充実した生活を送っていくのかもしれない。

本連載ではアラフォー世代で離婚された人が離婚後にどのような変化があり、どんな生活を送っているかの体験談を募集しております。取材の申し込みは以下(https://form.toyokeizai.net/enquete/tko2210b/)よりお願いいたします。


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(姫野 桂 : フリーライター)