すべての産業分野で人手不足が深刻化している。その数は政府推計で34万人。どう補うのか。

『週刊東洋経済』12月2日号の第1特集は「外国人材が来ない!」。経済大国日本には発展途上国の若い労働者がいくらでもやってくる――そんな時代は終わりつつある。

[PROFILE]
Aさん 建設関連会社を経営する日系ブラジル人。来日26年の永住者
Bさん 建設関連業勤務の日系ブラジル人。来日34年、配偶者は日本人
Cさん 建設業で働いた経験がある中古車販売業経営者。群馬県太田市のブラジル人コミュニティーで育つ
Dさん 技能実習生を雇う鹿児島県の建設会社経営者
Eさん 技能実習生を統括する、ハウスメーカーの現場監督


──人手不足が叫ばれる建設業界では外国人労働者が増えていると聞きます。

A 私が経営している会社の従業員は7割以上が外国籍です。ブラジルだけでなく、フィリピン、ペルーの出身者もいる。最近はベトナム出身の就職希望者もいますが社員採用には至っていない。

採用するときは出入国在留管理庁の情報と照らし合わせて、不法滞在者を雇わないように気をつけています。

今はどの現場に行っても外国人らしき労働者を必ず見かける。どこも人手不足だから、探せば仕事はいくらでもある状態だね。

稼げる金額は大きく変わった

B 確かに仕事は今でもあるんだけど、俺が来日した30年くらい前に比べると稼げる金額は大きく変わった。昔は月30万円稼いで20万円を送金しても、残りの10万円で十分暮らしていけた。

今は家賃も上がったし、物価も高くて食費やガソリン代もバカにならない。前は自動販売機のジュースも100円だったし、ガソリンも1リットル80円台。今は1.5倍はするでしょ。でも給料は変わってないんだから、手元に残るお金は減るよね。

E うちでは7年ほど前から外国人技能実習生の採用を始めた。実習生は会社全体で50人くらい。ほとんどがベトナム人だ。私は現場監督として、実習生を束ねている。

建設業界は大工の高齢化が進んでいて、現場ではつねに大工の取り合いになっている。建設は棟梁や先輩から怒鳴られて育つという世界で、若い人がなかなか来ない。

ベトナム人のメンバーは20〜30代前半で体力がある。人手が足りない現場に行ってもらうと、重い物の運搬作業や単純作業も難なくやってくれる。

彼らは会社が借り上げたアパートに住んでいる。住宅費も電気、ガス代なども会社負担だ。

給与は最低賃金時給で、手取りは月20万円を割るが、その半分以上は自国の家族へ仕送りをしている。そのうえ送り出し機関などに借金をしているので、1〜2年目はその返済もしなければならない。

日本は物価も高いし生活は厳しそうで、かなり節約して暮らしている。彼らは金を稼げると思って来ているから残業をしたがる。ノー残業と言われると困るようだ。

B そうそう。今は残業ができない。朝8時から真夜中まで休まず働けた時期も昔はあった。そのときは月60万円稼いで50万円を仕送りしていたよ。時間外労働は月120時間くらいだったかなあ。

昔は母国に会社をつくれた

──知人が今「日本で働きたい」と言ったら来日を勧めますか。

A 何の目的で日本に来たいのかと聞くでしょうね。遊ぶ目的なのか、それとも遊ばずに仕事に集中できるのか。昔ほど稼げないという現実を知る必要がありますね。

B 日本から送った資金を元手にして息子はブラジルでガラス加工会社を設立して経営者になりました。俺の誇りですよ。

でも、今は時間外労働をさせてくれないから、そこまでは絶対に稼げない。ブラジルの物価も上がっているしね。それでも日本に来たいならば、それは個人の自由だよね。

C 物価上昇以外にも変化がある。外国人にとって、昔は金の使い道が今ほどなかった。中古車の買い方も知らないから、移動はいつも自転車でした。iPhoneもないし、インターネットもない。

今はいろいろな文化が日本にある。各国の食材を売っているスーパーもあるし、外国人が集まるディスコもできた。暮らしやすくなった分、散財したら金は貯まらないよ。

言葉の壁は大きい

──外国人と仕事をしていて、どんな苦労がありますか。

E やはり言葉の壁は大きいですね。

技能実習生は初歩の日本語を勉強しているだけ。スマホの翻訳機能を使って話している。ただ、難しい建築用語は翻訳が出てこない。ジェスチャーをしたり絵を描いたりして何とか伝えている。

病気になったときは、病院まで連れていって診療の付き添いをしています。彼らだけで行っても、医師から「日本語がわかる人を連れてきてください」と言われるので。

日本の習慣を覚えてもらうのが大変ですね。例えば、陽気に騒ぐなどして近隣から苦情が来たり、どこでも座ってしまったり。何かあったらすぐに注意をしています。

D 私の会社は道路建設など公共工事の請負をメインに受注している。汚れるしきつい仕事なので、もともと日本人の希望者が少ない。

以前は地元の工業高校の子が来ていたが、今は募集を出しても半年以上応募が来ない。外国人に頼らざるをえない状況だ。


現在はベトナムからの技能実習生が1人いる。以前はもう1人いたが、逃げてしまった。昨年8月に来たばかりだったが、10月に「福岡の友達のところに遊びに行く」と言って出ていったきり戻ってこなかった。

どうやらベトナム人同士のネットワークがあり、給与がより高い福岡市内の会社から誘いがあったようだ。

ただ、本人から給料の不満は聞いていなかった。監理団体からもうちの会社の給料は平均以上だと聞いている。少ないながらもボーナスを出して昇給もさせている。

自分の子どもが外国に行ったらさぞ心細いだろうと思い、一緒に食事に行ったり、インスタントラーメンやおコメなど食料の差し入れもして、かわいがっていたつもりだった。だから、2カ月で出ていかれたのはショックだった。

C 建設業に限らず、外国人材のリクルート方法は変化してきている。

昔は退社時間になると、工場や建設現場にリクルーターがやってきて、「おまえは今いくらで働いているんだ? もっといい時給を出すからうちに来ないか?」と生々しい交渉をしていた。スマホが普及したので今はSNSで求人しているところが多いね。もちろん外国人同士のネットワークで情報交換もしている。

露骨な差別を受けて悔しかった

──技能実習制度が変わり、転職の制限が緩和される可能性があります。外国人にも選ばれる職場をどうやったらつくれますか。

E 彼らは送り出し機関に借金をして日本に来ている。少しでも給料がいいところがあればひかれるのだろう。

ただ、転職制限がなくなったら地方に残る人がいなくなるのではないかと危惧している。公的機関が雇用に関わって、多額の借金をしない制度にしたほうがいいのではないか。

A 元請けからもらった仕事で栃木の工事現場に行くと、「外国人は現場に入れられない」といきなり言われた経験があります。あんな露骨な差別を受けたのは初めてで、悔しくて泣きましたよ。

大切なのは対話です。日本には優しい人がたくさんいる。外国の文化を学ぶ機会を行政が積極的につくっていけば、しだいに社会が変わっていくんじゃないですかね。

(聞き手:ライター 鈴木貫太郎、井艸恵美)
※個別取材を基に座談会形式に構成


(鈴木 貫太郎 : ジャーナリスト)
(井艸 恵美 : 東洋経済 記者)