10代前半の思春期にある子どもは、体の変化から心身の不調に陥りやすく、見守る親も手を焼きがち。起立性調節障害などの子どもたちを栄養面から診てきた小児科医の今西康次さんは「特に女子は二次性徴が始まる頃からの数年間が、人生で一番エネルギーを多く必要とする時期。高栄養を意識していないと、簡単に栄養不足になってしまう」という――。

※本稿は、今西康次『朝、起きられない病』(光文社新書)の一部を再編集したものです。

写真=iStock.com/Hakase_
※写真はイメージです - 写真=iStock.com/Hakase_

■食生活から「初潮をきっかけにキレる」ように

初潮を迎えた頃から朝起きが苦手となり、キレやすくなったCさん・Dさん姉妹(小学5年生・小学3年生の女児)のケースです。

Cさんは、小学校2年生の時に当院を受診したことがありました。毎日登校できてはいるが、夜更かし気味で朝が苦手とのこと。強いかんしゃくもありました。当時の血液検査の結果、軽度のビタミンB不足と鉄不足、鉄利用低下が見られました(※図表1)。

高タンパク食とビタミンBサプリ、鉄剤「インクレミンシロップ」を始めたところ、みるみるよくなり、1カ月後にはスムーズに起床できるようになりました。同時にかんしゃくもなくなって勉強もよくできるようになったということで、それ以降はフォロー外来には来なくなっていました。

ところが、約3年後の5年生の1月、「朝起きが苦手になってきた」とのことで再受診してきたのです。高学年になって児童会にも入り、活動的な日々を送っていたのですが、徐々に朝起きが苦手となり、キレやすくなってきたとのこと。以前のように調子よく登校できないことでイライラしている様子でした。

きっかけとして考えられたのは、5年生の夏に初潮を迎えたことでした。

栄養評価では、3年前に比べて明らかなタンパク質不足、そして、鉄不足も進行していました。今回は特に、タンパク質不足が一番の原因と見てとれました。

そこで、前回同様に高タンパク食を意識してもらい、ビタミンBや鉄剤を再開することにしました。ところが、今回はビタミンBの服用を本人が嫌がったため、代わりに豚肉などビタミンBを多く含む食品をたくさん食べるように努力したそうです。

■入れ替わりに妹が朝起きられなくなり、かんしゃくが爆発

前回同様、2カ月ほどで朝はすっきり起床できるように改善し、無事に春休みを迎えることができて、私もお母さんもホッとしていたのですが……なんと今度は、3年生の妹さんであるDさんが、同じ症状で受診してきたのです。

もともとDさんは、家族で一番の早起きだったのですが、3年生の2月頃から朝起きることが苦手になり、かんしゃくが強くなったとのことです。

栄養評価をしてみたところ、姉よりも重症のタンパク質不足、鉄不足が確認できました。家族は同じ食事内容になりやすいため、姉妹そろってタンパク質不足、鉄不足に陥ったということです。聞けば、お母さんにも、もともと貧血があったようです。貧血の母が作る食事は、やはり鉄不足になりやすくなります。母が貧血なのは、鉄の少ない食事を食べてきたからです。貧血の母親のもとで、子どもも貧血になってしまう……というケースはとても多くあります。

■鉄不足とタンパク質が不足して、朝起きづらくなることも

血液検査の結果から、姉妹の栄養状態を見てみましょう。

出典=『朝、起きられない病』(光文社新書)

タンパク質

タンパク質指標となるBUNを見比べてみましょう。BUN(尿素窒素)は18〜20あたりが目標値となるため、姉のCさんの2年生の時の値は17と、まずまず良好です。ところが、調子が悪くなった5年生では11.8に低下しており、タンパク質摂取不足が明らかになっています。

一方、妹のDさんのBUNは3年生の時点で9.1と、非常に低い値を示し、姉よりも重症の栄養失調の状態であることが分かります。

BUNは通常は腎機能や脱水傾向を調べるための指標で、一般的な基準値は幅が広いのですが、栄養の視点からは基準が異なります。

写真=iStock.com/Daniel Megias
※写真はイメージです - 写真=iStock.com/Daniel Megias

■ビタミンB不足はメンタルと集中力の低下につながる

ビタミンB

ビタミンBの目安となるGOT(グルタミン酸オキサロ酢酸トランスアミナーゼ)は、「20以上」であることと「GOT≒GPT(グルタミン酸ピルビン酸トランスアミナーゼ)」であることを目標とします。Cさんが2年生の時はGPTが14とやや低く、調子が悪くなった5年生のときはどちらも値が低くなっています。タンパク質不足とビタミンB不足はたいてい一緒に起こります。

妹のDさんは、BUNが姉のCさんより低値であったため、タンパク質不足は姉よりも強いと考えられました。そこから、ビタミンBも同様に低いと推定されましたが、GOTやGPTは姉よりも高めでした。この数値だけを見ると、ビタミンB不足は一見、軽いようにも思われます。しかし、「タンパク質摂取が少ないのにビタミンBだけ充足している」ということは考えにくいため、私はビタミンBも不足していると考えて対処すべきだと考えました。

検査数値の読み方は、基準との単なる対比ではなく、横断的に考えて合理的な説明がつくように解釈することが大切だと考えます。

ビタミンBは細胞がエネルギーを使う際に必要なため、不足していると細胞はエネルギー不足に陥ります。全身の細胞のエネルギー不足ですので、身体的にも頭脳・メンタル面でも、その人本来の能力を発揮することができなくなります。疲れやすかったり、頭痛や腹痛、腰痛といった痛みとして現れることがありますし、集中力が落ちることにもなります。

そのため、姉妹はそろって朝起きて学校へ行くエネルギーを失い、かんしゃくを起こすことになったと推測できます。

■思春期の子には善玉コレステロールをたっぷりと摂らせたい

脂質

HDL-Cは、俗称「善玉コレステロール」といわれ、オメガ3系脂質を多く摂取することで高くなります。オメガ3系脂質は人間の脳や神経組織の発育を促進し、その機能を高めることから、記憶力のアップにつながるなど「頭がよくなる」といわれています。

ですから、発達段階の子どもの場合には、70〜80くらいは欲しいところです。ところが、姉妹の数値を見ると、Cさんは2年生で60、5年生で57。Dさんは3年生で58と、やや低値を示しています。HDL-Cの不足は、朝起きやかんしゃくと直接の関係はないと思いますが、海外の研究では注意欠陥・多動性障害(ADHD)への治療効果が報告されているため、やはり十分量を摂りたいところです。DHAやEPA(共に体内で合成できない不飽和脂肪酸)はサバやサンマなどの青魚、豚肉や卵に多く含まれています。

炭水化物

TG(中性脂肪)が、炭水化物摂取量の目安になります。摂りすぎると数値が高くなりますが、当院で推奨する目標値は2桁以内。炭水化物(糖質)摂取が多くなると、眠くなったり、逆にイライラしたりします。

Cさんは2年生のときは3桁とやや高値でしたが、5年生で70と目標値内に。一方、Dさんは3桁を超えていたため、摂取を控えてもらうよう指導しました。ごはんやパンなどの主食を減らし、肉や魚をその分多く摂ることで、必然的に減らせるようになるでしょう。

■不足しがちな鉄と亜鉛も摂れているかをチェックする

鉄の状態は、フェリチン値が参考になります。先にお伝えした通り、血液内のヘモグロビンよりも先に、肝臓や筋肉細胞内に貯蔵されたフェリチンが減っていくためです。

一般的な基準値は「5〜179」ですが、私はフェリチン1桁はいくらなんでも低すぎると考えています。当院では最低でも50、できれば100ほしいと患者さんたちにはお伝えしています。

Cさんのフェリチンは2年生、3年生ともに20〜30程度と、不足している状態でした。さらに重症だったのがDさんで、13.9と非常に低値だったのです。また、鉄の利用状態の目安となるTIBC(総鉄結合能)、UIBC(不飽和鉄結合能)については、姉妹共にTIBCはまずまずで、UIBCがやや高め。やはり、鉄不足や栄養不足を示していると推測できました。

写真=iStock.com/pepifoto
※写真はイメージです - 写真=iStock.com/pepifoto

亜鉛

亜鉛はあまり注目されないミネラル成分ですが、子どもの発達障害の分野では、亜鉛不足が最近注目されています。Cさんの血液中の亜鉛も74と低値でしたが、70台ならば、食事改善で十分回復させることができる数値です。そのため、亜鉛が豊富な食材である牡蠣、レバー、赤身肉、小麦胚芽、卵などをしっかり摂るように指導しました。60台まで低くなった時には、亜鉛製剤の内服が必要になります。

■女児は初潮をきっかけとした不調に注意

今西康次『朝、起きられない病』(光文社新書)

Cさんは、2年生の頃の起立性調節障害とかんしゃくについては、質的栄養失調が主な原因でしたが、軽度だったために早期に改善しています。しかし、5年生で生理が始まったのをきっかけに、徐々に同様の栄養不足が悪化し始めました。二次性徴が始まったために、体が必要とする栄養が急に増していくことで、食事からの栄養補給が間に合わなくなってきたことを意味します。経血で失われるのは鉄だけではなく、タンパク質も同様です。

特に、女子は二次性徴が始まる頃からの数年間が、人生で一番エネルギーを多く必要とする時期です。高栄養を意識していないと、容易に栄養不足になってしまいます。

姉が通った道は、同じ食事をしている妹も同様に歩む可能性は高いといえます。実際に、妹のDさんも、小学校低学年で質的栄養失調に陥りました。このまま初潮を迎えれば、また姉と同様の不調が高確率で起こるでしょう。本人と親御さんにそのことについてお伝えしつつ、今後も栄養状態をフォローしていく予定です。

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今西 康次(いまにし・やすつぐ)
小児科医
1961年京都府生まれ。名古屋大学理学部地球科学科卒業。外資系企業にエンジニアを12年間勤務した後、大分医科大学医学部医学科を卒業。中部徳洲会病院、聖路加国際病院小児科に勤め、南部徳洲会病院小児科部長を務めた後、沖縄市に「じねんこどもクリニック」を開業。著書に『ダイエット外来の減量ノート』(筑摩書房)がある。
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(小児科医 今西 康次)