2023年10月に施行された酒税法改正からの値下げで盛り上がるビールの市場。そのビールの味を左右する原材料のひとつが、ホップです。ただ、このホップについてはよく知らない人も多いでしょう。そこで、今回はホップの種類や生産方法、日本の主な産地、国内ビールメーカー各社の取り組み、最新トレンドなどを解説していきます。

↑ホップはアサ科カラハナソウ属の多年草で、ハーブの一種。殺菌効果があるため、日本ではのど飴などにも活用されています。また、ユニークな例では今秋マクドナルドが限定発売した「N.Y.バーガーズ」のバンズにも

 

香りや苦みを生み、腐敗から守るハーブがホップ

ホップの原産地は西アジアだとされますが、ヨーロッパに伝来したのは8世紀半ば。ただ、この時点では栽培だけだったようで、ビールに使用したという正確な記録は残っていません。

↑毬花と、それをむいた根本。黄色い粒状の樹脂が、ビールの苦味や香りの元になる成分を含む「ルプリン」です

 

ビールの誕生は紀元前数千年までさかのぼるといわれ、ホップの登場前からビールには、「グルート」と呼ばれる調合したハーブが香り付けに使われていました。ホップを使ったビールの記録として有名なのは、12世紀初頭の修道院における書物。少なくともこの時代には、ホップがビールに使われるようになっていたといえるでしょう。

↑より有名な文献が、1516年にドイツで制定された『ビール純粋令』。「ビールは、麦芽、ホップ、水、酵母のみを原料とする」という法律で、日本でこの純粋令に則った代表的な銘柄がヱビスビールです

ホップを使う理由は、果実や香草を思わせる芳香や爽快な苦みをまとわせるため。また、泡立ちを良くしたり、菌の繁殖を抑える防腐剤としても重宝されます。

 

後者の“腐敗を防ぐ”目的に起因して生まれた有名なビアスタイルが、苦みの強い「IPA(インディア・ペールエール)」。18世紀にイギリスからインドまでペールエールを運ぶ際、腐らないようホップを大量に使って仕込んだことから生まれたとか。

↑イギリスで生まれた進化型IPAの代表格が、ブリュードッグ「パンクIPA」。日本で紹介された当初は、一般的なIPAで使うホップの40倍以上の量を使うことが謳い文句でした

 

代表的なホップ品種や日本の取り組みを解説

個性的な香りや苦みを放つIPAは、やがてアメリカで大ブレイク。これが近年のクラフトビールムーブメントのきっかけになり、アメリカを中心に世界中でホップの品種開発も盛んになります。

↑米国NY発のカリスマ、ブルックリンブルワリーのIPAといえば「ブルックリンディフェンダーIPA」。ホップには「Cascade(カスケード)」や「Simcoe(シムコー)」「Amarillo(アマリロ)」などが使われています

そのため、クラフトビール界におけるスターホップもアメリカ産が多め。特に有名なのは、「3C」と呼ばれる「Cascade」「Centennial(センテニアル)」「Columbus(コロンブス)」(あるいは「Chinook・チヌーク)」と頭文字に「C」が付く3品種。グレープフルーツを思わせる柑橘系のアロマとビターな刺激が特徴です。

 

一方で、日本におけるホップ生産は後継者不足などによって栽培面積や収穫量が減少しています(2008年→2022年の14年間でおよそ半数以下に)。ただ、ビールメーカーのCSV活動や、近年のクラフトビール人気にともない、造り手が地元産にこだわった「テロワール型ホップ」(筆者による造語)の需要増によって巻き返しがはかられている側面も。

↑キリンビールは2007年から、ホップ名産地である岩手県遠野市を支援。生産者をはじめ、国産ホップを盛り上げる取り組みに力を入れています。加えて、遠野産ホップを使った「一番搾り とれたてホップ生ビール」は2004年から毎年期間限定で販売

また、近年はフレッシュホップ(乾燥させ固めたペレットホップではなく、毬花<きゅうか・まりばな>を生もしくは冷凍させたホップ)を使ったビール造りが年々盛んになっているうえ、「フレッシュホップフェスト」という祭典も開催されています。

↑「フレッシュホップフェスト 2019」のキックオフイベントにて。ホップは8月末〜9月が収穫期となるため、イベントはそこから仕込みなどを経て例年秋に開催されます

同イベントは2023年から「クラフトビール ジャパンホップフェスト」に改称され、メインイベントは代官山の「スプリングバレーブルワリー東京」で10月21日、22日に開催されます。

↑「クラフトビール ジャパンホップフェスト 2023」は9月1日〜11月30日で開催しており、イベントは代官山で開催(写真は提供されるビールと料理の一例)

 

世界に存在するホップは300品種超

なお、世界中のホップ品種は300を超えるといわれており、日本原産のホップも存在します。伝統的な品種には「信州早生(しんしゅうわせ)」や「かいこがね(甲斐黄金)」があり、遠野では「信州早生」から派生した2種を組み合わせた「IBUKI」や、キリンビールOBのホップ博士・村上敦司さんが育種した「MURAKAMI SEVEN」が多く作られています。そして、世界的にも有名で個性的な日本原産ホップといえば「ソラチエース」。

↑前述のブルックリンブルワリーが惚れ込み商品化した「ブルックリンソラチエース」と、「ソラチエース」の生みの親である、サッポロビールの「SORACHI 1984」

 

日本産ホップに共通する香りの特性は、上品でどこかオリエンタルなニュアンスをもっていること。米国産を代表するホップのような派手さは控えつつも、いぶし銀的な香りを放ち、例えば「MURAKAMI SEVEN」には温州みかんのように和やかな柑橘香が、「ソラチエース」には、ひのきやレモングラスを思わせる個性があります。

 

トレンドは「日本産」や「フレッシュホップ」だが……

ビール大手メーカーでは前述したキリンビールとサッポロビールのほか、アサヒビール、サントリー、オリオンビールもホップ生産や支援を行っており、規模の大小はあるものの北海道から沖縄まで栽培自体は行われています。ホップ栽培は雨の少ない冷涼な気候が適しているといわれますが、沖縄での初収穫は2022年のことであり、多方面での可能性が期待されているといえるでしょう。

 

また、東京では武蔵野市や三鷹市、神奈川では横浜、川崎、湘南など首都圏の都市部でも、小規模ながらホップ栽培は拡大中。これらは主に、マイクロクラフトブルワリーの「テロワール型ホップ」にかける情熱から取り組まれているものですが、ホップは身近な存在になってきているのです。

↑ビアジャーナリスト協会代表であり、現在は京都府与謝野町に移住しホップ栽培にも尽力する藤原ヒロユキさん。西日本でテロワール型ホップ文化を牽引するひとりです

 

日本におけるクラフトブルワリーは年々増えており、その数はこの10年で約3.5倍の700か所以上に。付随してホップ栽培の熱も高まっており、「クラフトビール ジャパンホップフェスト」のイベントにおいても、参加ブルワリーは初回(2015年に開催された「第0回フレッシュホップフェスト」)の12ブルワリーから、2023年は20ブルワリーに増えています。

↑「クラフトビール ジャパンホップフェスト 2023」の代官山会場で提供されるビール一例。ブルワリーもビアスタイルも様々です

 

このように、ホップの主要なトレンドは「日本産」や「フレッシュホップ」であるといえるでしょう。とはいえ、まだまだ国産ホップの未来が明るいとは言い切れません。飲み手である私たちができることのひとつは、日本のホップを知って愛してビールを飲んだり、生産者を応援したりすることだと思います。

↑こちらは2022年版の「一番搾り とれたてホップ生ビール」。2023年版は11月7日から期間限定発売されます

 

何はともあれ、フレッシュホップを使ったビールはいまが旬! 缶ビール以外にも、瓶やクラフトビアバーにおける樽生で味わえる場合もあるので、ぜひこの機会にチェックしてみてください。

 

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