体操ニッポン、7年ぶりの団体“金”へ!ゆかスペシャリスト南一輝「普通の選手だったらやろうと思わない」大技に挑戦

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ベルギー・アントワープで開催中の「世界体操2023」。

男子体操ニッポンは、10月3日(火)の団体決勝で7年ぶりの王座奪還に挑む。

テレビ朝日のスポーツ番組『GET SPORTS』では、「体操ニッポン 団体金メダルへの鍵」を特集した。

◆悲願の団体金メダルの鍵は“前半”

今回の世界体操でエースとしてチームを牽引するのは、絶対王者・橋本大輝。

東京オリンピックでは最年少となる19歳で個人総合と種目別鉄棒の2冠を達成。翌年の世界体操でも頂点に立ち、内村航平以来2つの大会で金メダルを獲得する快挙を成し遂げた。

橋本は今大会における団体戦の役割を次のように表現する。

橋本:「体操ニッポンのブースターです。団体戦では多くの種目を任されると思うので、間違いなく高得点を取ってチームに勢いをつけられますし、みんなをさらに盛り上げられる」

個人より団体戦を意識した理由について、「僕は団体の金メダルを持っていないから」と話した橋本。

団体金メダルといえば、エース・内村航平を中心に頂点に輝いたリオオリンピックが記憶に新しいが、それ以降の7年間、日本は東京オリンピックや世界体操などでことごとく逃している。

今度こそ悲願の団体金メダルへ。水鳥寿思監督がその鍵を明かした。

水鳥監督:「前半の大切さ。ゆかのその入り方も大事だと思うし、あん馬は全種目の中で一番失敗が出やすい種目。つり輪に関しては、とにかく中国との点差が一番開いてしまうところなので、すごく大事な前半だと思う」

そもそも団体は全6種目で3人が演技を行い、合計得点で順位を決める。予選を2位以上で通過すれば、決勝の前半3種目は「ゆか」「あん馬」「つり輪」。勝利の鍵は、この3つでいかに波に乗れるかだ。

実はこの前半種目には“苦い記憶”がある。

2022年の世界体操。日本は1種目・得意のゆかで、ライバルを大きく引き離すことができず、続くあん馬では立て続けに落下。さらに、つり輪でも着地に乱れが出るなど演技がまとまらず、前半3種目を終え5位。1位の中国に大きく離され、最後まで挽回できなかった。

◆世界で1人だけの武器を持つスペシャリスト

そこで今回期待されているのが、ゆかのスペシャリスト・南一輝だ。

南:「強い日本の中で、種目別に絞って代表に入れたことは誇りに思います。自分がまずはゆかでしっかり着地を最後まで6個まとめて決めて、いい流れをチームに引き込みたい」

全日本種目別選手権で、白井健三以来となる“ゆか5連覇”を達成し、代表入りを果たした南。今年3月にはH難度の大技を成功させたことで、自身の名前「ミナミ」を技名に刻んだ。

高校までは無名の選手だったというが、いかにして日本代表にまでのし上がったのだろうか。指導する仙台大学の鈴木良太監督は、次のように南を評価している。

鈴木監督:「脚力とひねりの感覚。そのへんがほかの選手にない部分だと思います」

脚力とひねり。なかでも体をひねる空中感覚は、高校時代から優れていたという。

その秘密は、トランポリンでの練習。日頃からトランポリンで新しい技を試し、その感覚を培ってきた。

南:「トランポリンでいっぱい練習して、いろんな技を挑戦することによって、技の幅が広がってくるので空中感覚が付いてくる」

そしてもうひとつの武器が「脚力」。そのすごさを象徴する出来事がある。

なんと南の脚力があまりにも強いため、練習場のゆかの下に入っているスプリングが壊れてしまったのだ。

鈴木監督:「ここまでひどく破損したのは南が来てからです。床だけを3時間びっちりやりますので。人の10倍以上を1日やるんじゃないですかね」

この並外れた脚力がついたのも、圧倒的な練習量の賜物。それを表すように、今回代表に選ばれた萱和磨と比較しても、脚は一回り太い。

南:「脚力があることによって人よりも高く跳べるし、空中感覚があることによって空中で動かせるとういう2つの武器がある。空中で余裕もあるし、空中感覚があるからよりいろんな難しいことができる」

これらの武器を生かし、今回の世界体操では世界でただ1人の大技に挑戦する。

抱え込みの姿勢で2回宙返りをする間に2回半ひねる大技「ルドルフハーフ」。さらに着地後、前方伸身1回ひねりに繋げる。脚力と空中感覚がずば抜けている南だからこそなしえる技だ。

この連続技により加点されるため、高得点が狙える。しかも、これを大事な演技冒頭で行う。

南:「まず普通の選手だったらやろうと思わないというか、チャレンジもしない大技。スペシャリストとしてのプライドだったり武器になるので使っていきたい」

◆トップバッターは“失敗しない男”

そして鍵となる前半で期待がかかるもう1人の選手が、最年長の萱和磨。東京オリンピックや世界体操でメダルを獲得するなど、あん馬を得意としている。

萱:「あん馬にかんしては、団体決勝で絶対に落ちてはいけない種目だと自分でも思っているので、どれだけ練習してもいいくらい。そこで乗り切るかどうかで戦いや日本チームの雰囲気がかなり変わってくるので、絶対に繋ぐと思っています」

今年にかけ、演技構成をイチから見直し、より安定感のある演技を追求してきた。

その安定感を買われ、これまで多くの団体戦で託されてきたのが、切込隊長ともいえるトップバッター。今回も前半3種目でトップバッターを務める可能性が高い。

萱:「トップバッターというのは、絶対にミスができない。そこでバトンを落としてしまうと、2番目3番目の人にとてもやりづらい雰囲気で回してしまうので、1番目は死んでも繋ぐ」

安定感に加え、萱がトップバッターに向いている理由がある。

水鳥監督:「1番の選手は、ウォーミングアップしたら一番早く演技しなきゃいけない。アップをほとんどせずに準備しなきゃいけないので、1番の選手は負荷が大きい。萱選手はそういった経験値が非常に高い」

さらに、チームメイトからはこんなエピソードも。

南:「めっちゃきっちりしている」

橋本:「タイムスケジュールがあるんです。試合のときもここのタイミングでトイレ行くって決めるんですよ。ちゃんと自分の中で計画があって、それをやるんですよ。その代表例がトイレなんですよね。トイレからあん馬まで何分何秒かかるっていうのを測っていました(笑)」

実際に東京オリンピックでは、ストップウォッチを片手に移動時間を確認していた。この用意周到さがあるからこそ、ウォーミングアップの時間がほかの選手より短いトップバッターに向いているのだ。

萱:「任された種目、どんなオーダーでも関係なく決めきること。失敗しないで次の人にバトンを繋ぐこと。これがやっぱり自分のできること。チームのためにまず身を粉にして演技をしたいなと思います」

それぞれの強みを生かし、頂点をかけた戦いへ挑む体操ニッポン。世界体操で悲願の団体金メダルへ――。