サッカー日本代表 9月シリーズプレビュー対談 前編

後編「三笘薫と伊東純也が爆発!? ドイツ戦の注目ポイント」>>

サッカー日本代表のドイツ戦(9月9日)とトルコ戦(9月12日)が行なわれる。カタールW杯以降、少しずつ変化を見せているチームだが、今回の注目ポイント、期待の選手は誰になるのか。ライターの西部謙司氏と清水英斗氏に語ってもらった。


サッカー日本代表は欧州でドイツ戦&トルコ戦に臨む

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【サイドバックの選び方が気になる】

――今回のメンバーを見ての感想はいかがでしょうか?

清水 6月からあまりメンバーを変えなかった感じなので、6月の代表活動でかなり自信を深めたんだろうなと思います。

西部 今回はヨーロッパでやる試合なので、ヨーロッパのクラブに所属している選手が中心になることは容易に想像できるところでしたが、Jリーグからも選んでいるんですね。それは選ばないとやっぱり足りなかったのかなという。

――初招集の毎熊晟矢(セレッソ大阪)についてはいかがですか?

清水 V・ファーレン長崎でプロになって、それからFWからサイドバック(SB)にコンバートされた選手。やはり攻撃に絡んでいく時のセンスがあるので、そこを買われたんでしょう。

 ただ、SBの選手の選び方なんですが、ものすごく攻撃的でウイングハーフ寄りの選手と、センターバック(CB)寄りの選手と、両極端の選手しかいなくて、攻守両方行けるような正統派SBは菅原由勢(AZ)くらいではないかと。この選び方はちょっと気になるところだなと思っています。

西部 SBに関しては、オープン枠じゃないけどいろんな選手を毎回試しながらやっていて、もう、いざとなったら酒井宏樹(浦和レッズ)で行くという。

清水 長友佑都も最近FC東京で調子いいですよね。

 前回のW杯2次予選の時もこんな感じでした。いろんな選手、例えばFC東京(当時)の小川諒也(現シントトロイデン)や横浜F・マリノスの松原健らを呼んで、2次予選ではすごく輝いたんだけど、そこから先の戦いでは守備強度みたいなところで振り落とされていって。結局、酒井宏樹と長友佑都になっていった覚えがあります。

 そうしたところで毎熊や森下龍矢(名古屋グランパス)らが振り落とされないのか、というのが一つのポイントですよね。

西部 右サイドは多分、菅原がファーストチョイスということで決まっているんでしょう。だけど左がまだあんまりはっきりしていない。

清水 町田浩樹(ユニオン・サンジロワーズ)も呼んでいますね。彼も東京五輪の時に左SBで使われましたよね。

西部 まあ、冨安健洋(アーセナル)が左をできれば。あと伊藤洋輝(シュツットガルト)もいるので。

清水 だからCB寄りのSBは十分揃っているんですよね。右から左まで全部。それだけに攻撃的な選手を探している気がするんですけど、それにしてもすごい攻撃寄りだなって感じもあります。

西部 いずれにしても、SBに関してはまだ決定打がない感じなんじゃないかと。

清水 でも、毎熊には結構期待しています。C大阪の試合を見ていても一番怖い選手という感じがします。

【冨安健洋に注目。左サイドバックに入るか】

――今回の注目選手をまず1人挙げると、誰になるでしょう?

西部 冨安ですね。僕はセンターより左サイドに置くんじゃないかという気がします。どの選手もそうですが、特にケガが多いので、ちょっとセンターで使うよりはサイドで使ってみたい感じなのかなというのが一つ。あとは、カタールW杯同様、相手に押し込まれた時に、CBができると。でも、なるべくCBはやってほしくない。

清水 なるほど。CBがあんまり試合ごとに変わるのは、ちょっと困りますもんね。

西部 それに、5バックで守るのは、あまり発展性がないので。それじゃカタールW杯と同じで、ギリギリのところを運が良ければ勝てますみたいになってしまうから。

 まあ、左の前には三笘薫(ブライトン)がいるので、そんなに絶対上がらなきゃいけないわけでもないですね。

清水 冨安の左は可能性あるかもしれないですね。伊藤洋輝も左SBではまだ良かった印象がないというか。CBの時は良かったと思うんですけど。

 左サイドで、3月と6月に良かった印象のある選手はあんまりいなかったので、冨安は結構あるかなと思いますね。

西部 ただ、今回の2試合でどちらに出るかわかりませんが、森下がすごく良ければ結構決まっちゃうかもしれません。

 冨安は、アーセナルではSBの場合、右で出場するほうが多いけど、左でも使われていて、ただレギュラーという感じではない。それでも左足が使えるのと、あとは基本的な運動能力とかスピードがある。いわゆるウイングを兼任するようなSBではないですけど、そのユーティリティという特徴は使えると思います。まあ、やってほしくはないけど、簡単に3バック、5バックができるし。

清水 そのあたりの形を自由に変えられるから、今のトレンドのSBになるのかなと思います。それとチームがボールを持ち運ぶ時には、ボランチの位置にも入ってプレーできる。そうして押されるような展開から脱していければいいですよね。

【伊藤敦樹の選考には狙いがある】

――清水さんの注目選手は?

清水 1人は伊藤敦樹(浦和)ですね。残ったのが意外でした。6月の時は追加招集されて試合前日に呼ばれて、試合の流れもあって練習もせずにいきなり出場するという。森保ジャパンでも相当珍しい起用のされ方だったので。

 でも残ったということは、185cmのこういうタイプで、中盤の底ができる選手をやっぱり欲しているんだなと思いました。Jリーグではほかにもいい選手がいるじゃないですか。渡辺皓太(横浜FM)とか。結構いろんなチームにいるけど、やっぱり伊藤敦樹タイプが欲しいんだなと。

西部 そうだと思います。だから、4−1−4−1を本気でやるつもりがあるんだろうと。このタイプはやっぱり置きたいんだなというのはすごくわかります。

清水 日本人でなかなかいないタイプでもある。どちらかと言えば渡辺タイプのほうがやっぱり多い。渡辺はすごくいいプレーをしているので呼んでほしいなと思う選手なんですけど、ただ「対世界」の時にはこっちなんだなっていうのを感じる選出でしたね。

――伊藤敦樹と渡辺皓太の違いとは?

清水 やはり伊藤はサイズがあって、ヘディングでも競り合える。センターバックをカバーに回してヘディングできるのは大きいです。一番はそこで、体で守れるところじゃないでしょうか。

 カタールW杯の時は、遠藤航(リバプール)が大会前の脳震盪で出場が危ぶまれたこともありました。そういう意味でも、このポジションの選手は考えてるんじゃないかと。

西部 あとは前に出ていく力も魅力だと思います。それを生かしたいのもあるでしょう。

【古橋亨梧がいよいよ1トップで爆発するか】

――清水さん、2人目の注目選手は?

清水 僕は、古橋亨梧(セルティック)ですね。

 4−1−4−1をやった時に印象的だったのが、1トップにかかる負担が大迫勇也(神戸)がいた時よりも減ったことです。サイドの崩しをインサイドハーフとウイングとSBに任せるので、1トップはそんなにいろんなことしなくてもよくなって、大迫時代からちょっと変わったなと。いよいよ1トップが1トップらしく点を取る仕事に集中できるのかなって感じたんですよね。

 古橋のプレースタイルは、完全にそっち側だと思うんですよ。いよいよ古橋らしいストライカーの力が発揮できる形ができたのかなという期待があります。

 これまでの日本代表の1トップは、大迫がやっていたことを引っ張って、前線でボールが収まる選手をベースにしていたし、守備でも大迫はプレッシングのスイッチを入れたり、調整したりするのがすごい上手でした。

 いろんなことをやってきて求められるなかで、大迫みたいな「9.5番」タイプじゃなければはまらないような感じになってきていて、どうしても点を取るだけのストライカーは日本人の感性に合わないという感じで、あまり起用してもらえなかった。

 それがこのやり方(4−1−4−1)なら古橋の良さが出るんじゃないかと。そこまでサイドに流れなくてもいいし、中盤に下がらなくてもいいというところで、ゴール前の駆け引きに集中できそうだと期待できますね。タスクが減った1トップとしての古橋は面白いんじゃないかなと。

西部 やっぱり横から入ってくるボールに対してのマークの外し方、一瞬で外せる能力というのは、ずば抜けてると思います。

 日本代表の攻撃のアプローチはサイドアタック。伊東純也(スタッド・ランス)と三笘薫が基本です。そうすると中で仕留められる選手って絶対必要なので。そういう意味で古橋はすごく重要ですね。

【鎌田大地が機能するとチームはスーパーになる】

――西部さんの2人目の注目選手は誰でしょう?

西部 鎌田大地(ラツィオ)ですね。この選手を使えるかどうかは、結構面白いなと。それは監督の問題でもあり、本人の問題でもあるという感じで。

 4−1−4−1をやるんだったら、鎌田はインサイドハーフを務めることになりますよね。その適性があるか? あるようで、ないようでという感じ。あることはあるんだけど、ドンピシャではない。それをチームとしてどう生かしていくかは、ちょっと興味深いなと思っています。

清水 ドンピシャじゃないというのは、どのあたりですかね?

西部 4−1−4−1の中盤って、真ん中にアンカーがいて、インサイドハーフは右と左にいる。左右は均等じゃないですか。「均等」と見ると、この両インサイドハーフの役割は「8番」タイプ(※攻守に堅実なプレーでチームを機能させる汗かき役)なんですよね。遊んじゃダメなんです。

 だけど鎌田は「10番」タイプ(※技術とアイデアで攻撃を仕上げる役)なんです。言い方が少し面倒なんですが「10番っぽい8番」ということになる。クセのある選手だから、ここをどう生かすのか興味があります。フィジカルも強いし、すごく面白い選手なんだけど、一気に信用をなくすようなプレーもするので。

 鎌田がスーパーになったら、チームもスーパーになると思います。

清水 ボランチタイプをインサイドハーフに並べたらうまく機能するんでしょうけど、それで点を取るとなるとやはり物足りない。そこで鎌田の外からも決められるとか、スーパーなアシストをするプレーが欲しいと。

 難しいですよね。守田英正(スポルティング)タイプが2人並べばそれは安定するんだろうけど。

西部 機能性として求められるのは、実はそれなんですよ。だけどそういうチームってうまくいかないと思う。

 片方は、そういう8番タイプの仕事を嫌々やりながらも、すごいクセのある選手がいるほうが面白いでしょう。

清水 クセのある選手がいるから、もう1人はこっち側に寄せてプレーしなきゃいけないと、ある意味指針もできるから機能しやすいかもしれない。アシンメトリーのほうが。

西部 動き方はシンメトリーじゃないとダメです。でもクオリティ的に何か違うと。守田と旗手怜央(セルティック)を並べちゃうと、そこの8番の仕事は及第点なんだけど「あとは何が?」という感じになってしまうと思います。

 鎌田はそこの8番の仕事が時々抜けちゃうんだけど、それ以上のことをやる時がある。だからクセがあるかなと思うんですよね。

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