ラグビーW杯ライバル分析《前編》 初戦チリの弱点とは? イングランド戦で再び「奇跡」を起こすカギは?
ラグビーワールドカップ2023
日本代表と対戦する予選プールDライバル分析・前編
(チリ&イングランド)
ついに9月8日から、フランスで「楕円球の祭典」ラグビーワールドカップが幕を開ける。日本代表が今大会で掲げた目標は、2019年のベスト8を超える史上初の「ベスト4」以上だ。その夢を叶えるため、まず決勝トーナメントへと駒を進めるには、予選プールで「4勝0敗」もしくは「3勝1敗」で上位2位に入ることが必須である。
日本(世界ランキング14位)は予選プールD。チリ(同22位)、イングランド(同8位)、サモア(12位)、アルゼンチン(同6位)と激突する。対戦スケジュールは以下のとおり。
【第1戦】9月10日(日)20:00 日本vsチリ(トゥールーズ)
【第2戦】9月18日(月)4:00 日本vsイングランド(ニース)
【第3戦】9月29日(金)4:00 日本vsサモア(トゥールーズ)
【第4戦】10月8日(日)20:00 日本vsアルゼンチン(ナント)
※日本時間
日本代表は彼らと、どう戦うべきなのか──。まずは予選プール前半戦で戦う、チリとイングランドの2チームについて紹介したい。
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イングランドの主将ファレルの欠場は日本にとって大きい
9月10日に日本が迎えるワールドカップ初戦の相手は、今大会20チームのなかで唯一の初出場国・チリである。国鳥コンドルにちなんだエンブレムを持つチリは、愛称「ロス・コンドレス(コンドルズ)」と呼ばれている。
2018年にチリ代表チームは、ウルグアイ人として初めてプロ選手となったパブロ・レモイネ氏をHC(ヘッドコーチ)に迎えた。その後、本格的なチーム強化を進め、アメリカ大陸予選ではワールドカップの常連であるカナダやアメリカと並んで1勝1敗。得失点差でライバルを上回った結果、チリラグビー協会設立70周年の節目で初のワールドカップ出場権を手にした。
【チリを格下と思って戦ってはいけない】「ロス・コンドレス」でプレーする選手の大半は、スーパーラグビー・アメリカーズに参戦するチリ唯一のプロクラブ「セルクナム」に所属している。ただ、ほとんどの選手がほかの仕事で生計を立てるアマチュア選手であり、代表活動で報酬が支払われるようになったのも昨年からと、決して恵まれた環境とは言えない。
南米サッカーの強豪国であるチリはラグビーに集中する環境が少ないため、首都サンティアゴにあるイングリッシュスクールでラグビーを始めた選手も多いという。ワールドカップに出場する最終33人のスコッドのなかに4組も兄弟が選ばれているのも特徴のひとつだろう。
イングランドのクラブでプレーするキャプテンのFL/No.8マルティン・シグレンと、FL/No.8アルフォンソ&HOディエゴのエスコバル兄弟らを中心に、チリのFW陣はフィジカルが強い。決して手を抜かない愚直なチームスタイルで、セットプレーでも手を抜かずに奮闘する。
※ポジションの略称=HO(フッカー)、PR(プロップ)、LO(ロック)、FL(フランカー)、No.8(ナンバーエイト)、SH(スクラムハーフ)、SO(スタンドオフ)、CTB(センター)、WTB(ウイング)、FB(フルバック)
BK陣には、昨年のワールドラグビー・ベストトライ賞を獲得したSOロドリゴ・フェルナンデスと、アメリカ大陸予選で決勝のPG(ペナルティゴール)を決めた万能BKサンティアゴ・ビデラが中軸として存在する。
夏のテストマッチではナミビア代表に26-28と惜敗したものの、日に日に実力をつけているのは事実だ。トップチーム同士で対戦するのは初だが、アンダー世代では若きFL姫野和樹やSO松田力也のいたU20日本代表が2013年に対戦し、35-38と苦杯を舐めた経験もある。
また、2017年には福井翔大や長田智希もチリと対戦しており、その時は28-22で勝ったものの内容は接戦だった。前回ワールドカップの開幕戦で日本は、ロシア相手に後半途中までクロスゲームとなっただけに、決してチリを格下と思って戦わないだろう。
【エディー解任後のイングランドは下降線?】初出場のチリにとって、ワールドカップで失うものは何もない。レモイネHCは「チリのラグビー選手の人生を変えたい。チリという国が世界からリスペクトを受ければ、国内でラグビーを見る目も変えられるはずだ」と意気込んでいる。
対して日本は、初戦という緊張感もあるだろう。前半は競ったゲームになるのも想定内として考えるべきだ。まずはセットプレーで互角以上に戦い、プレッシャーを与えておきたい。そしてキックをうまく使いながら相手のFWを背走させて疲れさせれば、後半に大きなチャンスへとつながる。
日本の武器はフィットネスやスピードである。それらを駆使したアタックでトライを重ねていけば、おのずと後半に勝機が見えてくるだろう。理想は4トライ以上を挙げて、勝ち点5を得ておきたい。なぜならば、次の相手が優勝候補の強豪国だからだ。
チリ戦の1週間後、予選プール2戦目で対戦するのはラグビーの「母国」イングランド。2003年のオーストラリア大会で優勝し、北半球で唯一「ウェブ・エリス・カップ」を掲げたチームだ。この予選プールDにおいて、優勝経験のある唯一のチームでもある。
イングランド代表は2015年大会、自国開催ながら「予選プール敗退」という屈辱を味わった。そのリベンジを果たすべく、エディー・ジョーンズ前日本代表HCが外国人として初めて指揮官に就いた。
就任後はテストマッチ18連勝を達成し、さらに2019年大会ではオールブラックスを破って決勝に進出。最後は南アフリカに負けて2度目の優勝はならなかったが、見事な復活を遂げた。
しかし、その後は再び調子を落としてしまい、昨年末にジョーンズHCが解任。後釜には元イングランド代表でかつて日本代表のFWコーチも務めたスティーブ・ボーズウィックが新指揮官となった。
今年の欧州6カ国対抗(シックスネーションズ)では、アイルランド、スコットランド、フランスに負けて2勝3敗の4位。さらに夏季のテストマッチでもフィジーに初めて敗れるなど、いまいち調子は上がってこない。
【2015年「ブライトンの奇跡」再現なるか】それに加えて、イングランドはキャプテンのSOオーウェン・ファレルが8月12日のウェールズ戦でレッドカードを受けて、日本戦まで出場停止となった。イングランドには過去一度(対戦成績0勝10敗)も勝ったことはないが、日本がつけ入る隙はあるはずだ。
日本が2018年11月にアウェーで対戦した時は15-35と善戦したものの、2022年11月のテストマッチでは13-52の大敗を喫している。敗因はフィジカルやセットプレーで前半から後手を踏んだことだった。
日本が格上相手に勝つには、やはり接戦しかないだろう。相手が武器とする接点やセットプレーでどこまで勝負できるかが最大の焦点であり、日本は6月の浦安合宿から準備を進めてきた。
2015年大会で日本が南アフリカを下した「ブライトンの奇跡」のスコアは34-32だった。2019年大会でアイルランドとスコットランドに勝った試合はそれぞれ19-12、28-21と僅差だった。
やはり勝利のカギは、失点をいかに抑えることができるか──。イングランド戦でも「奇跡の再現」を狙いたい。また、もし負けたとしても、予選プールから勝ち上がるためには「7点差以内の敗戦」で勝ち点1を挙げることも必要となるだろう。
(後編「サモア&アルゼンチン」につづく)
◆ライバル分析・後編>>「サモアの穴は?」「アルゼンチンは残り20分で7点差が勝負」