スポルティーバJ1月間ベストイレブン

識者による独自選考のJリーグ月間ベストイレブン。8月は、スポーツライターの杉山茂樹氏が11人をセレクトした。酷暑のなか各チームを牽引する活躍をし、この先の終盤戦の注目になる選手は誰か。


8月のJ1ベストイレブン。酷暑のなか印象的な活躍を見せたのは誰だったか

FW/大迫勇也(神戸) 
FW/原大智(京都)、鈴木優磨(鹿島)、ホセ・カンテ(浦和) 
MF/渡邊凌磨(FC東京)、ダワン(G大阪) 
MF/ネタ・ラヴィ(G大阪) 
DF/森下龍矢(名古屋)、アレクサンダー・ショルツ(浦和)、犬飼智也(柏) 
GK/大迫敬介(広島)

【得点ランク上位の2人】

 2023年8月は観測史上最も暑かったと言われる。ナイターでも30度を超えるなかで普通に行なわれたが、試合内容はその割には悪くなかった。慣れてきている様子にむしろ心配を覚える。

 ただし各チームの成績を見ると、情緒不安定というか乱戦気味で、上位、下位関係なく、勝ったり負けたりを繰り返した。4戦して3勝したチームは鹿島アントラーズ(3勝1敗)のみ。混沌に拍車が掛かる1カ月だった。

 鹿島から選びたくなるのは、やはり中心選手の鈴木優磨だ。北海道コンサドーレ札幌戦(8月6日)では、樋口雄太のCKから高々としたヘディング弾。アルビレックス新潟戦(8月26日)では、広瀬陸斗の折り返しにダイブしながら頭で飛び込み、2点目をマーク。今季の得点数を11に伸ばした。

 得点ランク4位タイ。日本人では大迫勇也に次ぐ2番目の成績である。大迫が今回も代表チームに招集されなかったことを嘆く人はそれなりにいる。しかし一方で鈴木が毎度、落選することに何かを言う人は少ない。大迫的な要素を持つ総合力の高いアタッカー。サイドでも芸を出せるという点で大迫より多機能的だ。もっと評価されるべき選手の一人だ。

 大迫は8月の4試合で3点を決めている。他選手がゲットしたPKが1本含まれるので若干割り引いて考えるべきだが、残りの2本は価値があった。川崎フロンターレ戦(8月12日)戦で決めたFK弾は鮮やかな弧を描いた劇的な決勝ゴールで、柏レイソル戦(8月19日)の一撃は、土壇場で勝ち点1を拾う、これまた鮮やかなヘディング弾だった。

 今季のJリーグの趨勢を表すようなゴールと言いたくなるのは前者で、川崎ファンには息の根を止められたような悪魔的なキックに映ったに違いない。

【夏場から大活躍のFW】

 3人目のFWは浦和レッズのホセ・カンテだ。サンフレッチェ広島戦(8月13日)のミドルシュート、名古屋グランパス戦(8月18日)の振り向きざまのシュート、そして湘南ベルマーレ戦(8月25日)の巻くような左足ループシュートと、挙げた3点はいずれもビューティフルゴール。かつ本格的ストライカー色漂う豪快さも見せた。

 4月に入団してから7月まで13試合に出場。そのうち先発は4試合に限られた、典型的な交代要員だった。彼を獲得した理由をこちらは掴みかねていたが、8月に入ると一転。4試合すべてに先発。見事な3ゴールを挙げ大物感を発揮。すっかり浦和の大黒柱と化している。優勝争いに残れるか、浦和の浮沈のカギを握る選手である。

 FWからはもう1人選びたい。京都サンガF.C.の原大智だ。シント=トロイデン(ベルギー)を退団し、京都入りしたのは7月頭。帰国後初ゴールを決めたのは3戦目の札幌戦(8月19日)だった。PKだったが自らのアクションで呼び込んだもので、3年ぶりに復帰したJリーグへの挨拶代わりとなる一撃を決勝点とした。

 191cmの大型FW。若干腰高でバランス的にどうなのかと、パッと見は訝しがりたくなる選手だが、機動力に優れドリブルで運ぶ力もある。フットワークに優れていて、見た目より安定感がある。もちろんヘディングも強い。日本人では珍しい貴重なタイプの選手であることを、初先発となった次のアビスパ福岡戦ではさらに実感することになる。

 CKを頭で高々と合わせた先制点、ゴール前のリバウンドに反応し頭で押し込んだ2点目と2ゴールを挙げ、勝利に貢献。チームは2連勝を飾り、原は降格圏である最下位湘南ベルマーレとの勝ち点差を6から11に広げる立役者となった。今後が注目される24歳の大型選手だ。

【目を惹くG大阪の中盤】

 中盤は3人。1人目はFC東京の渡邊凌磨。4−2−3−1の「3」なら、どこでもプレーできる多機能型だ。右でも左でも1トップ下でも可という選手はそうザラにいない。昨季前半はサイドバックとしてもプレーしている。チームに好循環を促す潤滑油としての役割を担っている。

 出場時間はアタッカーではディエゴ・オリヴェイラに次ぐチーム2番目で、8月は4試合中フル出場2回と、そのオリベイラさえ上回った。与えられたポジションに相応しい動きができる適性エリアの広さ、頭のよさをここに来てより際立たせている。いそうでいないタイプ。東アジアE-1選手権があれば代表に呼びたくなる選手だ。

 13節から15節まで降格圏である最下位を彷徨っていたガンバ大阪。しかしそこから上昇に転じ、現在11位まで順位を上げた。要因は様々だが、パッと目につくのは外国人選手の質で、5人すべて上々だ。外国人枠さえ埋められないチームが目立つなか、稀なチームである。

 なかでも目を惹くのは中盤のダワン(インサイドハーフ)とネタ・ラヴィ(アンカー)だ。外国籍選手2人がコンビを組む中盤。Jリーグにありそうでない形である。その独得のリズム感、バランス感覚は新鮮かつ上等で、現在のJリーグで異彩を放っている。

 ダワンには得点力がある。177cmと大柄ではないが、ヘディングが強い。4−3と撃ち合いになった川崎戦(8月6日)でも、CKのボールを流し込んだヘディング弾を決勝ゴールとしている。ネタ・ラヴィは、ゲームをコントロールする今日色漂う上質なパスセンスが光る。

【存在感のあるDFたち】

 最終ラインも3人にした。1人目は日本代表にも連続で選ばれた名古屋グランパスの森下龍矢だ。いま最も昇り調子にある選手。すっかり自信をつけた様子だ。新潟戦(8月5日)、セレッソ大阪戦(8月26日)では、逆サイドからの折り返しをゴール前で合わせ、ゴールも奪っている。代表招集は当然という気がする。

 続くは浦和の重鎮アレクサンダー・ショルツ。Jリーグに在籍する外国人センターバックのなかで、最も存在感を光らせている選手だ。

 3人目はその浦和から柏に移籍したばかりの犬飼智也だ。前述のショルツに、マリウス・ホイブラーテンが加わったことで出番がなくなった犬飼は、柏に移籍するや即、スタメンの座を獲得。チームは以降、負け知らずだ。

 加入当時、僅か1しかなかった最下位・湘南とのポイント差を5にまで広げている。最終ラインが締まったこととそれは密接な関係にある。失点は大幅に減少。さらにそこから有効なパスが供給されるようになった。これほど移籍が嵌まった例も珍しい。

 GKの選考は難しいところだが、日本代表に続けて選ばれた広島の大迫敬介を推したい。光ったのは柏戦(8月26日)。単独ドリブルで向かってきた細谷真大をノーファウルで止めたセービングだ。何より身の投げだし方が秀逸だった。1対1となった局面で、細谷が転倒した瞬間、PK確実かに見えた。ノーファウルの判定に感服させられたものだ。

 ちなみに各ポジションの次点は以下の通りだ。

 FWイッサム・ジェバリ(G大阪)、MF樋口雄太(鹿島)、DF藤井陽也(名古屋)。