久保建英が監督からの挑発に応える活躍 現地紙はベリンガムと同列に語るほど賞賛
13歳までを過ごしたFCバルセロナの下部組織ラ・マシアで、久保建英(22歳)は「黄金世代のひとり」と言われていた。アンス・ファティ、ニコ、エリック・ガルシアなどトップデビューを飾ったスペイン代表選手たちと同世代だった。クラブの18歳未満選手の登録停止で日本に戻らざるを得なかったが、彼も異色の輝きを放っていた。
「日本人というよりもスペイン人、スペイン人のなかでもとびっきりのリーダー。自分の活躍でチームを勝たせる。その執念が飛び抜けている」
当時の現地記者の評価である。
端的に言えば、久保はゴールへの意識、技量が突出して高く、"怖さ"につながっていた。チームの形としては、久保のパスをファティがゴールする形が多かったが、本人はパサーに収まらなかった。うまいだけの選手ではなかったのである。
「黄金世代のなかでも、パーソナリティは傑出。誰よりも成功を収めるのではないか」
当時のそんな評価を、久保は証明しつつある。
グラナダ戦で2ゴールを決めた久保建英(レアル・ソシエダ)
9月2日、レアル・ソシエダ(以下ラ・レアル)は本拠地にグラナダを迎え、5−3とシーズン初白星を記録している。開幕3試合連続ドロー。ダビド・シルバの引退などチームプランの変更で不穏な空気が漂っていたが、どうにか払拭した。
「久保がラ・レアルの鍵を握る」
スペイン大手スポーツ紙『マルカ』が報じたように、勝利の扉を開けたのは久保だった。
8分、セカンドボールを巡る争いのなか、この日はトップに入ったミケル・オヤルサバルがプレスバックし、回収したボールをブライス・メンデスがダイレクトでスルーパス、これに走っていたのが久保だった。一切無駄のないボール運びで、相手を寄せつけず、自らのライン、間合いでゴールエリアへ侵入。左足を振り、GKの逆を突くシュートを華麗に決めた。
一度は同点に追いつかれたが、43分、自陣からのカウンターで回収したボールを受けた久保は、ディフェンスとの1対1からコースを作り、左足を鋭く振る。ボールはわずかに相手に当たったが、美しい軌道でファーサイドに突き刺さった。
【3点目、5点目にも関与】
肌が粟立つほどの技量で、相手を寄せつけなかった。
前半終了間際、久保は浮き球を何気ないコントロールで完璧に収めるシーンがあった。大柄ではないが、態勢も万全で、相手に間合いに入って来させない。無理をすればファウルは必至で、その駆け引きによって、ためを作り出せる。その様子は、まさにピッチの王様だった。
55分、久保のアンデル・バレネチェアとのワンツーで抜け出したシーンは、PKになってもおかしくなかった。さらに56分には自陣に下がってボールを受け、前線のオヤルサバルにロングパスを送り、攻撃のリズムを生む。そして58分、ゴールラインまでパスを呼び込むと、左足でこねてから右足でマイナスに戻したボールはブライス・メンデス、マルティン・スビメンディとつながって、3点目となった。
久保は戦術の軸になっていた。縦横無尽に動き回って、右サイドバックのアマリ・トラオレ、左サイドバックのキーラン・ティアニーなど新入りのよさを生かす余裕さえ見せた。前々日まで右足の負傷で練習を休んでいたとは信じられない。チームにテンポを生み出すことで、彼自身も輝きを増した。
75分には、とどめの5得点目を"アシスト"している。久保はトラオレを走らせた後、クロスのこぼれ球をエリア内で拾い、ラストパスをオヤルサバルに合わせる余裕があった。結局、判定は相手DFに当たってオウンゴールだったが。
「(レアル・マドリードの攻撃的MFジュード・)ベリンガムと並び、ラ・リーガ序盤戦で最もフィットしている選手と言える。この日は2ゴールで、イマノル(・アルグアシル監督)の挑発(試合前日の会見で久保について、「3試合連続ゲームMVPだったら、4得点4アシストすべき」と語っていた)にも応えた。ほぼハットトリックで、チケット代を払う価値のあるプレーだった」
スペイン大手スポーツ紙『アス』も、上記のようにイングランド代表の将来のバロンドール候補と同列に語るなど、称賛を極めている。
率直に言って、ラ・レアルはチームとして劇的に改善されたわけではない。ボールは持ったが、敵陣で攻撃する時間は少なかった。しかし、久保が先頭を切って引っ張ることで活路を開いた(久保は78分にベンチに下がり、2点差に追い上げられている)。
「久保はラ・レアルの手品師であり、(危機に陥っていたチームの)AEDだ。その才能で試合を輝かせ、命を与えた。最初の2得点を奪い、3点目、5点にも関わった。(グラナダは)彼がケガをしていて不幸中の幸いだった」
スペイン大手スポーツ紙『エル・ムンド・デポルティーボ』も他のスポーツ紙と同様、久保をベストプレーヤーに選出し、トリッキーな言い回しで激賞した。
9月の代表選後、ラ・レアルはレアル・マドリードとの頂上決戦に挑む。その後、開幕するチャンピオンズリーグでは昨季ファイナリストのインテルと一戦を交える。強力な敵ばかりだ。
しかし、久保は臆することはない。チームを双肩に担い、先頭をきって戦える。その物語はすでに未知の領域に入っている。