【50本超えでの本塁打王も視野に】

 MLBの2023年シーズンも終盤に入り、各地区の優勝争いやプレーオフに向けた戦いも熱を帯びている。そんな中、大谷翔平(ロサンゼルス・エンゼルス)を襲ったのが、右ひじの内側側副靱帯損傷というアクシデントだ。

 現地時間8月23日に行なわれたシンシナティ・レッズとのダブルヘッダー第1試合で、大谷は「2番・投手」として先発登板。打者としては第1打席に44号2ランを放ったものの、投手としては2回途中に途中降板した。当初、大谷の状態は「腕の疲労」とされていたが、それが右ひじの負傷によるものと判明。"投手・大谷"の今季はまさかの形で終わりを迎えることになった。


右ひじのケガ後も打者として出場を続ける大谷

 それでも、打者として出場を続行している大谷の最大のトピックは、44本塁打(ア・リーグ首位)、打率.304(同3位)、92打点(同3位)の打撃3部門のタイトル争いになりそうだ(成績は現地時間8月28日時点。以下同)。

 その中で、最もタイトル獲得に近いのは「本塁打王」。6月に16本、7月に10本を量産し、2カ月連続で月間MVPに輝いた頃の勢いは鳴りを潜めたが、8月も5本塁打を積み重ねており、34本塁打でランキング2位のルイス・ロベルト・ジュニア(シカゴ・ホワイトソックス)を大きく引き離す。

 今後も打者として問題なく出場が続けられるのであれば、2021年に記録したキャリアハイの46本塁打や、残り4本に迫った松井秀喜(元ニューヨーク・ヤンキースなど)が持つ日本人メジャー通算最多の175本塁打も今季中に超える可能性が見えてくる。50本塁打の大台をクリアしての、自身初となる打撃タイトル獲得も視界に入っているだろう。

 ライバル勢の状況を見ると、先ほども話したように2位のロベルトとは10本差。また、故障で戦列を離れていた昨年の本塁打王、アーロン・ジャッジ(ヤンキース)が復帰し、8月23日のワシントン・ナショナルズ戦では3本塁打と気を吐いたが、現在28本塁打と約2カ月のブランクは大きい。

 実質的なライバル不在の中、大谷の懸念点を挙げるとしたらコンディション面か。右ひじの負傷が発覚後も出場を続けているが、7月終盤頃から疲労の蓄積による体のけいれんなども見られる。それが今後、どのように影響するかが気になるところだ。

【打率は"隠れ首位打者候補"、打点はトラウト再離脱がネック】

 続いて打率は、後半戦に入って執拗な"四球攻め"に合う中でも調子を落とさずに8月を終えようとしている。今季の月間打率は.315だが、2021年の同打率が.257、2022年が.273だったことを考えても、いい状態で終盤を迎えたと見ていい。規定打席に到達しての打率3割を達成すれば自身初。過去の日本人野手ではイチロー(元シアトル・マリナーズなど)が10度達成、2005年には松井秀喜も達成しているが、先人たちに並ぶことができるか。

 首位打者争いでトップを走るのは、4月から常に月間打率3割を上回ってきたヤンディ・ディアス(タンパベイ・レイズ)。8月後半さらに状態を上げ、打率.326と大谷を大きくリードする。

 さらに、"隠れ首位打者候補"としてライバルとなり得るのがコーリー・シーガー(テキサス・レンジャーズ)だ。シルバースラッガー賞を2度受賞するなど輝かしい実績を誇る左の巧打者は、故障で戦線離脱していた時期があるため規定打席には到達していないが、8月28日時点で.346の高打率を残している。MLBシーズンの規定打席数は502で、シーガーの打席数は402。またケガで離脱、ということがなければタイトル奪取が現実味を帯びてくる。

 大谷にとっては、首位打者よりも打点王のほうが狙いやすそうだ。97打点と100打点に迫るカイル・タッカー(ヒューストン・アストロズ)がトップ、2位のアドリス・ガルシア(レンジャーズ)が95打点と、92打点の大谷と差はわずか。走者を置いた場面で、本塁打やタイムリーなどでいかに打点を稼げるかが、打点王のタイトル獲得のカギになる。

 ネックとなるのは、復帰したばかりのマイク・トラウトの再離脱。7月に左手有鉤骨を骨折し、1カ月半ほど戦線を離れていたトラウトは、8月22日のレッズ戦で50日ぶりに復帰を果たしたものの、翌日のダブルヘッダーを2試合とも欠場。再びIL(故障者リスト)入りすることになった。大谷の前後を打つバッターとして頼れる主砲の離脱がどう影響するのか。

 大谷が"三冠王"を達成する可能性をあらためて考えると、本塁打王は戦線離脱がなければほぼ確定。並居るMLBパワーヒッターを凌駕した日本人選手としてその名が刻まれるだろう。

 首位打者の可能性は、ディアスが終盤にかけて調子を上げていることも考えると、30%くらいは可能性がありそうか。ただ、シーガーが規定打席に達すれば数字的に厳しい。ライバルたちの急失速、大谷自身の固め打ちが求められるため、逆転へのハードルは決して低くない。

 打点王の可能性は50〜60%くらいか。本塁打との打撃二冠は十分に射程圏内だが、そのためにはエンゼルスの他のバッターの出塁やチャンスメイクが必要不可欠。基本は2番に入る大谷に、いかにチャンスが回ってくるかで結果は変わる。

 投手としての出場はなくなったものの、打者として本塁打、打率、打点といずれもハイレベルな数字を残す大谷はいくつのタイトルを獲得できるのか。終盤戦にかけて最大の見どころだ。