昨季はレアル・ソシエダでスペイン移籍後最高とも言えるシーズンを過ごした久保建英。日本期待の選手を、現地スペインの記者はどう見ているのだろうか。今回はクラブの地元紙「エル・ディアリオ・バスコ」で番記者を務める、イケル・カスターニョ・カベージョ氏に、久保の今季ここまでのパフォーマンスなどを振り返ってもらった。


久保建英は開幕3試合連続でマン・オブ・ザ・マッチに選ばれた photo by Nakashima Daisuke

【愛称は「サグーチョ」】

 チャンピオンズリーグ(CL)の出場権を勝ち取ったレアル・ソシエダにとって、久保建英はすでに皆に認められる貴重な戦力になっている。

 そしてスペインサッカー史上最高の選手の1人であるダビド・シルバが去った(引退)今季、昨季示した実力が本物であると証明するための、真価を問われるエキサイティングなシーズンを送ることになるはずだ。

 久保がシルバと同じポジションでプレーすることはないと思うが、その備え持った高いクオリティにより、チームに大きく空いた穴を埋める存在になりうる可能性を秘めている。

 イマノル・アルグアシル監督率いるチームは、開幕からの3試合でわずか勝ち点3しか獲得できていない。一方、久保に関して言えば、試合を追うごとに調子を落としてきてはいるものの、どの試合でも質の高いプレーを見せ、ここまで1得点1アシストを記録するなどチームで最も輝きを放っている。

 そのためサポーターから「サグーチョ」と呼ばれているこのアタッカーは、対戦相手にとくに警戒される選手になっているのだ。「サグーチョ」とはバスク語で「小さなネズミ」を意味し、久保がどんな小さな穴(スペース)にも巧みに入り込み、相手にダメージを与えることができるためにつけられた愛称である。

 イマノル・アルグアシル監督がセルタ戦から変更した攻撃のプランが意味をなさず、負ける可能性もあるなか、最終的にスコアレスドローに終わった前節ラス・パルマス戦を振り返ってみると、3試合連続の先発出場となった久保の序盤のパフォーマンスはほかの選手同様、非常に控えめなものだった。

 そんななかでも前半は、久保がセルジ・カルドナを振りきりゴール上隅をわずかに外したシュートが、チームにとって最も決定的なシーンとなった。

 久保は後半、より多くのプレーに関与し、ミケル・オヤルサバルやマルティン・スビメンディのシュートチャンスをお膳立てした。このように調子の上がった状況で交代させられたことを、サポーターは納得していなかったようだ。

 しかし、この日の久保のプレーを分析した場合、悪くはなかったとは思うが、前の2試合を上回るほどの出来ではなかったと言えるだろう。

【3戦連続ドローでサポーターはフィジカル面を危惧】

 ラ・レアル(レアル・ソシエダの愛称)はリーガ初戦のジローナ戦を引き分けというほろ苦い結果で終えたが、この試合で評価される選手がいるとすれば、それは久保だろう。右ウイングで先発出場し、カルロス・フェルナンデスやミケル・オヤルサバルと共に立ち上がりから激しいプレスをかけて相手を大いに苦しめた。

 そして前半5分に、左サイドを突破したアイエン・ムニョスのクロスから久保が先制点を記録したが、これはGKパウロ・ガッサニーガの逆を突くインテリジェンス溢れるものだった。

 久保は試合を通じてボールをうまくコントロールし、右サイドからカットインして多くのチャンスを作り、何度もゴールを狙い、さらにボールを奪ってチームがカウンターを仕掛ける起点となり、シーズン開幕から昨季同様に違いを生み出す存在となった。

 久保はジローナ戦後、引き分けで終わったことについて、「サッカーとはそういうもの。相手の枠内シュートはわずか1本でしたけど、ゴールを決められてしまったので不満が残る。僕たちは勝利に値するいい試合をしたと思う。チーム状態もフィジカルコンディションもいい状態なので、シーズンの終わりに悲しまないで済むように、結果につなげる必要がある。僕は好調で2点目を決めるチャンスもあったし、チームもプレシーズンから徐々に調子を上げています」と語っていた。

 しかし第3節を終えた後のここ数日間、多くのサポーターがチーム状態を危惧しており、3戦連続ドローの原因がフィジカル面にあるのではないかと考えている。

 開幕戦のベストプレーヤーだった久保は、第2節セルタ戦でも右ウイングでスタメン入り。電光石火の動きを見せ、逆サイドのアンデル・バレネチェアとともに違いを作り出していった。

 前半22分には、久保が右サイドでマヌ・サンチェスを抜き去り完璧なクロスをあげると、ファーポストで待ち構えたバレネチェアがヘディングシュートを決めて先制点を手に入れた。

 しかしセルタが5バックに切り替えたことで状況が一転。久保は攻撃を仕掛けられなくなってパフォーマンスを落としていき、チームはまたもや引き分けに終わった。

【課題は安定したパフォーマンスの維持】

 久保はラ・レアルでの初年度、瞬く間にチームにフィットしてドリブルを武器に9ゴールを決め、さらにアシストも記録してチームに多くの勝ち点をもたらした。またレアレ・アレーナのピッチで見せた印象的なプレーで、チームを長年愛するサポーターの愛情もすぐに勝ち取っていた。

 そのため久保は今季、昨季以上に大きな役割を担った状態でスタートしている。チームはリーガで5年連続の欧州カップ戦出場権を獲得し、CLでできる限りの好成績を収め、国王杯では上位進出を狙うことを目標に掲げているが、それを成し遂げる上で久保は間違いなくキーパーソンになるだろう。ケガさえなければ、昨季のように出場時間を十分得られるはずだ。

 イマノル・アルグアシル監督は開幕前、久保がラ・レアル初年度で成功を収めた要因を聞かれた際、「タケは昨季だけでなく、それ以前から自分の能力や才能、資質を示していた。昨季はすばらしいシーズンを送っていたが、すでに大きな才能を持っていたため、今さら我々が見出すものなど何もないだろう」と自分たちのおかげではないことを強調した。

 続けて、「彼はハードワーカーであり、サッカーが大好きで、サッカーのために生きており、非常にうまくチームに適応している。本当に努力しているし成長しているよ」と向上心の強さを高く評価している。

 久保にとって今季は、ラ・レアルでの地位を確固たるものにする1年となる。そんななか、改善すべき点のひとつとして、安定したパフォーマンスを維持することが挙げられる。

 昨季は多くの試合で重要な役割を果たしていたが、存在感が薄い試合もあった。その点を向上できれば、さらなる進化を遂げられる。またプレスに関与する回数は増えているが、守備面も改善の余地がある。

 しかし久保は、自分のストロングポイントをうまく発揮できれば、おそらくチームで最も試合に影響を及ぼすことができる選手になれるだろう。外から中へと切り込む卓越した能力に加え、幾度となく試みているシュートをさらに磨き上げれば、昨季のゴール数を上回り、2桁の大台に乗せるのも夢ではない。