優勝まで5mで転倒→失格の悲劇 世界が同情した瞬間を撮影者解説「彼女が転倒し…」【世界陸上】
ブダペスト世界陸上連載「陸上界の真珠たち」第15回
ブダペスト世界陸上は19日から連日熱戦が繰り広げられている。「ドナウの真珠」と呼ばれる美しい街並みを誇るブダペスト。現地で取材する「THE ANSWER」では、選手や競技の魅力を伝えるほか、新たな価値観を探る連載「陸上界の真珠たち」を届けていく。
第15回は、64歳の世界的スポーツ写真家ボブ・マーティン氏が撮影したこだわりの1枚を本人の言葉を基に紹介する。40年以上のキャリアで夏冬19度の五輪を経験し、国際オリンピック委員会(IOC)の公式フォトグラファーも務める同氏。今回は、19日(日本時間20日)の混合マイルリレー決勝で先頭を走っていたオランダのアンカー、フェムケ・ボルがゴール5メートル手前で転倒した悲劇の決定的瞬間。(取材・文=THE ANSWER編集部・浜田 洋平、鉾久 真大)
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金メダルの夢が目前で消えていく。その瞬間、選手の表情を正面から捉えていた。
アンカー勝負に突入した混合マイルリレー決勝。先頭だったオランダの女子選手ボルが、ゴール5メートル手前でまさかの転倒。写真は落としたバトンだけがそのままゴールラインを通過する瞬間だ。猛追した米国のアレクシス・ホームズは歯を食いしばる一方、ボルは転倒しながらバトンを見送っている。
立ち上がって3番手でゴールしたが、オランダは無念の失格となった。SNSでは世界のファンから「痛そうな転倒だ」「可哀想だ」などと同情の声が上がったシーン。撮影したマーティン氏はこう解説した。
「これは偶然の1枚だね。彼女が転倒し始め、私は適切な場所にいた。私は勝者を撮影しようとしていた。彼女が転倒するかもなんて考えていなかった。知る由もないからね。これは単純に良い反応ができたから収められた。私はラッキーで、良い位置にいた。だから、これは良い写真だ」
英国人のマーティン氏はスポーツ写真の極意として、「優秀な機材を使い、撮影だけに集中することでアスリートの動きを予見すること」「位置取り」「何が起きても動じないよう、競技結果への興味をなくすこと」の3点を列挙。今回は「運」というが、事前の位置取りがハマる結果となった。
同氏はIOC、ウィンブルドン、マスターズの公式フォトグラファーを務め、2005年に世界最大のフォトコンテスト「ワールド・プレス・フォト」でスポーツ賞を受賞するなど、輝かしいキャリアを積み上げてきた。撮影だけでなく、各世界大会のコンサルタント責任者も担当。技術と経験をもとに撮影位置、設備の助言を送り、写真でスポーツの熱狂を世界に届けてきた。
歓喜やドラマだけではなく、悲哀も写し出すのもフォトグラファーの評価されるべき仕事だろう。
(THE ANSWER編集部・浜田 洋平 / Yohei Hamada)
(THE ANSWER編集部・鉾久 真大 / Masahiro-Muku)