打高投低----近年の高校野球はこの状態が続いてきた。

 夏の甲子園での本塁打数を見ると、早稲田実と駒大苫小牧が決勝再試合を戦った2006年に初めて大会通算本塁打が60本(49試合)に到達。藤浪晋太郎を擁する大阪桐蔭が春夏連覇を果たした12年に56本(48試合)、広陵・中村奨成が個人大会通算本塁打新記録となる6本を放った17年に68本(48試合)と試合数よりも多い本塁打が飛び出した。

 その後、18年に51本(55試合)、19年に48本(48試合)を記録。コロナ禍による実戦不足などの影響で過去2大会は減少しているが(21年=36本、22年=28本、ともに48試合)投手受難の時代であることは間違いない。


昨年夏、東北勢として初の優勝を飾った仙台育英。今夏は連覇の期待がかかる

【仙台育英が誇る超強力投手陣】

 この状況を打破したのが昨夏、東北勢として初優勝を果たした仙台育英だった。登板した5投手は全員140キロ以上を記録。完投した投手はゼロで、もっとも多く投げた投手でも14回3分の2。猛暑のなかでの戦いを強いられる夏の高校野球において、力のある投手を疲弊させず、フレッシュな状態で投げさせることで失点を減らし、打力に頼らず勝ちきった。

 コロナ禍も終息に向かいつつあり、練習時間や実戦の制限もなくなった。再び打高投低の時代に戻るのかが焦点となるが、高校野球は来年転機を迎える。

 2024年春から低反発バットが導入されるからだ。反発力を抑えるため、円筒状のバットの最大径が3ミリ細くなり、ボールを打つ部分が1ミリ厚くなる。現在のバットと比べ、打球速度は約3.6%落ちると言われており、使用が始まってみないとわからないが、これまでの打者有利な状況が変わる可能性がある。

 その意味でも、今夏の仙台育英の戦いぶりに注目が集まる。昨夏も主力として投げた右腕の?橋煌稀(こうき)、湯田統真(ゆだ・とうま)に加え、左腕の仁田陽翔(はると)が150キロを記録。同じく左腕で140キロを超える田中優飛(ゆうと)、武藤陽世(ようせい)と他校がうらやむ投手陣を揃える。

 野手も昨夏からの1、2番コンビ・中堅手の橋本航河、遊撃手の山田脩也に加え、4番の斎藤陽(ひなた)、捕手の尾形樹人ら昨夏の経験者が残る。さらに大物打ちの斎藤敏哉が成長するなどパワーアップ。2連覇に死角のない陣容がそろった。投手中心の戦い方だけに来春以降の打力低下の影響を受けることはない。今夏も制するようなことがあれば、仙台育英の時代が続く可能性がある。

【超高校級スラッガーを擁する3校】

 では、仙台育英を止めるのはどこなのか。

"飛ぶバット"最終年となる今大会を象徴するかのように、高校球界を代表する大物スラッガーが甲子園出場を決めた。昨春のセンバツでも"ビッグ3"と話題になった史上最多の通算140本塁打を誇る花巻東・佐々木麟太郎、62本塁打の広陵・真鍋慧(けいた)、31本塁打の九州国際大付・佐倉侠史朗だ。

"ビッグ3"が所属する3チームのうち、もっとも頂点に近いのは昨秋の明治神宮大会準優勝、センバツベスト4の広陵だろう。

 エース右腕・高尾響が安定し、真鍋以外にも田上夏衣(たのうえ・かい)、小林隼翔(はやか)と3人のU−18日本代表候補を擁する。広島大会では真鍋が打率.250、小林が.222と不調だったのが気がかりだが、復調すれば悲願の夏初優勝(準優勝4度)が見えてくる。

 花巻東の佐々木も岩手大会では背中の違和感からノーアーチ(15打数5安打)に終わった。順調に回復していると伝えられているが、本来のスイングができる状態になっているか。投手は春に147キロをマークした2年生右腕の小松龍一が岩手大会決勝で17奪三振をマークするなど安定。岩手大会でエースナンバーをつけた北條慎治らほかの投手陣がどこまで小松をサポートできるか。

 九州国際大付の佐倉も福岡大会は0本塁打。打率は.435を記録したが、7三振と粗さが目立った。チームは7試合無失策の堅守。1点差で3試合を制するなど接戦を勝ち抜いた。

"ビッグ3"が所属するチーム以外にも強打のチームが集まる。

【チーム打率4割超えの智辯学園と履正社】

 智辯学園は奈良大会5試合で12本塁打、打率.410を記録した今大会屈指の強力打線。1番打者の松本大輝は先輩の阪神・前川右京に憧れる通算31本塁打のスラッガー。奈良大会では5試合で4発を放った。8番・捕手の高良鷹二郎も3本塁打を記録するなど、どこからでも一発の出る打線は脅威。最速146キロのエース・中山優月(ゆづき)ら投手陣がどこまで踏ん張れるかがカギとなりそうだ。

 夏の大阪大会で12連敗中(2020年の独自大会を除く)だった大阪桐蔭を破った履正社もチーム打率.401を記録した強打が売り物。3本塁打をマークした4番・森田大翔が引っ張る。また、大阪大会初戦でケガをして、センバツでは4番を打った坂根葉矢斗(さかね・はやと)の復帰が待たれる。

 投手陣は大阪桐蔭を3安打完封した150キロ左腕・福田幸之介と、170センチと小柄ながら140ロ台の速球が魅力の左腕・増田壮が安定。2019年以来の日本一を目指す戦力は揃っている。

 春の東北大会で仙台育英を破った八戸学院光星(青森)も力がある。右打者ながら右中間にも一発を打てる主砲の中澤恒貴は昨年よりも無駄な動きがなくなり、確実性を増した。1番から6番まで全員本塁打を打つ力がある。

 投手陣は左腕の二枚看板。昨夏の甲子園でも好投した洗平比呂(あらいだい・ひろ)と、岡本琉奨(るい)はともに最速140キロを超える。とくに洗平は制球力も安定。容易に失点を許さない。ただ、ともに2年生だけにスタミナに不安がある。

 南北海道大会6試合で5本塁打を量産した熊谷陽輝(はるき)を擁する北海も面白い存在。打線は全員がバットを短く持ち、コンパクトな振りを心がける。残塁の多さは気がかりだが、南北海道大会ではチーム打率.392をマークした。投手陣も最速147キロのエース・岡田彗斗(けいと)と、U−18日本代表候補(合宿は辞退)の熊谷の両右腕に加え、技巧派左腕の長内陽大(はるた)もおり、充実。上位進出も夢ではない。

 このほかには、春のセンバツで仙台育英とタイブレークの接戦を演じた慶応義塾(神奈川)、昨秋から千葉県内での公式戦20戦無敗、150キロ右腕・平野大地の投球に注目が集まる専大松戸、埼玉大会全試合で5点以上の差をつけて圧勝した戦力充実の浦和学院、台風の影響が心配されるが、エース・東恩納蒼(ひがしおんな・あおい)、主砲・仲田侑仁(ゆうと)と投打の柱がしっかりしている沖縄尚学などに"打倒・仙台育英"の期待が集まる。

 新規格バットに変わる前の最後の大会。今夏は記録的な猛暑との戦いも待っている。強力投手陣、さらにはマネジメント力に長けた仙台育英が連覇を達成するのか、強打のチームが待ったをかけるのか。ひとまず"打高投低最後の夏"と思われる第105回全国高校野球選手権がいよいよ開幕する。