50歳からひとり旅を始め、更年期の鬱々な時期を乗りきっているという、料理家・山脇りこさん。3月に上梓した『50歳からのごきげんひとり旅』(大和書房刊)は、「ごきげん」を手に入れるために一歩踏み出したい人に向けた、とっておきの旅テクが満載です。

山脇りこさん流「ひとり旅」の極意

今回は山脇さんに、ご自身の経験から学んだ、旅先でした方がいいことやNG事項、さらに50代をご機嫌に過ごすコツなど、貴重なお話をたっぷり伺いました。

【写真】山脇さんのひとり旅写真で旅行気分に

●持ち物、洋服…なにに気をつければいいの?

――著書『50歳からのごきげんひとり旅』でも、準備の仕方やおすすめプランなど、参考になることが多々書かれていますが、山脇さんがこれまでひとり旅をした際に、「やらない方がいい」と感じたものはありますか?

山脇りこさん(以下、山脇):個人差はあると思いますが、夜遅くまではしごするとか、ちょっと危なげなところへ行くとか、大人だから大丈夫とは言っても、やっぱり年齢を重ねているからこそ危ないことも出てくると思うので、怖いなと思ったら行かない。安全がいちばん大事かなと思います。

それから旅行中に病気になったり、家に帰ったときに疲れ果てててるというのもよくないと思うので、あんまりがんばらずに早めに休むようにしています。旅先では海外はついついちょっとつめ込みがちになるので、気をつけてつめ込みすぎないようにしています。

――持ち物や洋服で気をつけていることはありますか?

山脇:ここにたどり着くまでにはいろいろあったんですけれど、今は自分がそのときいちばん好きな服で行くようにしています。ひとり旅って、絶対だれにも会わないシチュエーションだと思って、今回着たら捨てようと思っている服を着たりしていたら、知人に会っちゃったんですよね…。まさに、ユーミンの「DESTINY」の歌詞そのもので、「今日に限って安い服を着てた」なんて頭でこだましました(笑)。以来、自分の好きな、気持ちが上がる格好で行くようになりました。

また、持ち物で言うと、荷物を少なくするのが私にとってはすごく重要だと思っていて。国内だったらいざとなったら買えるものも多いし、好きな服なら毎日ほぼ同じでもいいと思って、極力減らしています。あとはすべてのポーチとバッグを軽いものに替えました。重たい革のポーチは全部超軽量に。

●旅行先であえて「走る」理由

――山脇さんは旅先でもスニーカーを持って行って走るとお伺いしたのですが、その理由を教えてもらえますでしょうか?

山脇:性格がせっかちなのもあるのか、走ると早送りで街が見られるなあと思っています。あとでここに来ようかなとか、事前に予習しているような感覚で走っています。まず走って、戻ってきてシャワーを浴びてから、じゃあさっきのところへ行ってみようかな、とか。

友達と旅すると、一緒に夜遅くまで飲んだり喋ったりが楽しいと思うんですけれど、ひとりだと夜は早めに休んで、朝早くに走るのを楽しみにしています。朝はそこに住んでいる人のものだと思うので暮らしている気分になりますし、街の知らなかった顔がいっぱいあって楽しいです。

――「朝時間」のよさを実感した出来事などあったのでしょうか?

山脇:初めてのひとり旅で京都に行ったときのことですが、ぐるぐる回っても、なんと晩ごはんにお店に入れなかったんですよね…。だから仕方なく、寂しくホテルで早く寝て。翌朝、早く起きて朝ランで6時くらいに清水寺に行ったら働いてる方と私くらいしかいなくて、清水の舞台がほぼ貸切で。天気がよくて、めちゃくちゃ気持ちよくて。ひとり旅&早起きのご褒美だと思いました。

――反対に夜はひとりでごはんを食べるのに、少しハードルが高い気もしますよね。

山脇:私もそうで、ひとりごはんにはかなりの勇気がいります。パリなどヨーロッパの多くはみんなでおしゃべりするためにレストランに集うから、ひとりだと予約もできない。だからそういうときは、家族や友達といるとできないデパートの総菜で晩ごはんにします。自分の食べてみたいものを、ちょっとお高いなと思っても買って部屋でぜいたくします。これは大人の楽しみ方でもあると思います。

国内の場合は、私は自然派ワインが好きなので、それを出しているお店を逆引きして、自分好みのお店を見つけることもあります。自分の好きなワインを出している=料理も好みということが多いので。見つけたお店の周りを3周ぐらいしてみて、入れそうだったら入ります。

日本酒が好きな人だったら自分の好きな日本酒で逆引きとかもいいかもしれないですね。私は、「ベジ」や「精進」で検索することもあります。とくにベジタリアンではないのですが、そういうお店は割と女の人が一人で入りやすい、おひとりさまが多い、と学習しました。

逆に、すごいにぎやかなビアホールも入りやすいです。17時とか早い時間に行って、そこでサクッと食べて、みんなが酔っ払う前に帰る、みたいな。私は、ひとり旅は早起きして早めに行動、晩ごはんも早めにしています。

●旅には慣れすぎない方がいい

――お話を伺っていると、ひとり旅を楽しむ工夫はいろいろなところにあるのだなと感じます。

山脇:私は決して旅の達人じゃないので、本を書くときも、旅慣れてはいないけどいいですか? と思いながら書きました。毎回、いまだに超ビビりながら行ってますしね。用心のために今も靴に2000円入れていますけど、そのくらい、気をつけている方がいいと思う。気をつけすぎて困ることはないかと。無事に帰ってくることがいちばん大切です。

私の初めてのひとりのパリなんて、周りは全員泥棒ぐらいの気持ちでしたけど、そのぐらいの方がいいと思っています。

私の場合、他人とコミュニケーションしなきゃとも思わないんです。むしろ一日だれとも話さないっていうのもよかったりします。今日はチケットをもぎってくれた人のほかはだれとも話してない、なんて意外と新鮮。もしも、寂しくて辛くなったら、途中で帰るのも自由ですから。

●家族旅行で自分だけ前乗りすること

――これまでもいろんなところにひとり旅されたかと思いますが、今後行ってみたい場所などはありますか?

山脇:北海道にひとりで行ってみたいです。去年の夏に、相方(夫)と行ったときに、なんとレンタカーを借りられなかったんですよ…。それで2人で列車で回ったのですが、案外周れて。私は乗り鉄なので楽しかったんです。その列車が廃線になるらしいと聞いて、「これはひとりでも行こう!」と思いました。

あとは、相方と旅に行くときに、また前乗りで私だけ先に行こうかなと思っています。たとえば飛行機の経由地がフィンランドだとしたら、私は3日くらい早く行ってヘルシンキを周るとか。

――家族旅行の前乗りをされるんですね?

山脇:前乗りは、私の経験では申し訳なさが半減します。たとえば、沖縄に家族で行くとき、家族とはリゾートに行くとしても、自分ひとりだけ先に那覇で2泊して器を見てまわるとか。お先にごめんね、とか謝ってる暇もなく旅行が始まるので、すごくいいと思いますよ。

「こっち天気いいよ」とか、そんな会話を先に行ってる間はできるし、家族が来たら自分が楽しかった話を延々としながら案内もできる。1人でいると、「ああ、夫にも食べさせたいな」とか「母にも見せたいな」とか思うので、後から来た家族を連れて行くのも楽しいです。私、先に行って皆さんのために試しておきました〜、と(笑)。

●50代をご機嫌に過ごすのは難しい。だけど…

――最後に、著書のタイトルにもありますが、50代をご機嫌に過ごすコツはなんだと思いますか?

山脇:私はご機嫌で過ごすのがはとても難しいなあ、と感じるようになったんです。肩が上がらないとか、体の不調もいろいろ出てくるし、なにを着ても似合わないとか疲れるとか鬱々としてしまって。

周りにも深刻な病気で倒れたり、親御さんの介護で大変になったりっていう人が増えてきて。ああ楽しいことが減っていくのかなあと思うようになりました。だから、ただ機嫌よくしているってだけでもなかなか大変で、工夫がいるなと。それで、自分の中でかなり意識して、これ以上やると機嫌悪くなるなとか、具合悪くなるなっていうことを、できるだけやらないようにしようと。

たとえば、多少家が片づいていなくても休みたい日は休むとか、ごはんをつくれない日は、料理家が言うのもなんですけどつくらなくてもいいし、食べに行ってもいいし、買ってきてもいいし。そういう風に自分を甘やかしたほうが、結果、疲れなくて、家族もハッピーかもしれないですよね。

自分が楽しいことは丁寧にやったり、時間もかけられると思うんですけれど、自分にとって大変なことや苦手なことはそこまで丁寧にやらなくてもいいんじゃないでしょうか。そのぐらいゆるい感じでいいんだって思うと、ご機嫌でいられる気がします。

私は、梅干しを漬けたり、みそを仕込んだり…が無心になれて好きなんですね。その方がいいからとか、丁寧にという思いからではなくて、じつはただ楽しいからやっています。でも、人によっては大変に感じるかもしれません。だったらやらなきゃいいんだと思います。

自分の好きなことを好きなだけやるのは難しいかもしれないけれど、この歳になると案外できるようになる気がします。人と比べずに、自分流で。人と比べないのって大事かも。

50代は周りに急に亡くなる方とかも出てくる世代。体が思うように動かなくなったり、親のこととかで時間が自由にならなくなる日は明日かもしれない。だから後悔しないように、やりたいことは我慢や先送りしないで、やった方がいいなって思います。