「耳下腺がん」を疑う初期症状・原因はご存知ですか?医師が監修!

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耳下腺がん(じかせんがん)とは、唾液腺がんの一種です。唾液腺がんの中では最も発生頻度が高いとされています。転移がみられるケースが多く、治療に時間がかかる場合が多い病気です。

耳下腺がんには初期症状がみられるので、違和感を覚えたら早めに医師に相談することが大切です。

今回は、耳下腺がんとはどのような病気なのか紹介をします。耳下腺がんの症状・原因・検査方法・ステージごとの生存率・早期発見のためのポイントについて解説をするので、ぜひ参考にしてみてください。

耳下腺がんの症状と原因

耳下腺がんはどのような病気でしょうか?

耳下腺がんとは、「じかせんがん」と読む病気です。大唾液腺の一つである耳下腺に悪性腫瘍が発生する病気です。いくつか種類のある唾液腺がんの中でも最も発症例が多く、全体の5~6割を占めると報告されています。
耳下腺とは、耳の前方から下方にかけて左右一対存在し、顎下腺・舌下腺とともに大唾液腺を構成している臓器です。大唾液腺で作られた唾液は、管を通って口腔内に運ばれ、食物の消化や口腔内の健康の維持に働きを担います。
左右に一対ある耳下腺の中央には顔面を動かす神経が通っています。耳下腺がんに罹患すると、これら周囲の臓器や顔面神経への浸潤・転移が見られやすく、治療が難しいと考えられている病気です。

耳下腺がんにはどのような症状がみられますか?

耳下腺がんに罹患すると、まずは耳の下のあたりにしこりのような腫れが発生します。痛みを伴わないケースが多いですが、悪性腫瘍で病状が進行するにつれて痛みやしびれを伴っていきます。さらに病状が進行し、悪性腫瘍が周辺の組織に癒着していくことで、腫れの動きが悪くなり顔の筋肉が動かしづらいと感じるようになるでしょう。
顔面神経麻痺を発症する例も少なくありません。顔面神経麻痺は耳下腺がん以外の病気でも発生する症状ですので、一概に判断はできませんが、耳の下に腫れやしこりが生じている場合は、耳下腺がんの可能性があるため早めに医師の診断を受けましょう。
特に顔面麻痺が起きる場合は悪性の腫瘍が発生している可能性が高いです。

発症する原因を教えてください。

耳下腺がんが発症する原因は、明確には判明していません。しかし、以下のような要因がリスクとして影響していると考えられています。

高齢であること

頭頸部に対して放射線療法による治療を受けること

職場などで特定の発がん性物質に曝されること

普段から喫煙をしている人

これらのリスクは、耳下腺がんだけでなく他の唾液腺がんにも共通していると考えられています。該当のリスクを持っている方で、耳の下あたりに腫れやしこりが感じられた場合には、早めに専門医に相談するのが良いでしょう。

耳下腺がんは悪性度が高いのでしょうか?

耳下腺がんは、がんの病気の中でもまれなもので、希少がんに分類されています。耳下腺腫瘍の良性と悪性の割合は、およそ10対1という報告もあります。発症自体もまれで、悪性度もそれほど高くありません。
一方、同じ唾液腺がんでも、顎下腺がんでは腫瘍の良性と悪性の割合はおよそ1対1と報告されています。耳下腺がんと比較して、かなり悪性率が高いと考えられています。
しかし、耳下腺においてもがんに発展するケースへの警戒は怠るべきではありません。特に、耳の下の腫れやしこりに痛みを伴っている場合は、がんの可能性を疑いましょう。

耳下腺がんの治療方法

受診を検討するべき初期症状はありますか?

前述のように、耳の下あたりに腫れやしこりが感じられた場合には、耳下腺がんの可能性があります。特に、痛みを伴ったり、顔面の運動麻痺が起こったりする場合は悪性腫瘍ができている可能性があります。早めに医療機関への受診をするのが良いでしょう。
また、痛みがない場合は良性の腫瘍である可能性もありますが、悪性に変異する恐れを考慮して、医療機関に相談に行きましょう。まずはかかりつけの耳鼻咽喉科で受診をすると良いでしょう。
検査結果によって、より専門的な技術・知識のある医療機関を紹介してもらえます。

耳下腺がんの検査方法を教えてください。

耳下腺がんの検査には、超音波検査を用いた穿刺(せんし)吸引細胞診を実施するケースが多いです。穿刺吸引細胞診とは、細い注射針を患部に指して腫瘍細胞を吸引し、検査する方法になります。吸引した細胞の検査をして良性か悪性かの判断をします。
穿刺吸引細胞診だけで病状が確定できない場合やがんの転移の有無を確認するために、超音波検査を実施したり必要に応じてCT・MRIなどの画像検査を実施したりします。

どのような治療を行うのでしょうか?

耳下腺がんの治療は、手術による完全切除が一般的です。がんの進行度によって、切除する範囲を決定します。切除の範囲は、以下のようなケースが多いです。

耳下腺浅葉切除術:表層(浅葉)のみ切除

耳下腺全摘術:耳下腺の組織を全て切除する

耳下腺拡大全摘術:耳下腺だけでなく下顎骨・側頭骨(耳の骨)・顔面皮膚なども併せて切除する

耳下腺の周囲組織の切除したことで欠損が大きくなる場合は、腹部や大腿部から皮膚や皮下脂肪を移植する遊離組織移植を実施します。転移の状況や術後の検体の検査結果によっては、追加で放射線治療を行うケースもあります。

耳下腺がんのステージごとの生存率を教えてください。

耳下腺がんのステージごとの5年生存率は、大阪医科大学耳鼻咽喉科・頭頸部外科の発表した耳下腺がんの治療成績によるとステージIで100%・ステージⅡで97.7%・ステージⅢで71.6%・ステージⅣで51.6%となっています。
顎下腺がんと比べて高い生存率が報告されているため、決して治療できないがんではありません。ただし、唾液腺腫瘍は病理組織型という「がんのタイプ」が多数存在し、診断によって予後が大きく異なります。
同じように全摘できていると判断されたとしても、手術後に病理組織型に基づいて追加治療を要する場合もあります。もちろん、症状が進行する前に治療を開始した方が生存率は高くなるので、異常を感じたら早めに専門医に相談しましょう。

耳下腺がんの早期発見のポイント

耳下腺がんは治る病気でしょうか?

耳下腺がんは、手術により悪性腫瘍を摘出するため、術後は一旦治ると考えてよいでしょう。しかし、再発や転移のケースが多い病気でもあるため、術後の定期的な検診を受ける必要があります。
特に手術後3~4年の間は再発リスクが高いと考えられているので必ず検診を受けましょう。一般的に5年間再発及び転移を認めず経過した場合、完治と判断されます。
再発及び転移が認められた場合は、再び切除が可能と判断されれば、再度手術を実施して腫瘍の切除を行います。切除が難しい場合は、放射線療法や薬物療法にて対応します。

耳下腺がんの早期発見のポイントを教えてください。

耳下腺がんを早期に発見するためには、初期症状を見逃さないことが大切です。耳下腺がんの初期症状は、耳の下や前あたりに発生する腫れ・しこりです。
特に顔面神経麻痺を伴う場合は悪性腫瘍の可能性が高いので、少しでも違和感を覚えた場合は早めに専門医の診断を受けましょう。顔の腫れやしこりの原因は、耳下腺がん以外にも様々あり、自己判断が難しい症状といえます。安易に判断をせず、耳鼻咽喉科にて診断を受けるのがおすすめです。

最後に、読者へメッセージをお願いします。

耳下腺がんは、大唾液腺の一つである耳下腺に悪性腫瘍が発生する病気で、がんの中でも希少がんに分類されます。他の唾液腺がんと比べると、悪性率が低く生存率も高いことが報告されています。
しかし、悪性腫瘍が見つかった場合は早期に治療しないと命に関わる可能性が大いにある病気です。手術による摘出ができれば完治も期待できますので、早期発見早期治療が重要です。周囲への転移が起こる場合もあるため、治療後の経過観察も重要です。
耳の周りに少しでも違和感を覚えた場合は、早めに耳鼻咽喉科で相談を受けてみてください。

編集部まとめ


耳下腺がんは、唾液腺の一部である耳下腺に悪性腫瘍が発生する病気です。症例としては少なく、生存率も高めであるため早期に治療を開始すれば、治る可能性が高いといえるでしょう。

耳の下や前に腫れやしこりが見つかった場合は、耳下腺がんの可能性を疑って、早めに専門医の相談を受けることをおすすめします。

顔に腫れやしこりが発生する病気は耳下腺がん以外にも多くあるため、安易に自己判断をせず専門医の診断を受けて判断することが大切です。

手術を受けて治療を終えた後も、再発の可能性があるため油断せず定期的な検診を続けるのが良いでしょう。

参考文献

耳下腺がん(日本頭頸部外科学会)

もっと役立つ頭頸部がん最新情報(日本耳鼻咽喉科頭頸部外科学会)