世界のエリートランナーたちに交じって日本人7選手が出場

世界トップクラスが記録にチャレンジ

 4月29日に、ドイツのヘルツォーゲンアウラハでワールドアスレティックス公認レース「アディゼロ:ロード トゥ レコーズ 2023」が開催された。現地のアディダス本社周辺に特設周回コースが設けられ、男女別にハーフマラソン、10km、5kmの3レースで世界のエリートランナーたちが記録にチャレンジ。日本からは、旭化成の葛西潤が10 km、中西大翔が5kmに、青山学院大学から太田蒼生、荒巻朋煕、黒田朝日、皆渡星七、宇田川瞬矢が5kmに参加した。

 男子5kmレースには、自己ベストが世界歴代15位となる12分46秒79のヨミフ・ケジェルチャ(エチオピア)、東京五輪6位入賞で自己ベストが12分56秒26のビルハヌ・バレウ(バーレーン)、昨年6月ローマで自己ベストかつブルンジのナショナルレコードとなる12分59秒39を記録したティエリー・ヌディクムウェナヨら、文字通りのトップランナーが集結。日本人選手にとっては、世界のスピードを肌で感じるまたとない機会となった。

青学の太田、黒田が感じた壁

 レース前日、太田は「どこまでついていけるか」をテーマに掲げていると話した。大学1年時から2年連続で箱根駅伝に出場してきた太田も、海外でのレースは初めて。レース運びやタイムではなく、とにかくスタートを重視した結果、フィニッシュタイムは14分31秒だった。「先頭は想定通りのタイムでしたけど、実際に走ってみると体が意外とついていかなかったです。最初の800メートルくらいは先頭集団にいたんですけどじわじわ遅れていって、1000メートルでは先頭から2秒離れてしまいました」と冷静にレースを振り返った。

 それでも多くの収穫があったと話す太田は、レースそのものについてはこう語る。

「駆け引きでめちゃめちゃペースが遅くなったり、ちょっと様子を伺うみたいなレースが僕はあまり好きじゃなくて。僕は自分で行くぐらいの感じのほうが好きなんですけど、ここには自分で出ていく勝負があって、その戦い方の違いがありました」

 様子を伺うのではなく、真っ向勝負の世界は自分好みだと感じたようだ。

 また、ウォーミングアップで海外勢が試合用のシューズを履いていることも気になった。「どうしてそうしてるのかはわからなかったんですけど、自分も一度やってみようと思います。もしそれで何か言われたら、言い返します。ま、結果を出せればいいので(笑)」

 そして、今後につながるレースであったと力を込める。

「きっと今回のレースでは(箱根駅伝を走る)留学生でも難しかったんじゃないかと思います。そういう意味でもトップレベルの選手たちと走れた経験は大きいです」

 今後は、年始の箱根駅伝とその先にある東京マラソン参加に向けて準備していき、将来的には、2028年ロス五輪でのマラソンとその次を狙う、と宣言した。


収穫を手にした太田蒼生。まずは箱根駅伝でのタイトル奪還を目指す

 日本人選手の最上位、14分13秒でフィニッシュしたのは2年生の黒田だ。黒田もレースのテーマはスピードと経験、だった。

「レース自体は、本当にハイスピードのレースになると思っていたので、とにかく行けるところまでついていくことと、今の自分にとって一番いい走りをすることを目標にしていました。あとは、本当にトップの選手がいるこのようなレースを経験できることが一番大きいのかなと思っていました」

 ただ黒田はレースの約1週間前に風邪をひいていた。

「もう本当にタイミングが悪かったというか......」と自分では如何ともしがたい状況での初の海外レース。3日前に現地入りしてからとにかく回復を目指し、なんとか体調を戻して臨んだ。想定していたとはいえ、圧倒されるレースになった。

「最初からハイスピードで、もうスピード的にはいっぱいいっぱいで......。ついていけたのも数百メートルぐらいでした」

 うなだれながらも、やはり楽しそうにレースを振り返る。

「自分のなかでは最低限やれたのかなって思います。でも、レースを終えてみて、やっぱりもうちょっとしっかりついていけるだけのスタミナ、スピードがほしいかなと思いますね」

 その感覚自体、大学のレースでは味わえなかったものだ。「このレベルでついていける距離と時間を少しでも伸ばすこと」と課題を語り、一歩ずつ進化することを誓った。



日本人1位の黒田朝日は総合15位でフィニッシュ

受けた刺激を飛躍の原動力に

 同行した田幸寛史コーチは、普段は経験できないレースの意義をあらためて話した。

「まずは、テレビでしか見たことのない選手を目の当たりにする刺激を感じたと思います。レースではどこまで粘れるかということよりも、痛い目にあうんだけど崩れるなかでどこまで我慢できるか、ですね。

 そのうえでまだまだトレーニングしないと世界とは戦えない、頑張ろうって思ってくれたのかどうかです。選手たちはこのレースを楽しみにしていたし、楽しんでくれました。この刺激を受けた選手たちがさらに強くなって、チーム全体が強くなっていくのが理想ですね」

 4月のドイツでの経験を、箱根駅伝でのタイトル奪還、強い青山学院大学復活のきっかけとしたい。