風間八宏のサッカー深堀りSTYLE

チャンピオンズリーグ準決勝注目のレアル・マドリードvsマンチェスター・シティはどんな試合になるのか。独自の技術論で、サッカー界に大きな影響を与えている風間八宏氏に、レアル・マドリードの特徴と見どころを解説してもらった

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レアル・マドリードのベンゼマ(右)とヴィニシウス(左)のコンビは相手にとって脅威だ

【とてもバランスのとれたチーム】

 5月9日、レアル・マドリードの本拠地サンティアゴ・ベルナベウで第1戦が行なわれるチャンピオンズリーグ準決勝のマンチェスター・シティ戦は、世界中のサッカーファンが注目するビッグマッチだ。

 この両チームの対決は昨シーズンの準決勝でも実現したが、その時は、第1戦はホームのシティが4−3で制したものの、対するレアル・マドリードが第2戦の試合終了間際にロドリゴが2ゴールを決めて2試合合計5−5に。結局、延長前半にカリム・ベンゼマがPKを決めたレアル・マドリードが、大接戦をものにしてファイナルに駒を進めている。

 5月17日の第2戦も合わせ、今回も勝敗の行方が読めない好ゲームになることは必至だが、独自の視点を持つ風間八宏氏は、この注目カードをどのように見ているのか。前回はシティについて解説してもらったが、今回はレアル・マドリードについて聞いてみた。

「ヴィニシウス、フェデリコ・バルベルデ、ロドリゴといった伸び盛りの選手たちが完全にチームの主軸にまで成長しているうえ、ここにきてベテランのルカ・モドリッチやトニ・クロースらも調子を上げてきている。シティもそうですが、年齢的な部分を含めて現在のレアル・マドリードはとてもバランスのとれたチームになっています」

 ここまでの印象をそのように語った風間氏は、続けてレアル・マドリードの戦い方の特徴やストロングポイントについて言及した。

【相手の距離感に合わせて戦える】

「シティは明確な自分たちのかたちを持っているチームですが、レアル・マドリードは、"はっきりしたかたちがない"というかたちを持っているチームです。かたちのない敵と戦わなければならない対戦相手からすると、とても怖いチームだと思います。

 どういうことかと言うと、ボールを握りながら押し込んで攻めるシティのような相手に対しては、自陣でしっかりと守ってゴールだけは割らせないという堅守を誇る一方で、たとえば準々決勝のチェルシー戦のように、レアル・マドリードが相手陣内に押し込んで攻めきることもできる。その両方を実行するための選手を揃えています。

 もちろん、今シーズンのシティも押し込まれていても、しっかり守ってカウンターで仕留めるチームになりましたが、レアル・マドリードはその成熟度がより高く、どんな戦況でもゴールを奪える高い能力を兼ね備えていて、それは昨シーズンの優勝までの勝ち方を思い出してもらえれば、よくわかると思います。

 しかも、レアル・マドリードは相手がどのような距離感で戦っても、まったく問題にしません。縦の距離感が長い場合でもヴィニシウスやモドリッチを筆頭にボールを運べる選手が揃っていますし、クロースの高精度パスという武器もあります。逆に、縦に短い距離感の場合は、ベンゼマとヴィニシウスのコンビネーションプレーをはじめ、パスを回して崩しきることもできます。

 要するに、相手の距離感に合わせることができるという特殊な能力を持っているのが、最大のストロングポイントだと言えるでしょう」

 確かに昨シーズンのレアル・マドリードの勝ち上がり方は驚異的だった。ラウンド16のパリ・サンジェルマン戦は、第2戦の後半途中まで為す術がなかったという状況から、相手GKのミスをきっかけに立て続けに3ゴールを決めて大逆転勝利。アウェーでの第1戦を3−1で勝利していた準々決勝では、ホームでの第2戦でチェルシーに逆転されて敗退濃厚と見られるなか、終了間際に同点に追いついて延長戦で再び逆転に成功した。

 準決勝のシティ戦は前述の通りだが、それら3試合連続のミラクルは、決して運だけでは成し得ない。どんな状況でも、勝利の可能性を残すチームと言える。

【ベンゼマがキープレーヤーになる】

 そんな無類の勝負強さを誇るレアル・マドリードだが、風間氏は準決勝を見るうえでどの選手に注目しているのだろうか。

「おそらくシティがボールを握る展開になる可能性が高いということを踏まえても、レアル・マドリードで攻撃のキープレーヤーとなるのはベンゼマでしょう。

 特にベンゼマはどこでプレーしていても時間を作ってくれますし、シティが彼を消そうとしても、なかなか消すことができないのがベンゼマという選手です。ペナルティーエリアの中で抜群の技術と動きでハイレベルな仕事ができるうえ、自陣に押し込まれている状況でも、彼とヴィニシウスの2人だけでゴールを奪うこともできる。チームとしては、ベンゼマとヴィニシウスがいつも戦える状況を作っておけばいいわけです。

 そのほかの選手で攻撃のカギを握るのは、自由度の高い動きをするモドリッチとクロースですね。同じように自由度の高い動きをするシティのデ・ブライネを「1」とすれば、モドリッチとクロースは2人で「2」でなく、「2.5」の力を発揮することができるからです。

 逆に、守備のキープレーヤーはGKティボー・クルトワです。DFラインではエデル・ミリトンが第1戦を累積警告で欠場しますが、ダビド・アラバも負傷から戻ってくるようですし、代わりはほかにもいますが、クルトワだけは唯一無二の存在。チェルシー戦でもそうでしたが、最後に彼がシュートを止めてくれるので、DF陣は随分と助かっていると思います」

【最終ラインの背後をとれるか】

 では、注目されるシティとの準決勝。レアル・マドリードがその壁を乗り越えるために必要なことは何か? 風間氏がそのポイントを指摘してくれた。

「最終ラインの背後をとりにいくことです。それは、カウンターだけでなく、押し込んだ時にも言えます。そのためにベンゼマをどう生かすか。チームとして、彼の能力を最大限に引き出すような選択をしてくるのではないでしょうか。

 準々決勝のシティ対バイエルン戦にヒントがあります。バイエルンは第1戦でセルジュ・ニャブリが1トップを務めましたが、第2戦では負傷明けの本職マキシム・シュポ=モティングが先発したことでシティのセンターバック(CB)を固定。その結果、右サイドのキングスレイ・コマンがDFラインの裏に抜けてチャンスを作っていました。

 レアル・マドリードはヴィニシウス、ロドリゴという強力なサイドアタッカーがいるので、シュポ=モティングよりもハイレベルなベンゼマがシティのCBを攻撃すれば、十分に背後を狙えると思います」

 果たして、レアル・マドリードのセンターフォワードが試合をコントロールするのか、シティのCBがコントロールするのか。両チームに言えることだが、この準決勝の戦いでは、その攻防が最大の見どころになりそうだ。

風間八宏 
かざま・やひろ/1961年10月16日生まれ。静岡県出身。清水市立商業(当時)、筑波大学と進み、ドイツで5シーズンプレーしたのち、帰国後はマツダSC(サンフレッチェ広島の前身)に入り、Jリーグでは1994年サントリーシリーズの優勝に中心選手として貢献した。引退後は桐蔭横浜大学、筑波大学、川崎フロンターレ、名古屋グランパスの監督を歴任。各チームで技術力にあふれたサッカーを展開する。現在はセレッソ大阪アカデミーの技術委員長を務めつつ、全国でサッカー選手指導、サッカーコーチの指導に携わっている。